高橋選手のショートのルッツがフリップのwrong edge判定される可能性はないのか
そもそもEと!を技術審判が判断して区別することにしていたのをやめて、両方同じマークにしたというルール変更も疑念を招く。本当に技術審判が正確にジャッジングできるなら、ただでさえ多い加減・減点要件を頭の中でプラスマイナスしなければならない(これはあくまでタテマエだ。本当はそんなスーパーコンピュータのような頭脳をもったジャッジがいるとは思えない。GOEはほとんど、経験にもとづく直感で出されていると思う)演技審判の負担をさらに増やす必要などないはずだ。技術審判のつけたEと!をあとから検証すると、どうも不正確ではないか・・・と突っ込まれるのを避けるために「間違い」も「不正解」も一律にEでよいとしたのではないだろうか?もう1つ、「そもそもルッツ、フリップって何?」と思わせるジャンプが、NHK杯のショートであったと思う。それは高橋選手のショートの「ステップから直ちに飛ぶ単独ジャンプ」。昨年同様、ここに高橋選手はルッツをもってきた。ところが今年は入り方をわざわざ変えて来た。高橋選手のルッツの入りを見て、一瞬Mizumizuは、「えっ? フリップを二度跳んでる。しかも(フリップなのに)アウトエッジで」とガクゼンとしてしまったのだ。すでに連続ジャンプでフリップを跳び、単独ジャンプでまたもフリップを(それもwrong edgeで)跳んでしまったら、点数がなくなってしまう。ところが、プロトコルを見ると、ちゃんとルッツ認定になっていて(つまり、フリップのE判定ではなくて)、何も心配していなかった連続ジャンプのフリップのほうにEがついている。ステップから直ちに跳ぶジャンプに関しては、今季のルール変更で、「(従来より)厳しく見るように」という但し書きがついた。ステップから直ちに跳んでいない場合は、きっちり減点対象にするようにというお達しだ。それを受けて入り方を変えたのかもしれない。だが、それには疑問符がつく。逆時計周りにターンしたあと高橋選手はレフトバックアウトにのっており、それはつまり「ロッカー」だということだ。ロッカーからのジャンプならば、このジャンプは「ルッツ」だと解釈できることになる。実際そう解釈されたからルッツ認定されたのだろう。そして、高橋選手はバックアウトにのる時間を少し長くして、ルッツだということを強調した・・・ようにも見えなくもない。だが、そうすることで、「直ちに跳んだ」という印象が薄まってしまった。ルールにともなう入り方の変更だと考えると、あまり効果がなく、逆にこの入り方を選択したことで、たとえジャンプに入る直前がロッカーであっても、「フリップのwrong edge判定」される危険だけが残るジャンプに見える。当然、こんなことは高橋陣営は考えているはずで、当該ジャンプがルッツと判定される自信があってやったことなのかもしれない。去年のショートのような入り方のルッツで何も問題はないと思うのに、どうしてわざわざ変えたのだろう?だが、ルッツとフリップの「プレパレーション(入り方)の定義」は明文化したものがないはずで、たとえ事前にカナダ(ショートの振付師の本拠地)および日本のスペシャリストに相談したうえで、「大丈夫だ」ということになったにせよ、別の国の技術審判団がジャッジングしたときに、同じように解釈してくれるかどうかはわからないのではないだろうか?今回のNHK杯の技術審判は、スペシャリスト:Mr. Tomoaki KOYAMAテクニカルコントローラー:Mr. Joseph L. INMANアシスタントスペシャリスト:Ms. Sung-Jin BYUNとなっており、ヨーロッパの審判が入っていない。別のメンツのパネルとなった場合、あのルッツはルッツと解釈してもらえるのか。フリップのwrong edgeにされてしまう可能性は本当にゼロなのだろうか?一度その試合の技術審判によって判定がなされたら、たとえその判定がグレーであっても覆ることはない。スピンではよくあることだ。コストナー選手は過去にユーロ選手権でのスピンノーカウントの判定を不服として正式に抗議したことがあるが、認められなかった。この入り方のルッツのリスクを高橋陣営はどう考えているのだろうか。記憶ベースなのだが、同じような跳び方をしてルッツ申請していた女子選手が、通常はフリップのE判定されながら、ごくまれにルッツ認定されたといったふうに、判定がブレたケースも過去にあったように思う。高橋選手のルッツがここ一番の大きな試合(たとえばシーズン最後のワールド)でフリップのE判定になってしまったら、大変なことになる。