テーマ:レンタル映画(818)
カテゴリ:アメリカ映画
帽子から覗く憂いを秘めた目線の角度、
完璧に背広を着こなす背中。 銃を振り回し恫喝と脅迫を繰り返すギャングの中で 彼はただ一人、正論を述べていた。 街を牛耳る自分のボス、レオに対しても。 格好いい男である。 ガブリエル・バーン演じるトムという男。 アイルランド系のギャング、レオの片腕である。 この男が格好良さは、 外見だけではない。 イタリア系のギャングのボス、 キャスパーが、レオの元に乗り込んできていた。 彼の要求はバーニーという男を消せということだった。 その男はキャスパーの仕組んだ八百長試合を、 滅茶苦茶にして利益を台無しにしたという。 これはギャングの世界では裏切り行為、 至極当然の要求であった。 だがレオはその要求を拒否する。 バーニーはレオの持つ高級クラブで働くヴァーナの弟で しかも彼女をレオは愛していた。 舞台は1929年のアメリカ東部、 男たちは女と銃と酒を嗜み、 市長も警察署長も暗黒街のボスの言いなりである。 トムは女を理由にバーニーを守るレオを見限り、 キャスパーに味方した。 バーニーの居所を探し出し、 仲間になる通過儀礼として 彼の殺害を命じられる。 ミラーズ・クロッシング 枯れた細い木が続く落ち葉の敷き詰められた森、 ギャングはそこで処刑を行う。 みっともなく命乞いをするバーニーは、 死を与えられるに等しい裏切りを犯した。 トムは彼に向かって引き金を引いた。 ヴァーナは弟のためにレオに与え、 トムへは愛と打算を同時に抱きながら近づく。 彼は女の思惑を知りながら 自分のボスの気持ちも知りながら、 唇を重ね、ベッドを共にしていた。 帽子から覗く憂いを秘めた目線の角度、 完璧に背広を着こなす背中。 情に溺れる者や権力を追い求める者の中で、 トムだけが冷静な判断をしていた。 愛情のための選択をし、 正論のための選択をする。 そして義のために最後の選択をした。 この男は最後の最後まで揺るがなかった。 だから格好いいのだ。 ヴァーナの弟、バーニーという男は、 根性が真底腐っていた。 キャスパーを裏切って自分を救ったことをネタに トムを脅しに彼の前に現れていた。 ヴァーナのためにもと救った命は、 全く価値のないものだったのである。 コーエン兄弟のフィルムノワール、 絶妙の間合いと褪せた色合い、 淡々としたカメラワークが独特の雰囲気を作り出す。 ガブリエル・バーンのボスを演じる アルバート・フィニーの存在感が世界を引き締める。 救いようのない小悪党バーニーは、 ジョン・タトゥーロが上手く演じている。 情けない命乞いをしながらも 命の恩人を脅しのし上がろうとする身の程知らず、 全く同情の余地のないバーニーを作り上げた。 トムの選択。 顔色ひとつ変えずに暗黒街の男を騙し抜き、 愛する女への情を残しながらも 最後に選択したのは、最も信頼するボスへの忠義。 彼は冷静に正論を全うした。 決して揺るがず。 トムはヴァーナと結婚するレオに別れを告げる。 愛も権力も得ることなく、 一人、舞台から去っていく。 何から何まで格好いい男。 だが、トムには欠点がある。 バクチにはからきり弱かったのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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