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カテゴリ:ほんとのことだけど…お話
→→(前)からの続き
彼はスピーチを始める前にもう一回私のところに来て同じことを言って取りあえず会場に入っていった。 スピーチが始まってしばらくの間、私は会場外で入場者の出迎えをしていたが単純に頭がそのことで一杯になった。笑顔の接客が甲を奏したのか?それとも、こんな白い人だらけの場所で頑張っている一人のアジア人として好意をもたれたのか?まさか、ただのナンパじゃないだろうな。ちょっとした有名人に個人的に誘われると言うのはどういうことだろう。しかも、相手は政治家だ。もしこのコネクションがいい方向に向かえば私の将来にも大きな飛躍になるかもしれない。しかも、議事堂の裏とか見れるチャンスなどそこらの留学生上がりの外人にはまず来ない。うーん、うーん…。 そうか、友達を連れて行けばいいか?ベスは政治に興味あるし行きたい、って言うに違いない。もしこれがただのナンパだとしたら、でもこのコネクションのチャンスを逃したくないとすれば、取り合えず旦那がいるとか言わない方がいいかな?旦那がいると言えば、一発でチャンスが飛ぶ可能性が高いし、DCを案内してもらった後に旦那がいる、と言う手もあるし…。っていうか、自分を身体じゃなくて人間として好意をもってくれいるのであれば、旦那がいる・いないなんて関係ないかな?どう見てもあの人妻子いるよな?そしてナンパと疑っては悪いがもし断ったりなんかしたら、また彼がうちの研究所にスピーチしに来て再開した時(また来るのは間違いない。)ばつが悪いに違いない。どこでラインを引けばいいんだ? 突然の魅惑的な誘いに頭をくらくらさせながら、会場に入り彼の演説を聞く。タイムリーでなかなか説得力のある彼のアジア外遊報告は私でも楽しく聞いた。話の展開はいい意味で会場をわくわくさせた。丁度昼頃にスピーチが終わり人々が退散しイベントが終わると、帰り際カートはまた私のところにやってきた。 「じゃぁ絶対連絡するから、イーメイルと連絡先教えてよ!」ともう一度言われ、私は取り合えず会社の電話番号、内線番号、イーメイルを彼に渡した。すると彼は名刺と一緒に「これ、僕の私用ポケベルのナンバーだから。職場の人誰にも教えちゃだめだよ。君だけに特別に教えるから。24時間7日間、君だったらいつでも呼び出してくれてかまわない。」と別の番号を渡された。さらに「僕のオフィスに電話してくれても構わないし、いなくても必ずかけなおすから。DCに来た時は僕が君の為だけにホストになるし、とにかく連絡するよ。会えてうれしかった。」と付け加えて、彼は去っていった。 ぼ・・・・・・・・・っ。くら、くら、くら、くら・・・・。 眼鏡たぬきの風貌はともかく、権威とお金のある自分とは程遠い人がこんな熱心な言葉をかけたから…、私は普通に将来の野望を持つ女性としてメロメロだった。きっとフセインとか金正日とか、クリントンとか愛人が沢山いるはずだが、彼らに引っ掛かった愛人の気持ちってこんな感じに違いない。断るなんて、なんだかもったいなさすぎる。権力と金・・・。 いや、いけない、いけない…私は結婚したばかり。冷静に、冷静に、とすぐ自分のデスクに戻り彼をネットでチェックすると「5人の子供の父親」と出た。ひえぇ。作りすぎだよ…。やはりただの性欲親父か? そうして悩んで数時間後、就業時間直前に自分の内線に電話がかかる。ノリノリからにしては、ちと早いなと思い電話を取ると、「あ、M?僕、僕、カートだよ。」「あ、カート!」「いや、イーメイルするよりも声が聞きたいと思って。」と口早に話し、繰り返しDCにおいで、連絡いつでもしてと会えてうれしかったとを伝えられ、時間ないからまたね、と彼は電話を切った。 頭が一杯の一日だった。