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カテゴリ:アメリカ映画
どうして、彼らは死んで行くのか。
つい、さっきまで、 隣りにいたような気がする。 その絵を見れば、まざまざと それを描く夫が浮かぶだろう。 だが、彼女の夫の死刑は執行された。 ジョージア州立刑務所にて、 死の間際まで付き従ったのは、 看守のグロトウスキ親子、ハンクとソニー。 息子の部屋、息子の車、息子の写真。 あの日、ハンクの息子は、胸を拳銃で撃ち抜いた。 真っ白いシャツはさぞかし、 血に染め上げられてしまっただろう。 彼女の夫は、 ローレンス・マスグローヴは、 家族に最後の電話をかけられぬままだった。 レティシアと息子のタイレルは、 ずっと、待っていた、その電話を。 タイレルという少年は、 自分というものが制御出来なくなっていた。 甘いものを摂りすぎている。 道の端を歩けないから車に引かれて、 どんなに叱られてままならないから、 彼もまた、母を残して死んでしまった。 血に染め上げられたハンクの車。 雨が降りしきる日に、レティシアとタイレルを乗せた。 それが二人の出会いだったが、 ただ、出会いと一言で片づけられないものがある。 レティシアの夫が最後に描いた絵は、 ハンクとソニーの親子。 似ていない親子だが、絵はとてもよく似ていた。 どうして、 彼らは死んで行くのか。 逃れられぬものとはわかっていても。 つい、さっきまで隣りにいた者たちが、 もうどこにもいなくなる。 残された者の哀しみは、 慟哭で、癒せるものでもなく、 ただ、ボッカリと穴が空くだけなのだ。 わかりあえぬのだ。 レティシアとローレンスとタイレルは、 最後の言葉を交わすことなく。 看守という仕事と人種差別を父親から受け継いだハンクと、 看守にはなったが、差別は受け継がなかったソニー。 わかりあえぬままに。 埋まらぬ距離を保ったままに。 ハンクは、純粋に彼の死を悼む黒人の子供たちに、 幼い少年二人の瞳の中いる息子の姿を見る。 さっきまで隣りにいた。 わかりあえぬまま、去った人たち。 ポッカリと空いた穴。 ハル・ベリーとビリー・ボブ・ソーントンの距離が、 レティシアとハンクの微妙な関係を演じきる。 好きとか、嫌いだとかの明白な感情はどこにもない。 ただ、もっと、わかりあいたかったのだ。 自分でも、持てあますような想いや、 我が儘や、理不尽さがあるのは承知の上で、 それでも、もう少し もう少しだけでも、 わかりあいたかった、のだ。 わかりあえるかではなく。 わかりあいたかったのだ。 わかりあえぬまま、死んでいった者たち。 彼らとわかりあえることは二度とない。 だが、レティシアとハンクは肩を寄せ合う。 生きているのである。 生きていれば、いつか、 わかりあえる日がくるかも知れない。 それを、希望と名付けてもいいのだと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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