→ 昨日の
骨抜きになったノリノリからの続き→
次の日私達は家族3人でゆーゆーのベイビーシッターさんの所に挨拶しに行った。個人的にも仲の良い私達に彼女は「最近どう?就職どうなった?」と聞いた。嘘のつけない私は「私達別居するんです。」と決意を表明した。ノリノリは横で口を噤んでいた。泣きながら経緯を語るとノリノリの友達でもある彼女は彼にびしっと発破をかけて、彼を励ました。悲しそうな顔を見る度「別居した方がお互いの為なんだ」と言う意志が強くなり、彼女に言われてうんともすんとも言わない彼を見て辛くなった。私はもう明日にでも家を出て行って貰おうと考えていたが、彼女がうまく取り持ってくれて今月一杯頑張って職を見つけたら、見逃してあげよう、あげれるよね?と期限をつけた。私ががみがみ言うと相手のやる気を殺ぐかも知れないから、口出しをしないであげて。あと半月しかないけれど、彼だって家族が大切ならきっと出来るよ。
その後家に帰るとノリノリはずっとお経を上げていた。目くじらを立てて就職活動を始めるのかな?と思っていたので心外だったけれども、これで彼の集中力ややる気が出るのかもしれないと思って黙ってゆーゆーと遊んでいた。
次の日も彼は朝からお経をして、お昼ご飯になって最近近所に引っ越してきた仲の良いT・T夫婦と食事をした。家に帰って少し休んでから彼は学会のミーティングがあるといって晩御飯の後に出て行ったきり真夜中まで帰ってこなかった。帰ってきたらお経をした。そして次の日もお経を上げ続け、私がゆーゆーと友達のJosephのところに挨拶に行くから、というのに付いてきたいといい、行かなくていいんだよ?と主張しても付いてきた。そして、訪問が終わった後、また学会のミーティングに行った。
我慢は頂点に達していた。あの態度はなんなんだ?就職活動をしないと言うのは別居したいと言われているのと同じようなことだとしか思えない。私は彼の宗教に反対していない、お経をするのだってダメだと思わない、でも就職活動なくして就職できるわけないだろう!
別居して、離婚して、新しい生活を始めること自体は悪くないかも、と考えていたけれどあの何もしない彼が、彼自身が今変わらなくて、いつ変わるのだろう?私は努力した、でも彼は私の努力に甘えてきた、じゃぁ誰が彼に、今はお経だけで縁起担ぎしてる場合じゃなくて汗水たらして一瞬一瞬頑張っていかなければいけない時だと、教えてくれるのだろう。今彼が頑張らなくて変わらないまま私が受け入れたら一生私は今の思いを持ち続けるだろう。そんなのは嫌、私は人に甘えない人と一生を過ごしていきたい。
私は別れてもいいけど、と思いながら彼に実際一番近い人々のことを頭に思い浮かべた。そうだ、彼には10数年のお付き合いの「お母さん」と呼んでいる人がニュージャージーに住んでいた。彼女なら、あんたしっかりしなさい、もっと頑張れるでしょう?と彼に一言言ってくれるんじゃないのかな?と考えた。彼の友好関係は乏しいけれど、そういうときの為の学会の人脈でしょう…自分を失っている彼に彼のことを心配してくれる人から少しでも励ましの言葉をあげて欲しい。
私が彼女に電話をして経緯を説明して、彼に何か言葉を掛けてくださいと頼むと意外な答えが返ってきた。「彼は過去数年ミーティングに出てこなかった。運を使い果たしたのよ。仕事辞めたときだって、え?っと思ったし、ミーティングでなさいとは言ってきたし。彼に言うことはもう無い。今はみXXちゃんが(私)彼の就職が決まるようにお経をあげてよ。」
さっぱりわからなかった。彼の境涯(宗教用語?性分)が変わらなければいけない時に私が彼の就職が決まるようにお経をあげる、というのはどういうことなのだ。じゃぁ仮に私が一生懸命祈ったとしてそのご利益で彼の就職が決まったら、また彼は私の努力に便乗するではないか。
何の躊躇もなく真っ直ぐに伝えられたそのリクエストに戸惑って苦し紛れに「ん…でもそれで彼の就職が決まったら腹が立つ。」と答えると「でも、彼の就職が決まらないのは彼だけの問題じゃなくてあなたの問題でもあるでしょう、困っているんだから。自分の問題を乗り越える為にお経があるし。」
分からない。彼が変わらないのは彼の問題で、確かに彼がぐうたらしているのは私の問題でもあるけれども、私はそこまでして彼と将来一緒にいたいのかな、と考えた時、いや彼のこんなぐうたらな境涯と共に暮らして自分の人生を蒙るのはごめんだと、彼の問題を治すのは私の生涯の課題ではない、と結論はこの数日でもう出ているのだ。私が彼女から欲しい言葉は私のことじゃなくて…あなたをお母さんと何年も慕ってきたうちの旦那に対する言葉なのに。
あきらめて電話を切った。確かに本当の親ではない。でももし本当の親だったらこんなむごい対応は無いだろう。愛情あって、怒りも激励も生まれるのではないか。彼に言う言葉はない、ってそんな冷たい対応があるのか、私がお経を唱えるのは彼女から彼への愛情に匹敵することなのだろうか、とにかく、私が勇気を出して彼女にわざわざ電話をして助けを求めたことは予想外れの結果となって、ノリノリがかわいそうで仕方なくなった。別居するまで伝えたのに、彼女は彼の幸せを実際それほど望んでいないのだろう、と受け取った。
結局、今私にとても近い存在でもある先に書いたT・T夫婦の奥さんの彼女がノリノリに私の気持ちや頑張る為の気持ちの持ちようなどを説明してくれて、彼は随分気を取り直して家に帰ってきた。彼らも学会の人だ。何を話したのかよく知らないのだが、私が電話口でショックを受けて泣いていた時間、彼らはきっと密度の濃い話を重ねて、ノリノリはいよいよ「目くじらを立てて」就職活動を始めた。不思議なもので、元気に頑張っているノリノリを見ると私も元気が出てきて、じゃぁこれもやってみようか、がんばろうか、とやる気が出てくる。彼のことを信じたい、と意欲が沸いて来る。
あとX日でお別れかもしれないね、とキツイ冗談を言いながら心で絶対大丈夫、これからも頑張ろうね、と言っている私がいる。