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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2021年06月09日
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カテゴリ:山口素堂資料室

来雪庵記(法橋能悦恵隆 著)

今はむかし、百歳(ももとせ)の星霜をふり積りても名はうづもれぬ、素堂翁来雪師といふ人、生れながらにして智し。和漢の才ひろく、其の初は忍ぶの岡の麓の蓮他の辺に住みて、濁りに染まぬ心もて、垂乳根に孝行の余力あれば、詩文を愛しみ、大和歌.連歌の奥ふかくたどりて、俳諧を口遊み、菷木々のあるか此の世を悲しみに堪ず、剃髪の姿となりて深川の辺に庵をむすびて、秋の徒然には琴をまさぐり、知音(己)を求むるに近隣に芭蕉翁閉居し侍りければ、壁の透間に煙りを渡したる心地して起臥を伴ひぬ。其角・嵐雪など云へるも招かずして集会し、ある時は菊乃宴を催し、秀逸とも今の世にも義歎しはべりぬ。

 

素堂の事

素堂師はじめは来雨とか云へるを、口宿もあらなくにと言うを、袖うち払ふ陰もなしと詠みかへたる、佐野の渡りを思よせて自り、来雪をば改めしとかや。

隣友を失ひし後は聞知もなしと、琴の緒は絶ち侍れども、猶俳諧の奥は世に残さん事を黒露師に口授して、其の身は古来まれなる年も過ぎ、明日しらぬ命は風の前乃花の本にて春死なんと読まれし言の葉、月のかげに誘ひ引かれ、西の空に迎へを願はれしまゝ、享保始めの年中の秋野に消へ給ひぬと語る。

 

佐々木氏何某、幼きより漢大和の文を読むに、蛍を集め窓の雪に詠吟して月日を送り、父の口につけて飛州に趣きしころ、かの黑露師に面会して師弟の約をなし、朝夕に風雅を好み侍る執心をみて此の師風義を口授して、其の流れを残すためなれば素堂と成し侍らんと云ふに、師の命いなみ難く来雪とは付け侍る。

さるにても、先師の高名を汚さん事身に負はぬ心ちして、功つき家に杖つく齢にも成り侍らば、素堂とも成し侍らんと紛れさし後ち、此の師も八十年余にして空しく成りぬ。かの蓮言忘れじと学び怠らず、公のこと繋き仕へして、国々に行帰る旅泊の感情を歌枕とし、都にある時は風月乃祖神に歩を運び、古風を吹き直すとしかなと祈り、予にも事の由を告げて此の顧ひ多年に及べり。


佐々木氏、素堂継承を望む


 去年より此の京に在りしが、東の側に住はる人前のゆへ有るにや、来雪の流れを汲み侍りつるとて、自分から素堂とならんと言へる由、友どちより数多度告げて、深川の深さ浅さもたどらず伝へたる根ざしもなくて、何のあやめも分からぬ与所に引とらるべき名にはあらずと、頻りに改名を進め侍る数の玉章なれば如何せむ、自称とや思はんと定めかね侍ると、予にも此の由を間度ひぬ。

素堂の木像見出す

壮年にて給せられしこゝらの年も越ゆる期の五十じ余りなれば、惑はずして進めに任せ給へと云ひ添へ侍るにつけて、去年の師走二十日あまり四日に来雪庵素堂と成しと、友どちの方へ告げ知らせ云ふ同じ日に、あやしの木像を市人に求め得たり。只人ならぬ霊像なればと煤けたるを洗い滑るに、老翁かの絶絃を抱き、琴面を撫る終なり為とやらん。

漫(そぞ)ろにゆかしく安座の裏を見るに、蝕み残る文字あり。年来位し云ふ素堂の尊像疑ひなし。思はざりき此日に当りて、爰に願向し給はんとは、正しく風義を弘め伝へよと、年を取りて師の教へ云ふならし。□には年比の願いを満して云ふ、尊神の加護浅からず。是につけ彼につけ感涙の袖を干しあへず、聞かんさへ鼻うちかみぬ。

吾幣奉り、手向のため武蔵野谷中瑞音院中に庵を卜して月次の会を催し、永く聖廟に捧げ奉らんの趣意を述べよと、我に乞ひたまへと口拙くかき集めんとし、腑の種々恥を残さむを辞し侍ど、神徳の燿やかん事は社司の願ふ所ならずやと、すゝめにいなみ並て僻事書き綴りぬ。

糸は柳の末ながく、若竹の世々こめて根さへ枯めや、自気乃散り失せぬ言の葉、もてはやす月並の詠めに、心のあへる友の寄り来る雪の□と云ふ事しかり。

 安永八のとしきさらぎ日    洛北梅真花下

              法橋能悦恵隆  花押

 






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最終更新日  2021年06月09日 15時37分47秒
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