私はこの日の出来事をノリノリに言うか言わないか心底迷ったが、夫婦でもただの彼氏彼女でも特に男女関係ははっきりさせとかないと必ず歯車が狂う日が来るので自分の「権力と金」への執着は捨て、取り合えず彼にありのままを伝えた。そして、カートに結婚していると言わなかったことも伝えた。 ノリノリは険しい顔をしたが「権力と金」にくらくらしている私を見て好きにしなよ、と拗ねた。でもね、そういうやつって必ず同じことアジアの女にやってるぜ、何人ともヤってきたんじゃないの、そんな調子でさ。だいたい身体目的でなかったら、旦那連れてったって喜んでホストしてくれるぜ。関係ないだろ。 ノリノリの言うことはもっともだ・・・でもDCを政治家に個人的に案内されるとかそんなチャンス・・・私の今までの献身的な努力が報われたのじゃないかしら・・・だったら、そのぐらいご褒美をもらっても・・・? 堂々巡りで悩んでいたのもつかの間、事態の終結は実に早く2日後には決断を下す時が来た。 まず、火曜日の朝一番、自分の内線に電話が鳴った。 「あ、僕だけど、分かる?!」聞きなじみのない声にまさかと思ったが、ノリノリ以外でこんな時間に私に電話をかける人はいない。 「カート?」 「そうそう!」 「まぁ、電話してくれてありがとう。びっくりしたわ。」 「あのさ、今日の夕方なんだけど、空いてる?DC来ない?」 突然の誘いにまた心は揺れたが、とにかくノリノリに黙って他の男の所に行く決断はできない。かといってノリノリの仕事が終わってからDCに行くには時間的に間に合わない。ちょっと、難色を見せると「いいよ、いいよ、突然だものね。分かってた。また電話するから!」と彼は電話を切った。取り合えず礼儀だと思い電話では難なのでその後イーメイルで、誘ってくれてありがとう、とカートに送った。 私はその日も混乱し、そんな状態でノリノリともまたギクシャクし、取り合えず日本の家族に電話をした。 そして水曜日の朝一番、また自分の内線に電話が鳴った。 「あ、カートだけど!僕、週末からロンドンに行かなきゃいけないんだよ。その前に一度会って食事でもしない?」 「え・・・。そうですねぇ、うーん、でもカート、忙しいんでしょう?私も平日仕事があるし、どうやって会うの?」と聞く私。 「あのね、Mは会社帰りにDCに来て、僕達は一緒に食事をして、夜はこっちに泊まってフィラデルフィアに朝帰ればいいんだよ。」とカート。 が~ん。朝帰り戦法を提案されたか・・・。終わった・・・。もしそれで一人身でDCに行けば私の身体は危険だ。 「ちょっと、調整してみるね!」と電話を切り数時間後、私はカートに「行く時は旦那もぜひお会いしたいと言っていますので、彼も一緒に連れて行こうと思います。今週は無理ですけど、(一ヶ月後の)独立記念日の後ぐらいでしたら伺えます。お忙しいでしょうが、ロンドンへの旅行、どうぞ楽しんでくださいね。M」と言う内容のイーメイルを書いた。 *** 木曜日の朝、彼からの返信メイルを開くと「独立記念日の辺りまで予定はちょっと分からないけれども、会う時は2人がいいよ。(旦那さんもホストするのは歓迎だけど、また別の機会にね。)フィラデルフィア近辺に立ち寄った時、会えるのを楽しみにしているね。」との内容だった。 それからカートとは会っていないし連絡もしていないが、うちの研究所には必ず定期的にやってくるのでまた会うことになるだろう。次に来たその時、彼が私を普通に扱ってくれるか、また誘うか、冷たくあしらうかは疑問だ。私は自分の仕事として彼への接客態度は変えないだろうし、もし彼に何か誘われても誘われなくても内心は揺れたり寂しかったりとまた妙な気持ちになるだろうということだけは、間違えなく言える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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