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カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』 ●第12回 生徒会新聞委員会 第909回 2007年3月30日 生徒会新聞委員会では企画会議を行っていた。新聞は最初の企画会議でおおよその内容を決めるが、体育大会や文化部の対外での活躍の結果によって、記事の内容や企画が変わってくる。 美智江は新任の先生方の似顔絵を持って参加した。 ケント紙に製図インクと墨汁で描かれた似顔絵の原画は、委員たちにとってはひときわ輝いて見えた。 「これが美術部の井上くんが描いたのがい?」 顧問の教師安藤直子が頭を軽く振りながら言った。 「上手ね~!」 委員たちは一同に原画の迫力に見入っていた。 美智江は「やったー」と心の中で叫んだ。 美智江の狙いは井上はじめのマンガの売り出しだったから、これで第四中学校の中で井上のマンガに対して一目おかれると密かに喜んだ。 「井上くんといえば、母の日の『第九回お母さん似顔絵作品展』でも入賞していたわよね」 と誰かが言った。 「そのコンクールの記事も入れようよ」 と、もうひとりが言うと、みんなが賛成した。 美智江はニコニコして聞いていた。 「そうだ、荒木くんが特選のお母さん賞で、井上くんが入賞だっけ?」 「井上くんって、美術部の部長でしょう?その人が荒木くんよりも実力が下なの?」 そのことを聞いた瞬間に美智江の表情は硬くなった。 「まずいわ、せっかくのはじめのマンガが霞んでしまう。どうしよう……」 美智江は自分の作戦が狂ってしまうと思った。 だいいち井上の母はとっくに亡くなっており、井上の描いた母は自分の母代わりのおばあさんが縫い物をしている姿だった。だから歳も老けて見える絵だった。井上にはハンディがあったのだからと美智江は考えた。 「県内五千人の応募の中から本校からは四人が選ばれた。これは快挙なのよ!入選者はみんな実力者なの」 安藤は教師の立場で入賞した四中生の実力を讃えた。 「県下で五千人から選ばれたんだからやはり凄いことよ。この記事は私が書きたい!」 と、二年生の鈴木晴美が言った。 「それじゃあ、記事は大きく載せるようにしましょう」 安藤が言う。 井上がマンガを描いていること自体まだまだ知られていない。美智江の作戦は、子どもたちが熱中するマンガを、身近な井上が描いていることをクローズアップさせることで、彼のマンガを学校内で見直させようという作戦だった。 それから井上が二年生の時に、壁新聞に描いた原子力空母入港反対のイラストが校長先生の逆鱗に触れたことがあった。美智江は、井上に生徒会新聞に教師の似顔絵を描かせ、一躍注目させることで印象の悪さを返上させることになるだろうとも考えたのだ。 美智江は焦りだした。このままではこれらの思惑が薄らいでしまうのではないかと……。 そうだ!!! 「安藤先生!新聞にとって不可欠なものがありますよね?」 「あるわね、社説ね」 「そうではなく、なんていうか、読者のうっ憤を晴らすというか……」 「ああ、マンガね~」 「そうそう、それです。はじめくんは絵も上手ですが、マンガも上手なんです」 「そうね、こんなに似顔絵が描けるんだものね」 「それははじめくんから言わせると似顔絵なんですね、マンガとは読者の心情や社会の動きに対しての風刺なんかを描くものではないですか」 「中山さんはとても勉強家ね」 「そこで提案ですが、今回、四コママンガを載せてみたいんです」 「井上くんが描くんですか?似顔絵の他にですか?」 「ハイ、似顔絵は記事と同じで書いた者の名前を出しません。誰が描いたかはわからないですが、マンガは作者名を入れます。しかも、彼の描くタッチは違うようにさせますから」 「あなたの熱心さには感心しました。でも少しみんなで考えてみましょうね。みなさんもいいですね」 安藤は結論を先延ばしにした。 (文中の敬称を略させていただきました) >~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第12回 生徒会新聞委員会 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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