朝鮮日報にバラされたトヨタのアヤシイ比較試乗
8/30付け朝鮮日報に「四輪駆動レクサスと後輪駆動ベンツで比較試乗!?」という記事が載った。韓国トヨタが主催したレクサスLS600hL(四輪駆動)の試乗会で、走行安定システム「VDIM」の性能比較の相手としてベンツ S500L(後輪駆動)を選んだことへの疑問を呈する記事だった。「やっぱり言われたな」と思った。実は2ヶ月半前、Mizumizuは日本のレクサス販売店の計らいで、似たような試乗会に東京の晴海で参加していたのだ。それがこのときの写真。「レクサスフルラインナップ試乗会 ~Lexus Dynamic Experience Tour 2007~」。イベント自体は非常によかった。目玉である「LS600h」と競合モデルのメルセデスS600LやBMW745iとの比較試乗ができる。VDIM性能の体感、100km/h直線加速走行でのフルブレーキによる制御性能体験、ジグザク走行での車両安定性体感などといった企画も、レクサスの長所とライバル車の弱みをついた(?)よい企画だったと思う。待ち時間の「おもてなし」もソツがなく(出されたお菓子は最低だったけど。ついてにいうとMizumizuの行くレクサス販売店のコーヒーも最低。トヨタって美味しいモノを知らないんじゃないの?)、そんなに退屈せずに時間を過ごすことができた。引率もよかった。多くの人々を集め、楽しんでもらおうとするトヨタの努力には頭が下がる。だが、朝鮮日報での指摘のとおり、VDIM(メルセデスでは同種のシステムをESPと呼んでいる)性能の比較体験には非常に引っかかるものを感じた。路面に特殊ビニール素材を敷き、その上に洗剤を混ぜた水をまくことで、アイスバーンと似た状況を作り出し、その上で車をジグザグ走行させたあとブレーキをかけて、車の停まり方を体験する。韓国トヨタが行った方法と同じだ。しかも、4WDのレクサスとFRのメルセデスを対比させるというのも同じ。駆動方法の違いについて、ブリーフィングではっきりした説明はなかった。途中で、集まったお客の中から「えっ? ベンツはFR?」という声があがってはじめて、インストラクターは「そうです」と認めたうえ、「FRのレクサスも用意していますが・・・」と特設テントの横に置いてあるクルマを指差した(つまり、クレームが出ることも予想してちゃんとFR同士で比較できるよう用意していたのだ)。希望すればFRのレクサスも試せるということなのだったが、わざわざ希望する人はいなかった。ついでに言うと、乗って走り出したときの乗り心地がえらく違った。レクサスは路面のゴツゴツをモロに拾い、乗り心地が悪い(つまりサスがかたい)、メルセデスはまるで雲の上にでもいるような柔らかな乗り心地。すぐにジグザク走行からブレーキがけに入るから、ほとんど気がつかないような短い時間だったが、「もしかして、スポーツモード/コンフォートモードの設定をレクサスとメルセデスで変えてる?」と一瞬思った(が、確認する時間はなし)。朝鮮日報は、「ではなぜ、トヨタはこのような形で試乗会を進めたのでしょうか。単純な間違いだったのか、あるいは故意だったのかは分かりません」としている。もちろん、単純な間違いなどではないことは確かだ。こっそりFRのレクサスを用意していたことからもわかるし、そもそも4WDとFRでこんな比較をしようとするのはおかしい。4WDとFRの性能の違いもわからないような「クルマに関心のない人々」を対象にするのならともかく、トヨタのフラグシップモデルを買ってもらおうという企画なのだ。ある意味、このアンフェアさは、潜在顧客を見くびっている。朝鮮日報はさらに、「比較対象にもならない車種と比べることで、レクサスの性能が優れていると強調したことや、またこの事実を全く知らせないまま比較試乗が進められたことについては、問題があるのではないか」と言っている。そのとおり。4WDのレクサスに対して比較するならメルセデスの4MATIC(四輪駆動をメルセデスではこう呼んでいる)をもってこなければフェアではない。トヨタは朝鮮日報の取材に対し、「今回の試乗は基本的に加速を伴わないコース設定だったため、後輪駆動車と四輪駆動車のトラクションの差がVDIMを評価する上で、さほど大きな問題にはならないと見ている」と答えたという。「大きな問題にならない」といいながら、自社モデルはちゃっかり4WD、ライバル車はFRというのが突っ込まれる理由になるということがわからないのだろうか。そう言うのなら、レクサスのFRとメルセデスの4MATICで試乗させたらいい。それでレクサスのほうが遥かに優れていたなら、誰もがレクサスの走行安定システムの優秀さを納得できる。実際ダイムラーはダイムラーで、4MATICには力を入れている。この春、台場の特設会場に人口降雪機で雪道を作り出し、4MATIC車でのスノードライビングを体験させるイベントを開催したのも4MATIC宣伝の一環だろう。ビニールに水と洗剤というトヨタのビンボー臭さに比べると、春の東京に雪まで降らせちゃうベンツはさすがに思い切りがいい。ダイムラーのこのイベントには行ったワケではないが、「カーグラ」「4x4」「Xa Car」などといった自動車専門誌はメルセデスの4MATICの素晴しさを伝えていた。トヨタが、自社フラグシップモデルの中でも最高の走行安定性を誇る4WDモデルの性能を知って欲しいと思った気持ちはわかる。確かにふらつきの少ない、すばらしい制動だった。だが、それを強調するためにわざわざ競合他社のFRモデルをもってくるのはセコすぎやしないか。レクサスLS600h自体は文句のつけようがないぐらい素晴しいクルマだった。だからこそ、こうしたちょっとした「アンフェアなこと」でせっかくのクルマの性能に疑問符を残すような原因を作ったのはまったく惜しい。「きっと誰かに言われるだろうな」と思っていたら朝鮮日報に大きく伝えられてしまった。こうしたつまらない小細工はいっさいやめるべきだ。改善に改善を重ねて世界のトヨタと呼ばれるようになった企業には似つかわしくない。「自動車のパイオニア」を自認するドイツの長い歴史をもった一流ブランドに伍して、プレミアムメーカーになるつもりならなおさらだ。こういうことをしてる限り「しょせんトヨタでしょ」というお客の視線は払拭できない。