狛犬
「笑っちゃいなね、そのほうが楽しいから。」そんな風に言われたのは、苔むす狛犬よりも、ずっと怖い顔をしていたから。自分の意味について考えてたんだ。返らない言葉に、行き場のない気持ちが、空に解けて消えてしまえばいいと思ってた。鼻先をくすぐられた狛犬が、くすぐったそうに笑ってた。目だけでにやりと笑ったその顔が「考えたって、しょうがないさ」と言っていた。思い出しても、考えても、何も変わらない。終わってしまったものは、元には戻らない。苦いぎこちなさと一緒ではあるけれど、笑ってしまった。そうか。妙な納得だけして、もう一度笑ってみる。雨ざらしの狛犬は、目が合うともう一度だけ、にやりと笑った。