カテゴリ:山口素堂資料室
素堂69才 宝永七年(1710)『葛飾序』--芭蕉十七回忌追善集--
今はむかしの友はせをの翁、 十暑市中に風月を語、 七霜かつしかの隠れ家にともなふ。 さすがに葛飾は万葉集に、 赤人墨丸の詠を残されしより、 其名もかうばしく、 金城をさること遠からず、 富士筑波を両眼にながめ、 上野浅草の花の雲、 出る舟入る舟眺望たやすくいひがたし。 いつそかつしかをことごとく見廻りなんと、 ことぐさにのみいひて、 風雅のことしげきにやまきれけん。 とかくするうちにふと行脚の心つきて、 行ては婦り、かへりてはゆき、 三たびにおよぶ頃、 ついになにわの浦にて身まかりぬ。 ことし十七回にあたりぬれば、 門人したしき友、かつしかの志つがんと、 日頃は名をだにしらぬ所々を、句 につづりて手向草となしぬ。そ もそも此翁の生涯宗祇法師にさも似たるをもつて、 髭なき宗祇ともいへり。 謝霊運の髭をうらやみ、 玉摩詰が像に植しためしもあれば、 宗祇のそりおとしにてもあらば植まほしけれど、 尺八もたずの宗祇とやいはん。 只あり芭蕉仏といふことしかり。
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最終更新日
2021年11月13日 18時30分17秒
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