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2021年07月04日
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『野晒紀行』素堂跋(その一) 山素堂

こがねは人の求めなれど、求むれハ心静ならず。色は人のこのむ物から、このめば身をあやまつ。たゞ、心の友とかたりなぐさむよりたのしきハなし。こゝに隠士あり、其名を芭蕉とよぶ。はせをはおのれをしるの友にして、十暑市中に風月をかたり、三霜江上の幽居を訪ふ。いにし秋のころ、ふるさとのふるきをたづねんと、草庵を出ぬ。したしきかぎりハ、これを送り猶葎をとふ人もありけり。

何となく芝ふく風も哀なり    杉風

他ハもらしつ。此句秋なるや冬なるや。作者もしらず、唯おもふ事のふかきならん。予も又朝かほのあした、夕露のゆふべまたずしもあらず。霜結び雲とくれて、年もうつりぬ。いつか花に茶の羽織見ん。閑人の市をなさん物を、林間の小車久してまたずと温公の心をおもひ出しや。五月待ころに帰りぬ。かへれば先吟行のふくろをたゝく。たゝけば一つのたまものを得たり。

そも野ざらしの風は一歩百里のおもひをいだくや。富士川の捨子ハ其親にあらずして天をなくや。なく子は獨リなるを往来いくはく人の仁の端をかみる。猿を聞人に一等の悲しミをくはえて今猶三聲のなミだだりぬ。次のさよの中山の夢は千歳の松枝とゞまれる哉。西行の命こゝにあらん。猶ふるさとのあはれは身にせまりて、他はいはゞあさからん。誠や伯牙のこゝろざし流水にあれば、其曲流るゝごとしと、我に鐘期が耳なしといへども、翁の心、とくくの水うつせば句もまた、とくくしたゝる。翁の心きぬたにあれば、うたぬ砧のひゞきを傳ふ。昔白氏をなかせしは茶賣が妻のしらべならずや。坊が妻の砧ハいかにて打てなぐさめしぞや。それは江のほとり、これはふもとの坊、地をかゆともまたしからん。美濃や尾張のや伊勢のや、狂句木枯の竹斎、よく鞁うつて人の心を舞しむ。其吟を聞て其さかひに坐するに同じ。詞皆蘭とかうばしく、山吹と清し。しかなる趣は秋しべの花に似たり。其牡丹ならざるハ、隠士の句なれば也。風の芭蕉、我荷葉ともにやぶれに近し、しばらくとゞまるものゝ形見草にも、よしなし草にも、ならばなりぬべきのミにして書ぬ。

 

『芭蕉文集』

…この跋は濁子本『野晒紀行畫巻』素堂跋と殆ど同様である。(発行、岩波書店。杉浦正一郎氏・宮本三郎氏・荻野清氏共著)

 

『野晒紀行畫巻』

…中川濁子が畫を加え、素堂の跋と芭蕉の奥書がある。

 






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最終更新日  2021年07月04日 10時44分25秒
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