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カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』 ●第33回 就職 第961回 2007年8月18日 「モシモシ!イ・ノ・ウ・エ・クン!聞いている?」 受話器のむこうで石井の呼び声が流れている。 「どうしたの?井上クン!?」 井上は、手塚治虫先生との初めての出会いを思い出して、その世界に入っていた。 「ハジメ!……はじめ!! ほらなにしてんなや!!石井さんが呼んでいるのにボーッとしてえ……」 と、見かねた祖母のふみが井上に大声で話しかけた。 我に返った井上は、 「ごめんなさい……びっくりしました。 夢のような話なので。だってわずかの間に二回も会えるなんて。しかも、山形でとはびっくりです」 井上は興奮しながら応えた。 「ハッハッハッハッ……そうかそうか。でも、手塚先生はキミたちに会ったときに、山形での再会を約束したと言ってたよ」 石井はそう言ってから、実は手塚先生がね、と慎重な語り口で言い始めた。 「できるだけ人数は絞ってもらいたいと言っているんだ。キミたちにいろいろ訊きたいことがあるようなんだ」 「……はあ……」 井上は気の抜けた返事をした。 「それでね。あのまんが展で中心になっていた、村上クン、たかはしクン、鈴木クン、宮崎クン、それとキミがこれぞと思っている人にしてちょうだい。いいね?」 念を押すように石井が言った。 「石井さん。手塚先生の訊きたいことってなんでしょうか?」 井上は気になった。マンガ界の大御所がボクらにどんな話があろうというのだろうか。 あんなに忙しい手塚先生がボクたちと会いたがっていることには、なにか理由があるんだろう。 「はじめ。石井編集長の用事はなんだったなや?」 と、訊いた。 「手塚先生が山形に来るから、その時に会おうって。オレたちさ話があるらしい」 「話ってなにや?」 「よっくわかんねげんど、大事な話らしい」 ふみは心配になってきた。 「はじめ。就職のごどがあ?」 ふみは、はじめの顔色を見て、そっと訊いた。 「ばあちゃん。なにや、就職のことって?誰のや?」 はじめはふみの質問が意味不明で訊きなおした。 「…………」 ふみはそれ以上答えなかった。 しばらく沈黙が続いた。 「変なばあちゃんだなあ」 はじめはそう言って二階の自分の部屋に戻ろうとした。 ふみの前を通るはじめにふみは、 「はじめ。先輩の近藤くんや絹代さんの進路はどうするって?」 と、訊いた。 「近藤重雄さんは大学に進学希望で、絹代さんはたぶん交通公社を希望しているみたいだ」 と、井上が答えた。 「はじめはどうするつもりだ?」 と、ふみが訊いた。 「オレは公務員かな。市役所だ」 と、答えた。 「そうがあ!!んじゃいいな(だいじょうぶだね)」 「ばあちゃん。だげどオレはまだ高二だよ。時間はまだあるがらなあ。どうなっかなあ?」 「そんなごど言わねで、市役所にしろ!なあ!?」 ふみは念を押すように井上に呼びかける。 「ばあちゃん。変だ!!」 そう言って、はじめは階段を昇って行った。 「ホントに、だいじょうぶかな?」 ふみは心配そうにポツンと言った。 2007年 3月 6日 火曜 記 2007年 3月11日 日曜 記 イラスト・たかはし よしひで (文中の敬称を略させていただきました) ~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第33回 就職 「山形マンガ少年」まとめてご覧いただけます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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