祝&祝! 小塚選手全日本初制覇&安藤美姫3度目の優勝(まずは男子から)
今回の全日本の印象を一言で言うなら、今一番強い選手が勝った・・・これにつきるということ。小塚選手のショートは、フィギュアスケート競技のお手本として永久保存したいほど。素晴らしさのあまり声も出なかった。ジャンプ、スピン、ステップ・・・すべてが完璧に近い。強いて、本当にあえて強いて言えばが、3回転+3回転のセカンドがもっと流れれば・・・。いや、やはりそんなことはどうでもよく、完璧と言っていいかもしれない。ここまであらゆる面で完璧なショートプログラムを、近年見ただろうか。これに比肩できる完成度をショートで見せた選手がいたら、教えて欲しいぐらいだ。非常に素直な、そして短いプレパレーションからエッジにしっかりと乗って跳ぶジャンプ、軸はまっすぐで細く、回転は速いのに、無理矢理力で回してる感じがしない。幅と高さのバランスの取れた大きなジャンプなので、見ていてダイナミックだ。スピンの美しさは奇跡と言っていい。あれほど長い時間回っているのに、ポジションも一定、回る位置も一定、速さも落ちない(そしてボジションを替えた後半には逆に速度を増す)。それでいてジャンプ同様無理矢理回転させている印象もなく、ポジションもまるで楽々キープしているように見える。足替えのときなど、氷をいたわってさえいるよう。スピンの入り方もきれいだが、出方のまた素晴らしいこと。このeffortlessの境地に達するまで、小塚選手はどれくらい地味な練習を長く積み重ねてきたのか・・・ 想像を絶する努力だと思う。だが、彼に残された、最後の、そして彼にとってはおそらく最難関の課題もハッキリした。そう、フリーでの自爆。ショートとフリー、2本揃えてこそ本当の王者なのだ。去年のワールドもそうだった。ショートで会心の演技をし、メダルが目の前にぶるさがっている状態で臨んだフリーでの大自爆。今回も程度の差こそあれ、同じことを小塚選手は繰り返している。フランス大会のような演技をすればいい。それだけだ。一度やり遂げているのだから、外から見れば、それは難しいことではないように見える。しかも2位との差が8.97点。4位の世界王者との差は13.13点もある。この点差はいくら高橋選手でも、今の小塚選手に対してはひっくり返せない。リラックスして自分の演技ができるようなアドバンテージを得たのに、フリーで登場した小塚選手はガチガチのコチコチ。自分で自分に過度のプレッシャーをかけている。最高の演技を披露したフランス大会でフリーに出て行くとき、笑顔を浮かべて佐藤コーチとどこか楽しげにアイコンタクトを取っていた小塚選手とは別人のように余裕がなかった。だが、出だしの腕を大きく使った振りは、シーズン前半に比べると格段によくなった。問題はジャンプを失敗したあと。なんとか、「落ち着かなきゃ」と自分に言い聞かせているのがありありとわかった。こうなってしまうと小塚選手は、エレメンツを正確にこなそうとする健気な機械になってしまう。「地球を抱くようなイメージ」というスケールの大きなコンセプトのプログラムなら、観客にそれを届ける精神的な余裕がなければ駄目だ。小塚選手に観客の応援は届いていたのだろうか? フランス大会のときは、Mizumizuが大感激した最初のスピンで観客が拍手を送ったとき、小塚選手はそれに応えるように微笑んだのに、今回は徹頭徹尾「ま・じ・め」。ときに音楽さえ忘れているように見えた。会場までわざわざ足を運んでくれるファンは、冷たい裁判官ではない。みな小塚選手を支えようとしている味方なのだ。それなのに、観客との間に見えない膜を自ら作ってしまっている。自分の世界に閉じこもって、次は、次は・・・とエレメンツのことで頭がいっぱい。小塚選手の伸びやかさに、観客は気持ちのよさを感じ、精神的なカタルシスを得る。ファンはそうしたくてうずうずしているのに、本人があそこまで「生真面目」に余裕がなくなってしまっては、見ているほうは気持ちよくなりようがない。最後のステップの前あたりになって、やっと少し観客に対して心を開く精神的なゆとりが出たようにも見えたが、「点は気にしない」「落ち着いてやりたい」「みんなに見てもらいたいプログラム」という意気込みとは裏腹なパフォーマンスになってしまった。自分の演技で観客を心地よくしてあげよう・・・あっちのお客さんも、こっちのお客さんも・・・そういう気持ちをもつことが大事なのだ。ショートで出来がいいと、フリーで緊張しすぎて失敗する。この課題の克服は、外から見るほど簡単なことではない。