南風一の世界

　　この世で語らないこと　　　　　　南風一

今朝通勤の途上で
交差点の赤信号に引っかかったので
電柱の横に自転車を停めたら
運悪くカラスに糞尿を落とされた

ブレザー上着の右袖の肩あたりに
緑と白の糞尿がべったりと付いて
余りに悲惨だったので
信号を渡ってすぐにタオル地のハンカチを出して
糞尿を拭きとったが
布の汚れと染みは残ったままで
交差点で信号待ちのたびに
上着の右袖の肩あたりの汚れが目立っていると思うと
なにやら情けなかった

会社に着くと急いで洗面所に駆け込んで
水で上着の糞尿を拭いてみたが
汚れの跡が染みになって
結局自宅に帰って洗濯しない限り汚れの跡は消えないかと
落胆した

通勤途中で鳥に糞尿を落とされたなんて
どうでもいい話だし
殊更職場で言いふらすようなネタでもない
よってブレザーの右袖に糞尿を落とされたことを
職場の人たちは知らない
別にそんなことを知らなくても何の変りもない
私の職場のキャリアはそのままだし
職場の人たちがそんなドジでどちらでもいい話を知らなくても
私の評判も職場の雰囲気も何も変わらない

同じように
私の母も特に語らないままに向こうの世界に持って行ったものもあるだろう
私の大学の恩師はゼミテンに遺稿集を残してくれたが
その遺稿集で語らなかったことが沢山あっただろうと想像する

この世で語らなくてもよいと思うことは
幾らでもある

（詩集の宣伝）
「青春１７切符＋１」３月２６日発売。
購入は、
こちらからどうぞ
詩が良かったと思う方は
人気blogランキング