カテゴリ:小説
翌日、近場の警察にギザと冬子は向かった。 車の外には粉雪が舞い、地面を真っ白にしていた。 「駐在さん、この女の人だけど、昨日の夕方、 白樺林の冬子の木の下で倒れていたんだ。 自分の名前が分からんようだ」 「ほう、記憶喪失なのか?」 冬子はコクリと頷いた。 「なんか身元を証明するようなものはなかったの?」 「何も無い。荷物は何も無かった」 「ほう、いったいどうしたことかのう。 捜索願が出ているか知らべるからまっとって。昨日の今日だから、 まだ出ていないと思うがなぁ」 そう言いながら、駐在は冬子のうつむいた顔をまじまじと見た。 「しばらく、この女は俺んとこで預かるで、身元が分かったら 電話をお願いします」 「おお、待って、いいの? この男んところで?」 「はい、いいです」 冬子は応えた。 「じゃ、昨日の服装を書いて、ああ、写真を一枚撮っておこうね」 ギザと冬子はそれから、自宅に戻った。 「俺は、狩りに行ってくるから、ゆっくりしていな、ここで」 とやさしく冬子を見て言った。 冬子は 「はい。ありがとう」 と言うと、深くギザにお辞儀をした。 ギザは狩りに出掛けた。 先ほど粉雪だった雪は重い牡丹雪に変わっていた。 道路には雪が積もり始めていた。自宅から四十分ほど車で走り、 鹿の群れが集まる地点まで辿り着いた。 いつになく気合いが入っていた。 猟銃を取り出し、薬きょうを入れ、狙いを定めた。 バーン!キューン! 白樺の枝から雪が震い落とされた。 ギザは、地面の真っ白な雪に深い足跡を刻みながら 仕留めた獲物の方へ向かう。 一匹の雄ジカの周りに、鮮烈な赤が花びらのように散った。 ギザは、胸に十字を切った。獲物を仕留めたときはいつもそうするのが常だ。 そうして、鹿の足を縄で結って網に入れた。 そこから、また、移動して、小さな池がある場所で、 雪に解けてしまうばかりの白いウサギを捕まえた。 こちらは、仕掛けた罠にうさぎが掛かっていたのだ。 すっかり息絶え絶えになっている。 「いよいよ冬の到来か・・・」 ギザは、二頭の獲物をシートを敷いた車に入れ、 冬子と過ごすつかの間の喜びを感じていた。 読んで頂きありがとう! 明日は最終回にしたいと思います。 写真・イラストはお借りしています。 では、明日も良い日を~
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