最終回・やまびこにトライ!
→→→昨日からの続き→→→その日の朝は前日よりももう少し早起きして、イーストリムにあるグランドビューポイントへ車を走らせた。前日と違って殆んど人がいなくてとても静か。少々雲が多く、辺りは明るくなってきたものの日は全く見えなかった。空が少し赤くなると、雲の陰から日がキャニオンを紫色に照らした。そこからちょっと下に降りるトレイルがあり、私は行ってみたくて思わず足を運ぶ。「み、みんみん、やめなさいっ!」と叫びながらノリノリは何食わぬ顔でどんどん降りていく私を焦って追いかける。石や木を使って自然に作られた道なので慎重に降りればそれほど恐くないし安全だと思うのだが、何せ渓谷を真横にした階段なので高所恐怖症のノリノリはかなりビビっている。妊婦の私が転ぶとかどうのこうのよりも先に自分が単に恐いだけなのだが何かと私のせいにして「やめなさいーっ!」「もうそれ以上行っちゃ駄目―っ!」と後ろから叫んでいる。それでも耳を貸さないで、自分でここまでなら上りもきつくないかな?、と思えるところまで降りると丁度座れるぐらいの位置に長い枝がついている樹があり私はそこに座った。同じ眺めだけれども、もっと近く感じる。ぶつぶつ文句を言いながらも付いてきたノリノリは私達が降りてきた跡を見ながら、うわー!こんなに降りてきたー!とはしゃいでビデオを廻し始めた。こんなに、といっても4-5メートルぐらいであるが側にある壁を見るとそれなりに高さはある。ノリノリをよそに枝からちょっと立ち上がろうとすると「うわ!やめなさい!動いちゃ駄目ーっ」と下に見える深い渓谷の恐怖におびえてノリノリは私に叫ぶ。あの…足場がこんなにあるんだけど…。立ったって落ちやしないってば。そんなに恐いの?!充分な足場がね、ちゃんとあるでしょう?!落ち着かないノリノリはビデオをまわしているくせに、早く上に戻ろう、戻ろう、と急かす。しぶしぶと私はゆっくり上に戻り始めた。道端のちょっと段差になっているところに赤い変わった花があったのでそれを摘もうとすると、ノリノリはやめなさいっ!と叫んでビデオを持ったまま私の代わりにその花を摘んだ。ノリノリは恐くて落ち着かないくせにその花をそれでも私の為に必死に摘んでくれたので、ちょっと私は笑ってしまう。自分で出来るよ…、もう!心配性なんだから。ま、でもね、そうやってまごまごしているくせに必死に私をかばうノリノリを見るのはちょっと面白い…。っていうか、恐い、恐いと叫んでいるくせに登りながらビデオを廻しているそっちの方が私より何倍も恐いんだけど?!安全第一でしょ、そんなビデオ撮るの止めて真面目に登りなさい!私がいかに危険なことをしたか記録に残すんだー!とかなんとかわけの分からない言い訳をしていたが、ノリノリはしぶしぶとビデオを閉まい、私達は降りてきた入り口に戻った。しぶとくビデオを取りつづけるノリノリの図ロッジで再び仮眠をしてからようやく朝の10時半頃、チェックアウトを済ましてウェストリムを廻るシャトルバスに向かった。ウェストリムはイーストリムと違って車の乗り入れができない。シャトルバスは一つのバスの後部に新たな車両をくっつけたもので後ろの車両は良く揺れる。しかし前のバスはすぐ席が埋まってしまい私達の乗るところはない。しぶしぶ後ろの車両に乗る。パウエルポイントに着くとコンドルが飛んでいた。少々遠いので黒くて大きい以外ははっきりと姿形は見えなかったが、近くにさっと来た時に見えたのは綺麗な黄色のくちばしだった。しばらく遠くのコンドルを眺めて近いところで写真が取れないかな、と構えていたが一向に来る気配がなかったのでしぶしぶポイントに向かう。今まで見てきたのと同じような渓谷なのだがアングルが違うので、生で見るとやはり違った感動がある。なかなか書き表すことができないが、ここのポイントは他のポイントより少し高い位置にあるので(他にももうちょっと高い位置のポイントもある)もう少しお向かいの渓谷が下に見える、と書いたら良いのだろうか。かといってイーストリムとは違って、一つ一つのポイントの幅も短いので隣のポイントもここから見えたりする。要するに、ぐねぐねした渓谷の淵の出っ張っているところに足場があるわけで、前だけでなく横を見渡しても深い崖が続いている。180度の景色と言うより270度の景色だ。そこで横になったりしてノリノリとわいわいしていると、後ろにいたスペイン語を話す観光客のおじさんが横の渓谷の壁に向かって「A hoy, hoy!」と叫んだ。すると、横の叫んだ先から「A hoy, hoy・・・!」と同じ声が返ってきた。うわ!やまびこだ!そうか、こういうところでやまびこができるんだ~?!知らなかった!おじさんのやまびこが成功すると、おじさんの家族達もノリノリも私も「おーっ!」と感心の声をあげた。おじさんもうれしくてニコニコしている。あ、こうなったら、私の出番だ!私も負けずにやってみる。「Hello~!」と横の壁に向かって思いっきり叫ぶと「Hello~, hello~, hello~!」と三回も私の声が返ってきた。へーっ!おもしろい、おもしろい!周りにいたおじさんもおじさんの家族もノリノリも喜んでみんなで笑いあう。おじさんがまた「A hoy, hoy!!!」と叫ぶ。「・・・A hoy, hoy・・・, a hoy, hoy・・・, a hoy, hoy・・・」私も負けずにおもしろがって今度は違う向きで「Hello~!」