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カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』 ●第11回 似顔絵 その2 第908回 2007年3月28日 放課後に井上は美術部に行き、部活が終ると三年三組の教室に戻り、似顔絵の下書きを直した。 陽が少しずつ落ちて暗くなりつつある教室だった。 美智江からも「工藤先生は星飛雄馬みたいだわ」と言われるように、星飛雄馬が登場する「巨人の星」というマンガが大きな社会現象になっていた。 この春から少年マガジンの「巨人の星」がアニメ化され爆発的な人気になり、社会からも注目を浴びたのだった。 井上は川崎のぼるの描くマンガはともかくとして、アニメの「巨人の星」の作画には不満だらけだった。梶原一騎の原作は大人も魅了するほどの物語感があったから、アニメもこの物語に助けられ、なかなか見ごたえのある演出になっていた。 同級生の佐藤修一がこの「巨人の星」の単行本を学校に持ってきては、井上たちに見せていた。井上もいつの間にかこのマンガの影響を受けていた。その大きな理由は手塚治虫のマンガとは違い、絵は描きやすくストーリーも簡単だった。 工藤先生をもっと大人らしくかくこと、と言う美智江の言葉を心で繰り返しながら、井上は何回も似顔絵を描き直した。 しばらくすると美智江がソフトボールのユニホーム姿で現れた。 「バシーン!」 美智江は机にグローブを叩きつけた。 ビックリした井上は立ち上がった。 美智江は帽子を横に被り、顔もユニホームも土で汚れていた。 「ああ、疲れた~ァ。春日のヤロウ、もう少し手加減しろってんだ!ソフト部の存続が危ないっていうから入ったのに、遠慮しないで本気でくるんだから参った~ァ」 美智江は井上の居ることなど、気付いていないのかひとり言をいう。 「あの~っ」 と井上は美智江に声を掛けた。その瞬間、美智江はキャッと声を出した。 「ああ~ビックリしたァァ……」 と、井上が震えながら言った。 「なに言ってんのよ!?なんではじめくんも驚くのよ?バ~カ~……」 と、美智江が井上を左ひじでこつきながら言った。 「似顔絵の下書きを直していたんだ」 井上はボソッと答えた。 「だったら、電気ぐらい点けて描いてなさいよ。目を悪くするよ」 美智江は両手を腰にあて言った。帽子を横に被った美智江はおてんばそうでとても似合っていた。 「どれどれ……」 と、美智江は下書きを覗き込む。 「どうも、工藤先生が星飛雄馬になってしまうんだ」 言い訳がましく井上が言うと、美智江はしばらく考え込んだ。井上は美智江からどんな反応か怖かった。 「いいんじゃない!」 美智江が言った。 「はじめくん、無理に直すことないよ」 「えっ、だって工藤先生の似顔絵だから星飛雄馬じゃまずいんだろう?」 「うん。最初はそう思った。でもね、みんな巨人の星が好きみたいだよ。うちのソフトボール部だって、♪行け行け飛雄馬~どんと行~け~って、歌ってんだから、すごい勢いでこのマンガは人気になっているんだもん」 「…………」 「だから、巨人の星人気にあやかれば、意外に注目をあびるかもしれないじゃない?」 なんだい、また言うことが変わるのか?と、井上は胸の中で言った。 「はじめくん、じゃあ、清書して……」 「せいしょ?ああ、ペン入れしていいんだね?」 体育館から西日が射し、校舎と樹木の光と影のコントラストが鮮やかになった。三年三組の教室はだんだんと暗くなっていく。 2006年 9月16日 土曜 記 2006年 9月17日 日曜 記 2006年10月 2日 月曜 記 2006年10月 3日 火曜 記 2006年10月 5日 木曜 記 2006年10月 7日 土曜 記 (文中の敬称を略させていただきました) >~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第11回 似顔絵 その2 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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