【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

フリーページ

ああ…日本新党!?


追悼 気骨の政治家大石武一さん


故・大石武一氏を偲ぶ会


ドキュメント小説 吹雪の如く


吹雪の如く 第2回 ひとりの専務理事のこ


吹雪の如く 第3回 理事会と地区労が作っ


吹雪の如く 第4回 小川明と多田昭男・出


吹雪の如く 第5回 福対協


助けられたり助けたり


第1回 市民参加型福祉のはじまりです


第2回 「聴く耳を持った医師」


第3回 大木仁さんに学ぶ「社会貢献


第4回 今野敏子さんに学ぶ「心意気」


第5回 佐藤由利子さんに学ぶ「介護は人間


第6回 Kさんに学ぶ「さよなら」


第7回 鈴木チヨ子さんに学ぶ「笑いで明る


第8回 Mさんに学ぶ「介護は気持ちよ」


第9回 猪口悦子さんに学ぶ「介護体験を社


第10回 たくろう所の出来事


第11回 たくろう所利用者に学ぶ「家庭延


第12回 私たちの目指す介護とは


第13回 安部ハルミさんに学ぶ「プロは頭


第14回 佐々木隆信さんに学ぶ「懐かしい


相澤嘉久治さんに学ぶ「主体的創造的に生き


第1回 出会い


第2回 知る


第3回 祖母と父


第4回 父の写真


第5回 大いなる情報誌ういずy


第6回 命を懸けた闘い


第7回 合掌 早坂茂三 さん


第8回 早坂茂三さんの遺言 その1


第9回 早坂茂三さんの遺言 その2


第10回 早坂茂三さんの遺言 その3


第11回 早坂茂三さんの遺言 その4


第12回 早坂茂三さんの遺言 その5


第13回 早坂茂三さんの遺言 その6


第14回 早坂茂三さんの遺言 その7


第15回 早坂茂三さんの遺言 その8


第16回 早坂茂三さんの遺言 その9


第17回 早坂茂三さんの遺言 その10


第18回 早坂茂三さんの遺言 その11


第19回 早坂茂三さんの遺言 その12


第20回 早坂茂三さんの遺言 その13


第21回 早坂茂三さんの遺言 その14


第22回 早坂茂三さんの遺言 その15


第23回 早坂茂三さんの遺言 その16


第24回 早坂茂三さんの遺言 その17


幼幻記


幼幻記1 微笑


幼幻記2 あーちゃんのハイヒール


幼幻記3 和田屋のロマンス


幼幻記5 福島行きの汽車の中で


幼幻記6 氷水(こおりすい)


幼幻記7 焼きみそおにぎり


幼幻記8 仔猫とチョウマ


幼幻記9 結い髪


幼幻記10 傷つけた写真


幼幻記11 パパのおしゃれ


幼幻記12 母の笑顔


幼幻記17 命日


幼幻記18 安寿と厨子王


幼幻記 19 祖母の生誕100年 佛光寺


幼幻記 20 ホットカルピスの味


ニューストピックス

2006年10月13日
XML




旅立ちの歌 ●第17回 灰色の青春



第862回 2006年10月13日


旅立ちの歌●第17回 灰色の青春


旅立ちの歌17

 井上は二階の自分の部屋で仰向けになって天井を見ていた。
 真東に大きく開いた窓からは青空と白い雲が見えた。まだ午後三時を過ぎた頃だった。風もなく暑さで部屋は蒸しかえっていた。
 
「困ったなあ……」
 ポツンとそう言って、井上は窓側に背を向け一点を見つめた。頭から額に、そして顔全体に汗が流れていった。
 
 井上はまんが展の準備で忙しい毎日だった。それはそれで充実していた。しかし、プロのマンガ家の原画が二百五十枚はあっても、同人のまんが展用の作品がなかなか集まってこなかった。肝心の井上自身も描いてはいなかった。
 
 これでは山形まんが展はプロのマンガ家たちの作品にだけ話題が集中してしまう。酒田の村上さんやたかはしよしひでセンセイたちの目指す「ぐらこん山形支部」結成には程遠くなる。虫プロ商事「コム」編集室からもぐらこんの認可は難しいだろうと、井上は焦りを感じたのだ。
 
