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2021年05月16日
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加藤清正家法に耽読事停止之事  

 

 『半日閑話』太田南畝

  一部加筆 山梨県 山口素堂資料室

 

加藤清正家法に耽読む事停止たり。花車風流に成て女のやうになる者に候。此ケ茶疑はし、後人の偽作にや。

清正何ぞ耽読む事停止とどめんやと。思ふに此箇條漬正家法の随一と云べし。

抑歌は我国の風俗にして、世々の朝廷に用られて今に盛んなり。

古今集の序に謂へらく、花に嗚く鶯、水に住む蛙も歌不読と云ふ事有るべからず。

目に見えぬ鬼神も耽を愛し玉ふ。然はあれど朝廷衰へ玉ふ事は、

耽をのみ翫び、武に怠り仏を好み玉ふによれり。

吾国歴代の書は『三代実録』迄にて、

宇多朝より以来は野史稗説等わずかに残りたる許にて、

たしかなる書記なければ、

古代の文絶たる歴史にても迷作し玉ひては、

我国万世の重宝たるべきに、唯歌のみに心を尽し、

著述の事とては歌書、仏書の外なし。

誠に朝家衰へ玉ふ事断りと覚ゆ。

又武家に至て鎌倉右大臣、武を忘れ歌のみ好まれしが、

其終を能し玉はず。

亦奥泉下野守歌道中興の祖と歌人は尊みけれど、武勇の事を聞かず。

細川斎歌道を好みて武を忘れ玉ふにや。

丹後田辺の城に籠りて防戦に心を尽さず、歌読み居玉ふとなり。

歌人より云はば大敵の囲を得ても屈せず、

数寄の歌を詠じ玉ふ事人傑なりと称すべし。

武道より云はば防戦の術を尽すべき時所を不知と云ふべし。

籠城士卒の難儀は幾何なるに士卒を救ふ心なく、

うかうかと歌を読み、長閑に心得玉ふ事、

愚人はよしと云べけれども、聖賢は必ず免し玉ふまじ。

漸朝宗の御影にて命を遁れ玉へど、家には疵を付玉ふと云ふべし。

歌人は玄旨を住吉玉津島の神と同じやうに思ふべけれど、

武道を弁へたる人の尊むべきに非ず。

又若狭少将雅俊は木下肥後守家定の子故に、

若狭の大守と成り玉ふが、

宮にあらざる事を好み、武道の心掛なく、

関が原乱の時、伏見の城に差置しに、

敵を恐れて城を出で、若狭へ帰り玉ひ、

臆病の名を後世に残し玉ふ。

乱の後若州を削られ、東山に閑居し、

長嘯子と号して風雅を好み、歌ばかり詠て世を送らる。

大坂の御陣の時、長曽我部が京に居けるを、

家康公気遣ひ玉ひ、

板倉勝重をして大坂より招ども行かざるやうに、

本知可給と仰遣さる。

又真田幸村高野にある、是又大坂に入るべしと、

浅野但馬守に命じて高野を不出やうにと仰遣さる。

長嘯子は秀頼公の親類にて一方を可堅人なれど、

兼て臆病を知召玉ふ故か。曾て御気迫の御様子なかりし。

歌人は長嘯子書散し玉ふ反古さへ秘蔵されしとかや。

近世歌好む人は武道雄ひ、其行跡和らかに女に類すべし。

又は多くは歌読と云ふて歌読にするは隠世者の慎、

又は仏者の徒也。

如是事を思へば清正の歌読む事を停止せられし事

殊勝なる事なり。

然ど西国の風俗なれば少しは読んと思ひても、

朝暮心を歌道に尽さゝれば成難し。

自ら武道の心薄く成べし。

往古の源三位慎故も歌道の達人なりしが、武道には薄かりしが、

最期の時

「埋木の花咲く事もなかりしに 身の成果はあはれなりけり」

此の歌を見ても、頼政の武勇なかりし事見えたり。

近頃黒田如水軒は英武の聞へある人なりしが、

一生涯宇治頼政の能を見玉はず、

身の成果はあはれなりけりと云やうなる、

周章たる頼政の臆病を、

武士たる者見聞ぬものなりと、誠に格言なるべし。

頼政保元の乱に一家に属しながら、心を両端になし、

終に一家を放れて平家に属し、

其後聯の怒りに依て、高倉の宮を勧めて謀叛を起し、

宮の御命を失はさせ玉ひ、其身も自害す。

弓術の妙を得玉ふやうに云ひ伝へたれど、

先祖光、頼義、頼家には遥かに劣り玉ふ。

頼義・頼光・頼家は弱弓を用ひ玉へど、

放つ先は羽ブクラを呑まずと云ふ事なし。

義家はを引、打物を取て其精妙を得玉ふ。

又平清盛公上﨟と成り玉ふ事、一家皆遊興にふけりて、

朝暮歌の会のみにて武道を取失ひ玉ふ。

忠度は鎧ばたの歌書とて戦場へ携へ、

敦盛は一管の笛を大切とす。武道衰へたる事如此。

義経の八島にて弓を取落し、

小兵なりと笑れん事は口借とて、

命に替て取返し玉ふとは天地の違ひなり。

然と雖も古代の名将名士欲読けるにや。

近代信玄道灌欲を好み玉ふなれば、

耽読に武道の達人なきとは過言と云ふ人有べけれど、

古代の名将名士と謂るゝ人、武道くらきはなし。

信玄道灌の如きは欲をも乱舞をも得玉ふべし。

是等を似するは鵜の真似する鳥なるべし。

歌道は是神道、西朝の道なれば恋歌と云ふに非ず。

士は武芸を尽す弓馬刀槍の術を得たる上なるべしと。

我朝も神国なり。神武天皇武を以て草業を立玉ふ。

神武の掟を背き仏を敬ひ、

明暮歌ばかり読で好色の媒とし、

花車風流を事とする故に、

諸州朝家をうとみ、終に天下の乱となる。

清正恵為治国一の士は花車風流に成安し、

歌読乱舞を数寄ては軍事に疎きとて、

歌読事を停止と家法を立られたる事なるべし。

或人曰、上古朝家の書諸家の記録多かりし事、

本朝書目に見えたり。

然るに多くは絶果て類聚国史も全部せず、

日本後記も全本に非ず、

歌人は並ぶものなきやう云へど、

淫乱不義の事書たるなくてもよかるべき、

源氏物語、伊勢物語の類は伝りぬ。

芝蘭は植れども生じ難し、

名もなき野草は払へども尽ざるに等し。






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最終更新日  2021年05月16日 19時26分09秒
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