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テーマ:ヘヴィメタルを語る(673)
カテゴリ:メタル・音楽
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楽しい仮装大会のハロウィーン、というイメージの裏側にまたハロウィーンは怖くなくては面白くない。この時期映画館で上映されているものはホラーとかサスペンスものばっかりで、もちろんハロウィーンを意識している。フィラデルフィアではこの週末にフェアマウントストリートにある、(一人$25で高額の割にはあまり怖くないとは噂で聞いたが)アメリカ最古の刑務所(今は観光地)がお化け屋敷として開放され、怖い思いをしたい人にはいろいろなイベントが待ち受けている。 ノリノリと私は土曜日の夜、MTV2が最近推しているハードコアメタルのバンド達が4つほど集まったHead Banger’s Ball(ロックで頭を振りたい人の宴!)というコンサートに行った。タイトルからも分かるように、ハイスピード且つげろげろのボーカルが入るというガンガンのかなり激しいバンド達であったので予想通り、観客もかなり激しい人々が集まった。会場はダウンタウンから北にあるエレクトリックファクトリー。昔の工場がそのままライブハウスになった場所で2階建て、中堅バンドが良く使う会場だ。 最初のバンド、Unearthの演奏が始まって直ぐ私達は運が良いのか悪いのか、ステージからど真ん中の2列目ぐらいに着いた。もちろんバンドのメンバーに思いっきり近づけるのでステージの近くは素晴らしいが、今回のような激しいコンサートでど真ん中に着くのは少々危険だ。会場の右側、左側から人が泳いで(Crowd Surfingと呼ばれる)来た時、最終的に流れ着くのはど真ん中がほとんどだ。人は後ろの方から泳いでくるので自分が気づかないうちに突然後ろから頭に人の足がぶつかったりする恐れがある。最前列のフェンスの前にいる警備員の動きを見てれば来てるかどうかは大体分かるので粗方防御はできるが、真ん中に来れば来るほど人の流れが多いので防御する回数がとても増える。 しかしこのような激しいコンサートの場合、気合を抜いてしまえば最前列から一気にサイドへ押し流されてしまうので真ん中で良いから上手に体を動かしコンサートを楽しむ。ここで楽しむ為に体を鍛えたりもしているわけだし、ノリノリがボディーガードしてくれているので大体平気だ。 Unearthが終わると Shadow’s Fallが現れる。ボーカルの彼は1メートル50ぐらいあるドレッドをヘアを振り回しげろげろと歌う。細い体であるがかなりパワーがある。前のバンドよりも人気であるので観客の動きがもっと激しくなり、立って自分を支えるのがやっと。横の数人がぶつかったら怪我をするんじゃないか、と心配になるぐらいかなり激しく頭を振り回し、飛び跳ねるものも現れ、私のいる最前列付近は人口密度が高くなる。後ろを振り返ると広い会場は目一杯に人が埋まっているように見える。遠くの方で人々が穴を作り、その中で沢山の人が頭を振りながら踊りまわっている。(Mosh pitと呼ばれる)盛り上がったボーカルは巨大なスピーカーの上に乗ったり、最前列のフェンスから観客の海に飛び込んでそのまま歌ったりといろんなことをする。もちろんボーカルが飛び込んだ観客の辺りには人がもっと集まって、人の流れが入り乱れて自分の位置を守るのは大変だ。 次に Killswitch Engageというバンドがこれまた大盛況の演奏をした。メタルバンドに珍しくボーカルは黒人系。げろげろの割にはなかなかのさわやかバンドで、フィラデルフィアの観客の大きなモッシュピットとその熱気にかなり感動をしていた。そう、フィラデルフィアはヒップホップの街でもあるが、と同時に若年層のロックファンもかなり多くコンサートでは多分どの都市にも劣らないぐらいファンの反応が良い。大体のバンドが同じことを言って感動する。他の都市でもいろいろなバンドを見たがフィラデルフィアでの盛り上がりはバンドも観客も少々違う。 さて、最後に私が個人的に現在大ファンの Lamb of Godの出番がやってきた。彼らを間近で見るのはもちろん初めて。アルバムの曲やビデオが良いのでかなり期待をかけていた。辛抱強く位置をキープした甲斐があって前の人が抜けて私は最前列を確保した。