カテゴリ:山口素堂資料室
発句 「ふれるとふれぬ」
(『魔詞十五夜』)山口黒露 摩詞十五夜(まかはんや)素堂三十三回忌追善集
ある日、雪中庵へ門生の人の来て閑語するとて、
発句に「ふれるとふれぬ」と申は、いかやうに会得申さんやと問けるに、雪中庵の答に、西行の詠を引て、梅には人のなつかしく桜は人のいとはしき、是さくらと梅のふれさる所時鳥と鶯も准して工案し給へと也、問ふ人申しく合点せぬ顔つきにて黙せし時、氷花居合られ出て云、 先刻より次にて聞侍るに、ふれる句ふれぬ句の境を御尋ね有、師(芭蕉)をさし置さし過たる御物語に侍へれ共、差当我ら極て文盲故取捨をは御心に任ス故事の証歌と申はしらすかし、雷電の謡を見るに、管家雷と成給ふて法姓房の許に来り給ひ、しかじかの事有てしかじかの事に及ひ侍る、其折帝より召有とも診り給ふなと頼み給ふ、僧正の日深き御契りから診申まし、されと勅使三度に及なは参らては叶ふましとの給へは、怒り給ふ御顔はせにて、御前に在ける柘榴(ざくろ)を取てかみ砕き、妻戸に活と吹かけ給へは猛火と成てもへ上るを、御房潮水の印とやらん結て投し給へはめう火忽鎮りしとや、此時の菓子真桑瓜やまんちう(饅頭)にては火にならす、柘榴の色相形容思ひやりては必至と柘榴栽と極め候といひしに、問人も合点せしうへ、風雪もうなつかれし、戯語にて拉笑語ならす、近く噛をとるを何の道也と孟子の語、誠に水花はいちはやき発明なるへし。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年09月27日 05時54分01秒
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