sweet storm

王さまが息を引き取る１時間ほど前だったでしょうか。
何も出来ないのがもどかしくて、
「背中をさすってあげようか」と王さまに言うと、
「うん」と返事があり、少し横を向かせて背中をさすりました。
前日にはこうやって何十分も背中をさすらなくてはいけないほど
痛み止めが効かずに痛みを訴えていましたが、
もう、そのときには、しんどいというだけで、
強い痛みは感じていないようでした。
ひょっとしたら、薬が効いていたのかもしれません。
でももう、痛みも感じなくなっていたのかもしれません。
二三回背中をさすったら、「もういい」と言われました。
背中をさすっても、楽にならなかったのでしょう。
そのとき、王さまの肺には四分の三ほどの水が溜まっていました。
月曜日のお昼のことです。
土曜日にも日曜日にも水なんて、そんなになかったのに。
急激に水が溜まってしまっていました。
その画像を見せられた時、これでは、陸で溺れているようなものだ。と思いました。
そして、医学的な知識の無い私にも、もう長くない、
もってあと数時間だろうということが分かりました。
水を抜くことも出来るそうですが、体への負担の方が大きいと説明を受けました。
それよりも、静かに逝かせてあげるほうがいい。
こうしている間にも、声をかけてあげてください。と言われました。
色々なことを王さまに言いました。
何を言ったらいいのか、わからなかったけれど、とにかく言わなくてはと思い、
どうしたら、王さまが少しでも楽に逝くことができるかとそれだけを考えて、
よくがんばったね、ありがとうね。もう、がんばらなくていいからね、
ももちゃんのことは任せてね。しっかり育てるからね。大丈夫よ。
ありがとうね、私を幸せにしてくれてありがとう。
いつもいつも幸せだったよ。
いつもいつも、今が一番って言えるくらい幸せだったよ。
本当にありがとうね。幸せだったね。
でも、もう少しよ、もう少しだけがんばって生きてね。まだ早いよ。
まだ生きてるって言って。まだ生きてるって。昨日みたいに言って。
手を握り、とにかく話しかけました。
そして、握られた手から反応が無くなり、
何かゴホゴホと声がしたので、「何？何か言うことがあるの？」と聞いたら、
「心臓が殆ど止まり、今はけいれんしている状態です」と説明されました。
あわてて、王さまを呼びましたが戻って来ませんでした。
なぜでしょう、あんなに強かった人が、
容態が急変してあっという間に逝ってしまうなんて。
でも、王さまは本当は弱かった。
本当は、一人で病気と闘うのが怖かった。
でも、病気だから恋人も作ってはいけないし、結婚もしてはいけないと思っていた。
それでも、私と出会い、結婚して、二人で、ももちゃんが生まれてからは三人で闘った。
私、がんばったよね、王さまを幸せにしてあげられたよね、
病気だったけど、長い闘病生活だったけど、幸せだったよね。
私たち、生まれて来た意味があったよね？
王さまの命は短かったけど、意味は十分にあったよね。
私も、王さまと一緒に闘えて、生まれて来た意味があったと感じられました。
王さまと一緒に闘う為に生まれてきたのだとずっと思ってきて、
とても充実した人生になった。
王さまを幸せにしてあげられて良かった。
王さまの役に立てて良かった。
毎日、王さまに感謝して生きています。

「私と結婚して幸せ？」
「何をばかなことを聞くんだ。当たり前のことを聞くな！」
結婚して２ヶ月のときの王さまとの会話です。
引っ越しの準備中、なぜか思い出しました。
少し、感傷的になっているのかな。