|
全て
| カテゴリ未分類
| 戦争と平和
| 生活協同組合
| 手塚治虫とマンガ同人会
| 家族
| 自治体
| おもいで
| 好きなこと
| まちおこし
| やすらぎ
| 気付き
| プロレス
| 歌謡曲
| 政治
| 災害
| 演劇
| 映画
| 福祉
カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
熱い夏の日~山形マンガ少年~ ●第4回 まほろばの里 高畠 第899回 2007年2月17日 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」4 まほろばの里 高畠 七月三十日は朝から曇っていた。 井上はじめは二階のでんごしから空を見た。久々に雨が降るかもしれないと思った。 朝食を終えて間もなくに近藤重雄が迎えにきた。 「井上、まんが展は見事に成功したなあ、いがった(よかった)なあ」 「近藤先輩にはいろいろお手伝いしてもらって助かりました。お笑止な(ありがとう)!」 「井上、たいへんだったなあ、でも楽しかったなあ」 二人は話しをしながら門東町の小山絹代の家に向かった。 小山は高校三年生で生徒会役員会計係だった。この間、小山は近藤と一緒に、まんが展の準備や裏方をして井上を助けてきたのだった。 小山は既に準備をして、近藤たちを待っていた。 「こんなに曇ってきても出かけるの?」 と、小山は近藤に訊いた。 「まんが展の慰労も兼ねてだから、いちおう行こうよ。折りたたみの傘をもって行けばいい」 「三人分なんてないわよ」 「いいよ、オレたちは……」 「お昼はどうすんの?」 「ホラ!オレのばあちゃんがみんなの分のおにぎりを作ってくれた」 そう言って、井上は手提げの紙袋を差し出した。紙袋からは海苔とまだ温かいおにぎりの香りが漂ってきた。 じゃあ、行こうか、と小山が言った。 三人は米沢駅に向かって歩いた。三人は取り留めのない話をしていた。 「こんなこといっちゃ悪いけど、アタシはまさよしが一緒でない方がいいなあ。だって世話が焼けるんだもの」 と、小山が言い出した。 「そんなこと今頃言っても、アイツは米沢駅で待っているじさ」 と、近藤があわてて言った。 「どうして人選しなかったのよ」 小山はプンとふくれて言った。 「だって、急な話だからなかなか人がいなかったんだ」 近藤は言い訳がましく言うのだった。 「まさよしだったら、いない方がいいよ」 小山は語尾を強くして言った。 井上は、二人より少し遅れてやり取りを聞きながら後を追うように歩いた。 米沢駅までは二十分近くかかった。 すでにまさよしが待っていた。まさよしは顔が隠れるぐらいのサングラスをかけていた。 「まさよし~、なんていう格好をしているのよ~」 小山は呆れたように言った。 「小山さんに言われる筋合いはないなあ、いいごで、どんな格好しても、オレの自由だべ。民主主義っだべ。七十年安保だべ」 と、まさよしは反撃した。 「だからアンタと一緒は嫌なのよ!恥ずかしいわねえ」 小山は完全に頭にきた様子だった。 「お前な!フーテンか?ヒッピーかあ?」 近藤も呆れて言った。 「副会長に言われだぐないなあ。オレは自由な社会の中で生きているんだごで!」 まさよしは一考に自分の姿の滑稽さを改めようとしない。 「私たちから離れていなさい!」 小山が命令をした。まさよしはブツブツ言いながら三人から離れてホームに入った。 近藤たちは奥羽本線下りの電車に乗った。 近藤、井上、小山は一緒の座席で向かい合って乗った。まさよしだけが少し離れた席に座った。 「井上くんはびる沢湖には行ったことがあるの?」 小山が訊いた。 「高畠だって、初めてだよ」 と井上は答えた。 「小山は行ったことあるかい?」 近藤が訊いた。 「ないわ。副会長は?」 と、小山が近藤に訊いた。 「ない、ない、初めてだから行きたかった。まほろばの里高畠町だ」 近藤は仕草を混ぜて答えた。まさよしは首を長くして三人の様子を見ていた。大きなサングラスは外さなかった。まさよしの様子はまるで映画の中から出てきたような、うだつの上がらないチンピラそのものだった。 田んぼの緑が濃く見えた。あいにくの天気になりそうな、いまにも雨が降ってきそうな空だった。 置賜(おいたま)駅を過ぎ、糠の目駅(現・JR高畠駅)に着くと、そこは高畠町だ。今度はここで山形交通高畠線に乗り替えた。わずか一両の電車だった。しかし、高畠町の通勤通学ではなくてはならない民間鉄道だった。 田んぼの中をのどかに走る。乗車人数も十人はいないだろうか。近藤も小山も山なみの風景に目をとられ、話もしないで乗っていた。 糠ノ目、一本柳、竹ノ森と駅は続き、三人は高畠駅で降りた。 高畠駅から数キロ歩いた。ただでさえも暑い夏だった。それに雨を持った空だからムンムンと湿気も手伝い、三人のからだからは流れるように汗が噴出していた。 「二年前まではこの高畠線は二井宿まで走っていた。びる沢湖の近くを経由していたんだって。でもクルマ社会になってきたから乗る人が年々少なくなって、高畠駅までになったようよ」 小山がポツンとひとり言のよう言った。 三重塔が見えた。安久津八幡だ。 三人は珍しい三重塔に見とれながら歩いていく。その後をまさよしが追ってきた。 「古典的な感じの町だなあ……」 近藤がポツンと言った。 「三重塔があるなんて知らなかった」 井上が言った。 「びる沢湖はどっちかしら?」 小山が周りを見渡しながら言い、すぐに大きな観光看板を見つけた。小山が看板に駆け寄っていく。 「ここを道なりに昇っていくのね」 右手をまっすぐに伸ばして小高い山を指した。 2006年 9月 5日 火曜 記 2006年 9月 6日 水曜 記 (文中の敬称を略させていただきました) >熱い夏の日~山形マンガ少年~ ●第4回 まほろばの里 高畠 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[手塚治虫とマンガ同人会] カテゴリの最新記事
|
|