★考え方の目線は何処に?
「獣害を転じて福となす~雅(まさ)ねぇと中国山地の物語」最初にNHKスペシャルのこの題目を見て勘違いして、見るのどうしようかなぁ‥と思ったまま見始めた。勘違いしていたのは、中国山地と書いてあるのに、勝手に国である中国だと間違えたことである。始まって日本人ばかり出てきて初めて、あらっ、日本の中国地方のことだったと、認識したのである。米とか野菜を作っている農家の人たちの、動物による被害は深刻である。柵を作ったり、かかしを立てたり、ネットを張ったりと、色々な対策をしていることは、知っているのだが、対策を立てても被害は減らず、どちらかというと、焼け石に水状態じゃぁないかと‥。でも‥その対策で上手くいかないから、被害も減らないのだろうなぁ‥。私になんらかの策があるわけでないから、見守るしかない。するとこの番組で、目から鱗が落ちる発言を聞いた。正に逆転の発想だった。ここでの主人公の「雅ねぇ」の考え方が凄かった。獣害研究家の雅ねぇ‥73歳。国の研究機関に勤めていた獣害対策の専門家である。雅ねぇ‥だから女性だよね、と思っていたのだが、どうやら男性みたいだ。国の研究機関を定年退職するまでは男性として勤務していたようだが、退職後、自分で雅ねぇと名乗り全国で活躍している。この人にとって、自分の自然体の姿が、女性なんだろうと思う。見た目を女性に飾るわけではないのだが、楽な生き方をしたいと思った結果が、自分を雅ねぇと言い、男性?女性?と分からない恰好で活動している。日本には、いずれ消滅する可能性がある集落が、全国に約3,200ヶ所もあるという。その過疎地区で頑張ってやっている田畑を、イノシシや猿やタヌキに荒らされて、農家の皆さんは撤退も視野に入れつつ、踏ん張っているのである。その農家さんたちのお助けマン的存在なのが、雅ねぇの知識なのである。今回取り上げていたのは、獣害の被害が多い岡山県美咲町。この町は、特に深刻な獣害に悩まされ、人口減少率が岡山県でトップになってしまった町なのである。住民にインタビューをしていたのだが、「獣害に勝てた地域があったら、勉強に行きたい」と答えていた。そういう声を聞いて、全国何処にでも出掛ける雅ねぇ(井上雅央さん)だ。雅ねぇを呼んで、農家の人たちに集まってもらい、町長の挨拶から始まった。挨拶の内容が、町として今年度も獣害対策に力を入れるという話しだ。猟友会駆除会員の新たな加入促進と、新規狩猟免許の取得経費の全額負担。狩猟免許更新に対する経費を、一部補助する制度。箱ワナを新たに20基貸す等々‥。そして、雅ねぇが登場してお話ししたのだが、これが町長の挨拶をひっくり返すような話しの内容で、痛快だったし、非常に関心した目線での話し方だった。人間目線での考え方を捨てさせ、動物目線で話したのである。「人間が自分の畑を使って、イノシシの餌付けに成功しただけ‥。というのも最初は1匹のイノシシだったのが、翌年には5、6匹と、増えているのは、イノシシの子育てを助けているようなものだ」と言う。「主役は、農家や住人でなければならない。だから柵を作ってあげました‥ではない。柵を何キロ補助しました‥でもない。だって柵を作っても、その柵の中でイノシシが走り回っているのだから‥。」「これは獣害対策をしたフリ‥イノシシ対策でなく議会対策です。」と言う雅ねぇの言葉に、会場内が大爆笑‥町長たちは苦笑いになった。この後の町長のインタビューで、町長も反省する。「何頭捕れたと言っても、被害自体は減らない。被害が減って初めて効果が有ったと言えるのだから‥。」「開会挨拶で言ったことを思いっきり否定された。これは頭から考え直さないと‥。」町長は雅ねぇの言葉を真摯に受け止めていた。ここから雅ねぇの実践になる。会場を出て農家さんの畑を回る。「柿の木が3本とか5本とか有る人は覚えておいて欲しい。これは餌付けの最中‥放ったらかしにすると美味しいと食べていく。」いやいゃ‥この話しは、私にも響いた。今は柿の木1本なのだが、数年前は柿の木3本とみかんの木を1本所有していた。会社へ行っていると管理が出来ないので、柿の木を1本だけ残して、後は切り倒してしまった。みかんの木など1本の木で300個とか生ったりするのだが、食べるのは家族の中で私だけ‥近所におすそ分けしようにも間に合わない。果汁で保存できるものを作るわけでもないから、ばっさり切ってしまった。柿の木も同様である。その4本の木が有る時、遠くでタヌキ?ハクビシン?を見たことがある。私はその時自分の木に問題があると思わず、結構都会になったというのに、まだ動物が出るんだなぁ‥と他人事だった。そうか‥我が家には甘柿が3本、食べきれずに熟した実が落下している。これって私が餌付けしていたんだ!私に問題が有ったんだ‥。一回しか私は見なかったのだが、今でも鮮明に覚えている。他に、畑の一角に捨てた野菜くず‥出荷出来ず食べきれない野菜たち。これもタヌキの恰好のエサ場になっていると、雅ねぇは言う。「人間が品種改良した美味しい野菜を食べたら、動物は山に戻ろうとは思わない。動物を増やした犯人は、人間なのである。」この言葉に、ぐうの音も出ない。動物目線で考えることが、動物を山に帰す最短の道であること。自分の考え方から少し離れて、相手目線の考え方をすることが、解決策に繋がる場合も有ることを、私は雅ねぇから教えてもらった。