ウキウキである。 しかし今まで他のコンサートで何回か見たことのあるスキンヘッドの青年が突然真横に現れる。彼はど真ん中を占領している私をずらす為すごい力で押してくる。しかし私も負けてられない。絶対に動かない。ちょっと、あんた痛いってそんなに押したら・・・スペースそっちに十分あるでしょ。ここは私の場所だってば! 彼らの演奏が始まると、ボーカルが少々狂ってるように歌いだし最前列のフェンスに階段も使わないで飛び乗った。いや、そこに私の手が・・・痛い、痛いってば、ちょ、ちょっと突然乗らないでよぉ。彼はそんなこともぜんぜん気にせずフェンスの側にいる最前列の人の手の上にお構いなく歩いていく、そして私の目の前で歌いだす。お約束だが、あわてて彼の足を支える役になる。人がどんどん後ろから押してきてめちゃめちゃだ。 演奏中彼は何回もステージとフェンスの飛び乗りを繰り返したので、ようやくキそうな時は手を反射的によけることを覚える。はい、足押さえるから安心してね、さぁ、歌え歌えっ!取りあえず好きな音楽であるので私は楽しむのに必死だ。もみくしゃになってもその後の充実感はたまらないのだ。 あまりにもボーカルがフェンスに飛び乗ってくるので、横の青年も私のことを押すのはやめた。そして彼も多分思い出した。前、セブンダストか何かのコンサートの時にど真ん中の最前列にいた私をずらす為にすごい力を使ったが、私が動かなかったことを。あんな力で押されて動かないアジア人の女は私しかいないだろう。彼は突然、すげーめちゃめちゃだよな、と私に笑って話しかけた。 その時緊張の瞬間が訪れる。そのボーカルがまた私のいるフェンスのいるところにやってきて、薄暗いホールにいる観客に向かって叫んだ。 「そうだ、そこの背の高いお前とそこのお前、お前らから左右に真っ二つに割れな。」 え?と思っているうちに私の真後ろから真っ二つに観客が割れた。どういうことかというと、人で一杯のホールに畳が15枚ぐらい入りそうな、どでかい穴があっという間にできたのだ。私の真後ろの人もいなくなったのでノリノリと私も穴の壁の一部だ。この暗闇に立っている2千人の人に囲まれた誰もいない巨大な穴。 「ゲ・・・」私が叫ぶと、 「おぉ~~~~こりゃすごいな!すげーよな?!」と青年が私を見る。 「怖い・・・」と返すと 「俺はこんな時の為にマウスピース!」とスポーツ選手が付けるマウスピースをポケットから出して口に入れた。 しーん、として緊張感を切るように演奏が始まる。 重低音にあわせてその巨大な穴に大勢の人々が頭を振り、暴れながらなだれ込む。ピットは別名プール(ビリヤードの意味)とも呼ばれていて、まさしくビリヤードの玉のように人々はぶつかり合い、音楽の激しさに合わせて飛びあい、そして人の壁に跳ね返される。私もぶつかってきたら跳ね返せるようにステージでなくて、後ろの空間を向いて構える。 間違いない、私が見たコンサートの中でも最大級のモッシュピットだ。薄暗い中で駆け回るピットの中の人々は音楽と共に絶頂だ。そして、その中の一部にいる私はもうはらはらして止まらない。絶頂と暴力(*注)の紙一重のところにいる暗がりの私達は微妙な一体感を味わっている、そしてそれが本当にメタル好きの節度を守ったコンサートなのだ。バンドもそれを知っているし、警備員も知っている。だから、メタルのコンサートのこの微妙な雰囲気はどこかのフェスの時のように暴動が起こらない限り、止められることはない。知っている人が楽しめるものなのだ。(初心者は気をつけてね♪) ハロウィーンの週末の夜にふさわしい巨大なピットは、ひさびさの緊張感とスリルをくれた私の心を余韻を持って支配した。怖い、は仮装などの見かけだけなくて、大勢の殺気立った一体感からもまた生まれた。 今一番好きなバンドがその中で一番狂っているバンドだと知ったので、家に帰ると少々複雑な気分になった。 *注 ここでの「暴力」とは暴れて力任せに踊ると言うことで、人と人とはぶつかり合いますが、殴り合いになったり喧嘩になったりしたらNGで即効に警備員にはじき出されます。暗黙のルールです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 4, 2004 06:09:56 AM
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