テーマ:映画館で観た映画(8563)
カテゴリ:日本映画
乗り越えられないものがある。
乗り越えられず鞄を持ち去っていく、 去らなければならなくなった者たちよ。 残された時間はあまりにも短い。 だが、わずかでも癒されただろうか。 ロンドンで演奏会を成功させた如月敬輔は、 路上で父母を殺された少女を助けた。 その時、指の神経が断裂し、 彼のピアニストとしての人生は終わる。 だが、一人残された少女、千織には、 一度聞いた旋律を完璧に再生できる能力があった。 彼女と保護者となった敬輔は二人で、 全国の施設を回り、演奏会を続けていた。 事件から5年たち、 二人は小さな島の療養センター訪れた。 そこに、岩村真理子はいた。 脳に障害のある患者たちの世話をして 忙しく毎日を生きていた。 「如月先輩」 好きだった敬輔との再会を喜び、 人見知りの千織ともすぐに、うち解けていた。 姉妹のようにじゃれ合う二人、 しかし、落雷による事故で、 千織をかばった真理子は大怪我をしてしまった。 「私、千織ちゃんじゃありません、真理子です!」 集中治療室の真理子が、 意識を取り戻した千織の中にいた。 真理子と同じ口調で、 真理子しか知らないことを話しだす。 透き通るような青い海と広い空の下で、 真理子にとって、不思議な時間が流れだす。 短くはかない、奇蹟のような時間が。 浅倉卓弥の小説が原作、 舞台や真理子の視点を強めて以外は、 原作に忠実に物語りは進む。 佐々部清監督の演出は、オーソドックス。 千織役の尾高杏奈が真理子役の石田ゆり子と 同じ口調で演技し、二人の俳優が入れ替わる。 如月啓輔役の吉岡秀隆も正面からの演技、 真理子に聞かせる最後のピアノも、 たぶんに幻想的な原作に比べて、 役者を素直に撮ることで奇蹟を生み出している。 岩村真理子。 愛しい人と結婚して、 老舗の旅館で充実した日々を送っていた。 けれども子どもに恵まれず、 自ら鞄に荷物をつめて出て行った。 如月啓輔もまた、左手の手袋を手放せない。 もう以前のようには弾けなくなった手、 ピアニストにはもう戻れない。 乗り越えられないものがある。 千織の身体を借りて手にした真理子の心。 彼女の心は、この短い時間の間に、 乗り越えられなかったものを乗り越えていく。 原作には後日談として 療養センター設立の経緯が描かれていたが、 映画の方はラストシーンのみである。 だが、教会のステンドグラスに刻まれた名前は、 千織の両親の心であり、 真理子の心も千織とともにいた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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