月夜の晩、
影という影が一つになって、
女が生まれるという。
女は透き通るほど白く
月の光が生み出した女神のようだった。
けれども女は、なんの為に生まれたのか分からない。
生きるために生まれたのではなく
幻影の為の姿でしかなかった。
だから女は悲しみを持っていた。
手のひらに悲しみの真珠を握りしめていた。
この真珠を受け取った人が
私を愛してくれたら、
私は人間として生きてゆけるのよ。
けれども、女の手の平の真珠を見る男はいなかった。
月夜の晩、
女は遂に影に戻らなければならない時が来た。
静まった月が満月になった時
女は好きな男に手を伸ばそうとした。
けれども、それはイリュージョンだった。
男だと思った姿が梟に姿を変えた瞬間
時間の針は
するすると映像が回るように後戻りしていった。
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<絵 『こだま』 ポール・デルボー>
2008年4月の作品
本日は酷い耳鳴りで苦しんでいます。