営業はスポーツ!
ノリノリは今週から心機一転、営業の仕事を始めた。100%出来高制なので本当はこれで大丈夫か?という話なのではあるが、しかしこの会社、只者ではない。もしかしたらアメリカの営業職は皆、この会社がしていることを基本として社員を教育、モチベーションを与えているのかもしれないが、会社全体が若い人で一杯なだけに活力が違うのだ。始めたばっかりで全然収入には結びついていないのだが、今彼があそこで学んでいることを聞いていると、それも満更では無いな、と思うのである。彼の話によると、その会社は昇格が多い。入社一ヶ月で既に新入社員をトレーニングするまでにさせるのだ。たったの一ヶ月!それから段階を経て、マネージャー、そしてシフトマネージャーとなり、その「シフトマネージャー」だけが出来高制でなく給料払いをされることになっている。だからそれまでは全部出来高制。もちろん達成度によってボーナスも渡される。急成長中の会社なのでシフトマネージャーになると新しくオープンする支店のシフトマネージャーとして配属される。会社の一日はなんと「ゲーム」で始まる。その日によってゲームは違うのだがどういうゲームをするのかと言うと「ジェスチャー伝言ゲーム」「頭文字を見て、その後にどんな言葉を続けるか考えるゲーム」などそんな感じのものだ。部屋に社員を5チーム、一列に並べて、言葉を最初の人に渡す。その人は後ろの人にそれが何かをジェスチャーで伝える。伝えられた後ろの人はさっぱりなんだか分からなくても、そのジェスチャーを真似して後ろに伝える。それでどんどん変な方向にジェスチャーが伝わっていって、最後の人がそれがなんだったかを当てる。たまに当たっているチームがあって、そんな時は大歓声で湧き上がる。「頭文字ゲーム」はまず状況を設定してそれに合わせてA,G,Hとか適当にアルファベットをボードに書き、それから始まるセンテンスをできるだけ早く思いついて競い合うゲームである。例えば、状況を「営業に出たとき、相手に『いや、うちはそんなの必要ありません。』と言われた。」という風に設定する。そしてボートに「A」と書かれた場合、思いついた人が「A.....Anyway, we are offering...」とか「G...Generally phone bills are...」とかそんな感じで文を作って完成させる。で、それができたらまた、わ~っ!と大歓声で盛り上がる。これを朝最初の20分程やるらしいが、いちいち大歓声で盛り上がるところがすごい。それからまた20分程、支店のリーダーがレクチャーをする。これがまたすごい。例えばこんな話。『シフトマネージャーは給料払いで出勤時間も遅くても良いし、定時に帰ってもよい。すごく楽に聞こえるが、そうなる為には必要な努力をきちんとしてきたんだ。 例えば、自分が昔オハイオ州に住んでいた時。オハイオに行ったことある人いるか?お、そこの君、オハイオを一言で言うと何だと思う?(Nothing,という答えが来る)そう、Nothingなんだよ。何にもないのさ。自分が祖父のコーン畑を耕すのを手伝った時にこんなのを使って(畑を耕すシャベルみたいなものがあるのだがそれでさえもいちいち説明したらしい)、畑を耕すんだよ。それがすごい作業でね。時間が掛かる。作業をしていると水が欲しくなるんだけどその水が無い。でも作業中で、家まで戻るとすごく遠くて往復したら日が暮れてしまう。井戸がここにあるけど水が枯れていて使えないのさ。祖父に聞いたら、川から水を取って来い、と言うんだけど、あそこの川は下流で、上流に住む牛の糞尿とかそんなのも流れてくるきったない水なんだ。でもしょうがない、それ取って来いっていうから取りに行ったよ。バケツに救った水なんてすごくてね。言いづらいけどゴミとか糞とかクモの巣とかで一杯で、一体これどうやって飲むんだよ?って感じ。とにかく祖父のところに持って行ったよ。そしたら彼は井戸にそれを入れろ、っていうんだ。井戸にいれた。そしたら井戸の奥に溜まっていた綺麗な水が今入れた水から押し出されて出てきて、井戸をパンプしたら飲める水が出てきたんだよ。 ・・・と言うわけでだね、シフトマネージャーは綺麗な水のような仕事に聞こえるかもしれない。が、しかしそれを得るにはわざわざ汚い水を川から持ってきたりなどのそれなりの苦労をしなければ 手に入らないんだ。だから、みんな、シフトマネージャーになれるように、努力を惜しまないで頑張ってくれ。』晩御飯の合間にノリノリに「今日はどうだった?」と聞いただけなのにそんな話を聞くなんて、ひぇ~!である。あ、っとも思うし、うまいなぁ、とも思うし、っていうかその捕らえ方時間を惜しまずするその説明の仕方、もう全て開いた口が閉まらない、そんなレベルの驚きである。営業後も会社の雰囲気はとにかく明るい。帰ってくると「今日はどうだった?」と聞かれ「一件とれた」「寒かった」どんな答えでも「そうか、今日もきちんと頑張れてよかったな~!」とガッツポーズをしたりはしゃぎあったりするのである。全然大したことない結果でも喜びあうのだ。それはまさしく、フットボールの試合を見ている観客のノリなのだ。他にも会社の方針で「5つのアルファベット」「8この心構え」みたいなのが色々あるらしいのだがその中でも心に残るのが「フルタイムで働け」である。どうせ5時で全ての会社が閉まる、5時以降は営業できないのだから、最後の数分でも時間を無駄にしないで5時までしっかり働け、というものだ。当たり前だけどなるほど、である。そして続いてポジティブシンキングと説得。言葉の使い方をちょっと変えれば相手を引くことが出来る。このくらいお金が掛かることになります、と伝えるよりも、これだけお金を節約できます、と言う。相手が、いや君の会社は嫌な思い出があるから好きじゃない、と言えば、いいえ、隣のオフィスのXXさんも同じことを言っていましたけど私達のサービスが良いので思いなおして返ることにしましたよ、と言う。相手のネガティブをさらっと言い換えて違う思いにさせる。この話を総合すると営業は体を張ったゲーム、つまりスポーツだ。最後の一分まで全力で戦い、それについてくる歓声。グッドプレーヤーは大金を稼ぎ、悪いままだと2群3群のまま、声援が大きければもっと頑張れるし練習にも力が入る。戦略も練らなければいけないし、相手の精神もこちらの者にして「勝ち」を得ていかなければならない。ノリノリが生き残るかどうかはともかく、彼がこの戦略を学んで口が回っていく様子を見ていると今やっていることは絶対無駄なことではないんだな、と実感するのだ。