テーマ:映画館で観た映画(8561)
カテゴリ:合作映画
「ダーウィンの箱庭」
ヴィクトリア湖がそう呼ばれていた頃、 きっとさまざまな種類の魚で あふれていたことだろう。 その湖を地上とだぶらせてみれば、 この湖のどれだけ異常が見えてくる。 半世紀ほど前、 ナイルパーチという大きな魚が、 ヴィクトリアの湖の魚たちを駆逐してしまった。 「大きな」人間が 「小さな」人間を 「駆逐」してしまったとしたら、 そこはもう、異常な世界だ。 アフリカ、タンザニア。 ヴィクトリア湖畔の街、ムワンザでは、 ナイルパーチによって一大産業が築かれていた。 湖から魚を引き揚げる人々、 工場で加工する人々、 加工品を輸送する人々。 やがて店頭に並び、私たちの食卓へ。 単純にも見える流通ルートである。 だが、そのルートの脇には、 エイズで死んでいった若い女性が立っている。 あるいは、粗悪なドラッグを嗅ぐストリートチルドレン。 アンモニアガスによって、 眼球が落ちてしまった女性もいる。 そんなに遠くない場所に、 戦争で命を落とした人々の顔が見える。 みんな、ナイルパーチの流通ルートとつながっている。 グローバリゼーション。 国や地域という境界を越えたつながりが強まることは、 一見、素晴らしいことのように見える。 素晴らしい部分も確かにある。 そして、私たちは 素晴らしい部分しか観ようとしないところがある。 何事にも闇があるのだ。 ナイルパーチを引き揚げるのにもボートがいる。 しかし、誰もが持っているわけではないのだ。 大きなナイルパーチの加工工場。 しかし、誰もが勤められたわけでもないのだ。 ナイルパーチ、食用にもなる巨大な魚。 しかし、値段が高すぎて現地では食べることが出来ない。 何もかも、すべてに行き渡るはずがないから、 行き渡らなかった者たちの選択は限られてくる。 フーベルト・ザウパー監督は、 街の生の姿を拾いそのまま映像にした。 夜、建物の片隅で、二人の子供たちが 心を落ち着かせるように吸うドラッグは、 ナイルパーチの梱包材を溶かしてつくったものである。 二人はそれを吸引してやっと、 自分たちの中の不安を落ち着かせているように見えた。 「大きな」人間が「小さな」人間を「駆逐」していく。 ヨーロッパへと ナイルパーチを運ぶ飛行機から、 大量の武器が見つかったという。 本当ならナイルパーチを積むために、 からっぽであるはずの飛行機なのだが。 いまなお続くアフリカの紛争、 使われている武器が 受け入れる入り口になれるのは、 社会のシステムが崩壊している場所のみ。 大都市の空港で行われる厳しいチェックが、 行われないのなら武器もまた流通して当然。 アフリカがアフリカを壊している。 得をしているのは 戦争で儲けている人たちだけ。 さて、ナイルパーチである。 主にヨーロッパで流通している魚であるが、 日本でも「白スズキ」として食用されていたという。 お弁当、給食、レストランの白身魚として 使われている場合も多い。 流通ルートをめぐって日本にやってきたナイルパーチ。 だが、そのルートの脇には、 エイズで死んでいった若い女性が、 粗悪なドラッグを嗅ぐストリートチルドレンが アンモニアガスによって、 眼球が落ちてしまった女性がいる。 そんなに遠くない場所に、 戦争で命を落とした人々の顔が見える。 この映画を観たあとに、 何も言えなくなった。 グローバリゼーション。 ナイルパーチだけじゃないのである。 「ダーウィンの悪夢」公式サイト お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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