 そして準備が進むに連れて、井上の焦りはいつの間にか不安に変っていった。
「そうだ、村上さんに相談してみよう」
 井上は早速、酒田の村上彰司の自宅に電話をした。

「どうした井上くん?まだ午後四時だノ。夜の八時なら電話料金も割引なのに」
 と、村上は電話の向こうから笑いながら言った。
「今日、たかはしセンセイやかんのさんが来てくれて、高校のみんなにも手伝ってもらい準備の大方は終ったんです。んだげんど(そうだけど)、心配なことがあって……」
「ご苦労様、ご苦労様。暑いのに大変だったね。それで心配なことってなんだい?」
「マンガ同人会の作品の原稿がどうしても集まっていないんです。このままではプロのマンガ家の作品展になってしまうし、ぐらこん山形支部結成の認可にはならなかったら、村上さんたちの目的は達成されないのではないかと焦ってきました」
「井上くん、予定通り同人誌用の原稿はあるんだろう?……だったらそれをきちんと展示することだ。ぼくらの同人誌原稿はB四判用紙に二ページ分の原稿を描いている。プロの原画はB四判が一ページ分だから原画は大きい、技術的にも迫力は違う。それはどうしようもないことだ。でもね、一コマひとコマに描かれたマンガには同人誌魂が入魂されているはずやノン。大丈夫だからね」
 村上は不安と焦りの井上をやさしく諭した。そして村上のものすごい情熱が受話器を通して伝わってきた。

「一コマひとコマに描かれたマンガには同人誌魂が入魂されている」
 そうだよなあ、青木文雄や青木健一、鈴木和博らの作品はどれも個性に溢れていた。そこにはプロのマンガ家にはない情熱が感じられた。

「オレもつまんないことを考えていないで自分の原稿を選ぼう」
 と、井上は自分で言った。村上はその言葉を見逃さなかった。
「井上くん、そうだよ。既に描いてある原稿でいいんだよ。ありのままの自分の作品を出品すればいいんだよ」

 井上は受話器をそっと置いた。二階の部屋に向かい、井上は二つの作品を取り出した。
 ひとつは学校新聞に発表している四コママンガ「ああ、学園」から数点。二つ目は昨年に学研「高一コース」編集部に送った六ページの短編マンガ「灰色の青春」だった。
 井上は久々に自分のマンガの原稿を手にとって見た。
 
 「灰色の青春」は四日市喘息に苦しむ少女が堪えきれずに自殺しようと出掛け、付き合っていたボーイフレンドに助けられるという話だった。井上は中学当時から公害問題に関心を持っていた。中三コースに掲載された小説を原案にしたマンガだった。井上の描いた絵は当時に人気マンガ家の川崎のぼる、横山みちはる、園田光慶をブレンドしたような感じで、中学時代の石森章太郎の影響は微塵も感じさせなかった。
 
 作品の間から手紙が落ちた。
 
「前略
 返事が遅くなりまして申しわけありません。
マンガ原稿たしかに受け取りました。
『灰色の青春』は、社会的問題に取り組む姿勢は
大切だと思いますが、ストーリーが単純。
だれでも思いつくようなものです。
『コマ・マンガ』についても同様です。
絵はすぐれていると思いますので、
これからは、もっとアイデアをねるよう
努力してください。
 これからも がんばってください。
 作品はのちほどお送りします。
             早々
          高一コース   
              清  邦彦」
              
「この原稿が学研から返ってきた時に、原稿と一緒にパイロットノック式万年筆が同封されていたっけ」
 東側の窓のでんごしに腰掛けて、井上はニッコリと笑顔を浮べた。
 
 西空はすっかり夕焼けになっていた。涼しい風が井上の頬を軽く叩くようにして通り過ぎていった。
 
2006年 7月 3日 月曜 記
2006年 7月 4日 火曜 記
 



(文中の敬称を略させていただきました)

旅立ちの歌 第17回 灰色の青春 完


つづく 「旅立ちの歌」第18回にご期待下さい!!





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年10月13日 23時38分03秒
コメント(1) | コメントを書く
[手塚治虫とマンガ同人会] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

みちのくはじめ

みちのくはじめ

お気に入りブログ

キャンプチェアは何… New! ナカムラエコさん

2学期中間試験が目前 仙台のお父さん

懐かし僕の情景 想科さん
B型がたがた(^_^)v けいこださん
三文小説 mizu-sinさん

コメント新着

 想科@ Re[2]:まごころマスクが届きました(06/15) ご期待申し上げます。 ところで、「マイ…
 想科@ Re:映画は面白い(06/17) いつもお世話になります。 読書力が落ち…
 みちのくはじめ@ Re[1]:まごころマスクが届きました(06/15) 想科さんへ マイペースで記録していきた…
 想科@ Re:まごころマスクが届きました(06/15) みちのくはじめさん、長い冬眠から覚めて…
 sarada@こざかい@ 本、買いましたよ! おつくりになった本、今届きました。 ざ…

© Rakuten Group, Inc.