オテル・ドゥルオーでジャン・マレー遺品のオークション
2009年4月27日に、パリの有名な競売場オテル・ドゥルオー(Drouot)で、ジャン・マレーの遺品の一部がオークションに掛けられ、トータルの落札価格は196万ユーロ(現在のレートで約2億5,480万円)に達した模様。高値がついたのは、やはりというべきか、マレーが所有していたコクトー関連の遺品。一番の目玉だったのは、コクトーが25年にわたってマレーに送り続けた書簡集。29万7,408ユーロ(約3,800万円、諸費用込み)でロイヤル・モンソー・ホテルのオーナー、Alexandre Allard氏が落札した。ロイヤル・モンソー・ホテルは現在改築中で、2010年にリニューアル・オープンするというから、それに向けての宣伝広告のための投資かもしれない。手紙の中にはイラストつきのものもあり、そのイラストが結構カワイイのだ。こうしたイラスト入りの手紙を展示すれば、人目を惹くだろう。この書簡集には、ブンガク的価値はたいしてないと思うのだ。ジャン・マレー自身、『ジャン・コクトー ジャン・マレーへの手紙』の序文で、「ジャン・コクトーの手紙は、いついかなるときにも、美しい文など書こうとしてない。そこにはいかなる文学もない」と書いている。実際…「ぼくのジャノ、愛しています」「手紙をください」「葉書1枚で大喜びなのですが」「君からの便りがない。泣きたい気分です」↑25年間、ほぼこればっかり。訳者の三好郁朗氏も、「(コクトーの手紙は)ただひたすら、『愛しています』を叫びつづける記号の氾濫であるかのようだ」と書いている。2010年5月には、コクトーとマレーが共同名義で購入したミリィ・ラ・フォレの別荘が、ジャン・コクトー記念館として開館するという(しかし、この話は延び延びになっているので、本当に2010年に開館にこぎつけられるかどうか、大いにアヤシイのだが)し、本来ならそうした場所で展示されるのが、一番ふさわしいと思うのだが、結局オークションに出したほうが、持ち主には金銭的なメリットが多いということだろう。コクトーの書簡集、売ったのは多分、マレーの養子になったセルジュ・マレー氏だろうなぁ…他にもマレーが生涯大切にしていた、ジョルジュ・ライヒの肖像画も売りに出された。これは5,576ユーロで落札。マレー自身が描いた絵画はたいてい、50万~100万円の間の値がついたよう。絵画作品の目玉もやはりコクトーで、1952年作のジャン・コクトー自画像が、1万2,000~1万5,000ユーロの予想価格に対して、3万5,000ユーロ(約455万円)、諸費用込みで4万3,372ユーロ(約564万円)で落札。詩人コクトーはいまや、画家・イラストレーターとしてのほうが人気があるかもしれない。1916年にピカソが描いたジャン・コクトーの肖像画が、諸費用込みで5万5,764ユーロ(約725万円)で落札。すべて生前にコクトーがマレーにプレゼントしたものだ。コクトーは手紙で、「君がぼくに関するものを手に入れるのに、君のポケットから何がしか出させるなんて許さない」と言っていた。それをマレーの養子が売り払う――しかも、相当大もうけ。オークションの予想落札価格と実際の落札価格を見ると、軒並み3倍から4倍、物によっては10倍の値がついている――とは…オークションのカタログを見ても、洗いざらい、かなり売りさばいている(苦笑)。セルジュ・マレーはお金に困っているのか?? こうやって、元来一箇所に保管されてしかるべきものが、どんどん拡散していく。コクトーが描いたマレーの肖像画も、ほとんど全部売られたのではないだろうか。おかしいのは、線画の場合は、コクトー作品でも50万円以下で買えるのが、ほんの1色でも色がつくと、価格がいきなり50万円ぐらいハネ上がる。白黒よりカラーのが高いというのは、アート市場ではありがちだが、こんなことなら、全部ジャン・コクトーにちょっちょと色をつけてもらえばよかったのに(笑)。マレーの遺品の中には、コクトーの著作『存在困難』の生原稿もあるはず。マレーの誕生日にコクトーが贈ったものだが、これが売りに出されたという話は聞かない。そのうちに出てくるのかもしれない。ただこれ、コクトー自筆のイラストつき私信ほどには、値がつかない予感。写真はネットで見つけたジャン・マレー(左)とジョルジュ・ライヒ(右)