と叫んでみた。すると今度はちょっと時間が経ってから一回、「Hello~!」と声が返ってきた。ふーん、なるほど~!声の当たる壁の場所によって反応の仕方が変わるんだね?!遠いと時間がかかって返ってくるのか~。頭では分かっていても、実際やってみるのは初めてなのでとても感心する。しかしね、こんな大自然を前に思いっきり声を上げるのって・・・こんなすがすがしい経験ってそうそうない。今まではカラオケですかーっと歌うぐらいだったもの。「ねー、ちょっとー!ノリノリもやろうよー!」と誘うとノリノリは、いや、僕は恥ずかしい・・・、とまた臆病なことを言っている。声に自信がないから人のいるところでは嫌なんだよー、といつもカラオケで歌わない言い訳をするのと同じ弁解をしている。じゃぁ、横のトレイルに入って人がいない小さなポイントでやってみようか?と聞くと頷くので私達はやまびこを思う存分楽しむべく、そのポイントを去った。それから数分、次のホピポイントに行くまでの間に丁度良い横の渓谷が見えるポイントがあったので、私達はそこで立ち止まる。とりあえずノリノリの緊張をほぐしてあげようと私は全く恥ずかしげもなく叫ぶ準備をする。ビデオ取ってねっ、とノリノリにセットさせて思いっきり叫ぶ。「アホーっ!!!」「・・・アホー、・・・アホー、・・・アホー・・・」くっくっく。あぁおもしろい。こんな言葉しか思いつかない自分も情けないが、とりあえず短くてすっきりする言葉を叫びまくる。「ニッポンっ!」「・・・ニッポンっ、・・・ニッポンっ、・・・ニッポンっ・・・」んー、気持ちいい。いいね、こんなとこで自分の国の名を叫ぶだなんて。ちょっとすっきりしたので今度はビデオをノリノリから奪って、ノリノリにやまびこに挑戦させる。何を言えばいいのか分からずまごついているので「アホ、にしなよー!すっきりするから!」と強引にアホを言わせてみる。「アホっ!」ノリノリは叫んだ。「・・・アホっ・・・アホっ・・・アホっ」くっくっく!返ってきた!短く叫んだが、なかなか男らしく返ってくる「アホっ」だった。あまり叫んだりしないノリノリの劇的な瞬間をビデオに録画して私は上機嫌だ。叫び終わってノリノリは振り返ると「俺のキャラクターじゃない・・・」とぶつぶつ文句を言う。でも、すっきりしたでしょう?!と聞くと笑った。私は生まれて初めての経験だったのでうれしくてもっともっとやりたかったが、あんまり時間がないので渋々次のポイントに向かった。***それから残りのポイントを一つ一つ訪れていくうちに辺りはどんどん曇ってきてしまった。グランドキャニオン園内の一番西端にあるハーミッツレストに着くとお土産屋の前に広がる渓谷の上に雨雲が見えてきて、ついにはどどどーん、と雷の音が聞こえてきた。落ちてくる雷は居場所の標高が高いだけに街で見るより身近に見えた。ノリノリは必死にビデオで撮ろうとするが、そんなに分かりやすくは落ちてこないものだ。あんまり何もない空を写していてもしょうがないので結局あきらめていた。しばらくそこで足止めを食らっていたがそこに野生のリスがいてそこの観光客を沸かせていた。そこにいた野生のリスはフィラデルフィアの街で飽きるほど見るリスとは少々尻尾の形が違っていて、最初はリスに見えなかった。リスというともっと尻尾がふっくらしているが、ここのリスはネズミのようにすっきりした尻尾を持っている。そこら中に「野生のリスにはえさをやらないで下さい」と書いた看板が立っているのだがもう既に人馴れをしているらしく、沢山の観光客がえさをねだる彼らにナッツやらサンドイッチの端っこだとかを与えていた。全体的に毛が短いみたいだ。既にお昼を過ぎていた。予定では帰りにもう一箇所モハーベポイントというところに寄ってから車に戻る、ということだったので雨足が少々引くと私達は早速シャトルバスに乗って目的地に向かった。モハーベポイントを粗方見終わると私達はうずうずして端のトレイルを少し歩き、やまびこポイントを探してみた。どうしても帰る前にもう一回やりたかった。こんな大自然の中で思いっきり声がだせるチャンスなんて、もうそうそうないだろう。あぁ、なんで今まで気付かなかったんだ?!知っていたら、最初からやっていたのに!ノリノリは私のそんな気持ちを察して小雨でも文句を言わないで一緒に歩いてくれた。(ノリノリは雨に濡れるのが大嫌いである)そしてあるポイントに着くと、じゃ、やってみようか?!と私は思いっきり声を出した。「アホっ!」・・・。・・・。私の声は空しくその辺で留まっていた。ち、ち、ち、ち、違う、さっきと違う。響いてない。何もない。やまびこの「や」の字にも値していない。知らなかった。雨が降っていると声はもう、渓谷には届かないのだった。雨はやむ気配もなく、しとしとと霧のように舞っていた。私達は足早にバス停に戻ってレンタカーが停めてある駐車場に向かい、残りのフェニックスへのドライブを楽しむことにした。***下にはお楽しみのみんパイ特別ショットがあります。どきどき!↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓2日目のナバホポイントで優雅にカメラを見つめるみんパイの図・・・うーん、私らしいっ♪→→→→→→またはUS Life Indexへ行ってみる→→→→→→