また、この「フリップのwrong edge」にも「ロッカーからのルッツ」にも解釈できそうな高橋選手のショートの単独ジャンプを見ていると、「ルッツ/フリップ」を別々のジャンプにする必然性にも疑問符がつく。またここで想起されるのは、「ルッツ/フリップは1つのジャンプとすべき」とISUに提言したあるコーチグループの意見だ。http://www.iceskatingintnl.com/archive/features/proposals_to_improve_ijs.htmUnify the base value of the Lutz and the Flip jumps into a single jump. In view of the never ending controversy over the starting edge of the Lutz and the flip jumps it is proposed of getting rid of the take-off edge requirements for these jumps. This is not unprecedented in the world of figure skating. The "Toe Walley" used to be a "real" jump and now it is just the same as a toe-loop. The skater will be allowed to take off from the inside, the outside, or the flat of the blade. A competitor will be allowed to attempt this Flip/Lutz jump twice, following the current repetition rule for jumps.ルッツとフリップの基礎点を単一ジャンプに統合する終わりのないルッツとフリップのstarting edge (踏み切りに入るときのエッジ)をめぐる論争を考慮して、take-off edge(踏み切り時のエッジ)条件(つまりアウトかインかという)を廃止すべきだ。これはフィギュアの世界で前例がないことではない。かつて「トゥウォーレイ」こそ「本当の」ジャンプとされたが、今ではそれは単にトゥループと同じになっている。スケーターは、イン/アウト/中立のどのエッジで踏み切ってもよい。そして、現行のジャンプ挿入回数制限のルールにしたがって、フリップ/ルッツは2回まで試みてよいとすべきだろう。この提言のうちのstarting edgeという表現は、Mizumizuには「踏み切りに入っていくときのエッジ」という意味で書いているように見えた。つまりは踏み込んでいく間にエッジがスライドして、take-off 時に間違ったエッジになったかどうかについての判断、その見極めが難しいということを言っているように思う(だが、もしかすると、高橋選手のショートのルッツのように、プレパレーションを含めてstarting edgeと言ってる可能性もあるかもしれないと今回チラと思った)。そこに「終わりなき論争」があると言っている。日本でこうした論争があったという話は聞かないのだが、確かに、判定は難しいだろう。それもやってみてわかったことだ。take-off 時に間違ったエッジにスライドしたのか、あるいはtake-off したあとにそう見えたのか、微妙な跳び方をする選手も多い。take-off 時には中立に入ってしまったか、そう見えて多少は正しいエッジに留まっていたのか、その見極めも難しい(だから、元来問題ないはずの高橋選手のフリップにも「不明確」に見えたという理由でEがついたりするということだ)。そうした判定の難しさに加えて、「フリップのwrong edge」にも「ロッカーからのルッツ」にも解釈できそうな入り方があるということ。もちろんこれらがMizumizuの考えすぎで、あのショートのステップからのルッツは間違いなくルッツ認定されるという絶対的な確証があって、高橋陣営がやっているのなら、どうのこうのと外野が言う必要はないかもしれない。今年わざわざ変えて来たのには、ちゃんとした別の理由があるのかもしれないからだ。だが、案外ここ一番の大事な試合でジャンプを跳びすぎてしまったりと、妙におおらか(ツメの甘さというべきだろうが)なところのある高橋選手なので、老婆心ながら心配になった次第。