また春の始まりを感じる季節がやってくる。
別れの季節で始まりの季節。
キミの初めての冒険が終わって、スグに新しい冒険が始る。
そして多分、キミは遠からずしてあの日の事を学ぶのだろう。
うん、この場所で何があったのかを知ってしまうんだ。
少し前の夜、ふと祖父母の事を思い出していた。
子供の頃の宿題。
祖父母をはじめ、お家の方に戦争の話を聞いて感想を書く。と、昭和生まれなら”あるある”の宿題。
子供だった私は何も考えずに軽いキモチで聞いたんだ。
それでも...
真剣な顔で話してくれたじぃちゃんの顔、今も覚えてる。
遠い目をして話してくれたばぁちゃんの顔も覚えている。
だけど...
肝心な所はじぃちゃんもばぁちゃんも言葉を濁らせていた。
じぃちゃん、あなたがシベリアで見た地獄はとても悲惨な景色だったのですか?
ばぁちゃん、空から降ってくる焼夷弾をすり抜けて生抜いた朝に何を思ったのですか?
70年前の戦争と8年前の災害…もちろん、別物。
理屈じゃわかっているけど。
どうなんだろう?
若い子たちに…子供たちには”あんな思いはさせたくない”ってキモチは一緒ですか?
遠からずしてあの日の事を学ぶ彼女に私は上手く伝えられるのだろうか?
不気味な地鳴りの音がどんな物なのかを...
そして、その音が耳の奥底に残っている事を。
激しく揺れる中、体が床に投げ出された時、痛みを感じたと同時に「死ぬ事」に覚悟した事を。
大勢の人たちが逃げてきた、みんな何かを失って…みんな泣いてたあの日の夜を。
眠れない夜、見知らぬ人の涙に付き合った事を。
通じた携帯のメールの暖かさに暗い駐車場で一人泣いた事を。
津波に流され命を落とした友人の笑顔を。
明日はきっと良い事あるからと信じては裏切られた毎日を...
私は上手く彼女に伝えられるのだろうか?
どうなんだろう?
じぃちゃん、ばぁちゃん、言葉を濁した気持ちがわかる気がします。
70年前の戦争と8年前の災害…もちろん、別物。
理屈じゃわかっているけど。
悲劇や惨劇を間近で見て、経験したら...あんな思いは誰にもして欲しくないもんね。
それともう1つ...ドコかに罪悪感を感じているから...だと思う。
不謹慎だけど非日常のドタバタをドコかで楽しんでいた。
悲しみの隣でささやかな幸せを握りしめていた。
満たされている時でさえ食べる事に執着していた。
あの混乱の中では善悪の境が見え難くて...
人知れず傷つけて、傷ついて...みんな自分を見失いかけていた。
誰もがココロにぽっかりと穴を空けてしまい...
その穴は8年経っても埋める事が出来ないまま。
今の私にできる事はなんだろうか?
そんな事を考える時間は年月と共に減ってはきたけど…
時々、中々、どーして、ぼんやり、考えてしまう。
で、過去の宿題を思い出し、思ったんだ。
彼女の未来の宿題に全てを隠さずに上手く伝える事。
それが果たして出来るのだろうか?
やりもしないで私は一体何に怯えているのだ?と。
でもね、最初に伝える事は決めたんだ。
混乱と葛藤の中で生きている事に感謝をし、諦めていた”家族”が出来たって事。
そしてキミの笑顔の為ならどんな苦難もきっと乗り越えられると信じているって事。
私は彼女にコレだけは伝えられる。
彼女の笑顔を見る度にそう誓える。
ココロを整理して、彼女の冒険に僕も付き合いたい。
いつの日か全てを上手く伝えられるようになればいいなと思った。
今夜はあの災害から8年目の夜。
2019.3.11