しかも皮肉なことに、自分に厳しく、真面目な人のほうがこの課題――ここ一番での自滅――をなかなか克服できない傾向がある。安藤選手のように、お客さんを見て、バナーを見て、皆が応援してくれる気持ちを受け止めて、それを心の中に満たして演技に入れるようになるまでには、内面が成熟しなければならず、それは周囲がアドバイスを与えてできることではない。小塚選手の周囲には日本フィギュアスケート界のエリート教育陣が揃っているが、この部分に関してだけは、「厳しい指導」でどうにかなるものではない。選手自身の内的成熟を待たなくては。小塚選手と対照的に、圧巻のコミュニケーション&パフォーマンス能力を見せたのが高橋選手のフリーだった。1位との大差を見れば、連覇は不可能。気持ちが切れもおかしくない状況に追い込まれて、高橋選手はなにもかもかなぐり捨てたような鬼気迫る演技を見せた。それでいて、気持ちだけが走りすぎて転倒してしまう・・・ということがない。どこかで冷静に演技をコントロールする高橋選手がいる。これには本当に圧倒された。ショートを見てファンは高橋選手のコンディションの悪さにガクゼンとしただろう。本人が口に出さなくても、それはわかる。そうした状況を分かっていて、ファンもなんとか高橋選手に滑りきって欲しいと願ったのだろう。点がどう、連覇がどう、そんなことはもうどうでもいいのだ。大ちゃんが無事にフリーを終えてくれれば・・・ そんなファンの心に素直に感応して、期待以上の演技をしてしまうのが高橋大輔の天才的なところだ。まるで肉体のない戦士が、魂だけで演じているような、尋常ならざる世界を見た気がした。この境地に達することのできる選手など、ほとんどいないだろう。長くフィギュアを観ているMizumizuだが、これほどファンのエネルギーを取り込んで、それ以上のエネルギーにして返してしまう選手は見た覚えがない。こういうことは、選手の性格が能動的でありすぎても、受動的でありすぎても駄目だろう。本人ですら、なぜ自分がそこまでの境地になれるのか、わからないかもしれない。天才の恐るべき集中力。だが、そのためにどれほど肉体と精神を犠牲にしているのかと思うと、胸が締め付けられるようだ。もともとフィジカルが強い選手ではない。精神的にも決して強靭ではない。だが、周囲に対して、常に心を開いていられる・・・これは教えられてできることではない。高橋大輔が神様からもらった大きな才能だろう。もう1人、無良選手のフリーも胸に迫った。トリプルアクセルの素晴らしさもさることながら、本人に何か期するものがあるのか、理屈ではなく伝わってくるもののあるパフォーマンスだった。南里選手については、まさか放送されないとは想像もしていなかった。だが、会場は一体となって盛り上がり、スタオベで南里選手を讃えたようだ。やはり日本のファンはいろいろな意味で、「わかっている」。BSで放送してくれるよう、ファンの皆さんはフジテレビにメールしてください。ところで、小塚選手の点については、「高すぎる」ということはまったくない。「高すぎる」「低すぎる」というときは、比較対象を誰のどの点にするかで変わってくる。たとえば、パトリック・チャンのロシア大会の演技構成点を見ると、ショート 40.42(3Aで1回転倒)、フリー 81.30(3回転倒)これは敵地・・・もとい、アウェイとはいえ、国際大会での点だ。実に呆れるほど高い。それに対して、今回の小塚選手はショート 40.85(転倒なしの完璧演技)、フリー81.10(2回転倒)本当なら、国際大会でもこのくらいの演技構成点を出してもらわなければいけなかったのだ。小塚選手の演技構成点が低いことは、あちこち(日本以外だが)から聞こえてきていた。さんざん「メダル一国一名様仕分け」に唯々諾々と従っているから、小塚選手は正当な評価を得られずに来た。それだけだ。高橋選手の技術点が低いのは、ルールおよび採点上の問題が多い。たとえば、フリーの4回転フリップはダウングレード判定(<<)なので、転倒していなくても3.48点にしかならない。小塚選手や織田選手の4回転トゥループは転倒しているのが、認定されている(回り切ったと見なされている)ので6.3点になっている(こちら)。それにしても、男子のスペシャリストは、日本選手にとっては実に縁起の悪い天野真氏だ。トリノワールドで、「素晴らしいジャンプ!」と各国の解説者が讃えた浅田選手の3Aをダウングレードして世界を驚かせた人物だ(ユーロスポーツの解説はこちら)。ウィキペディアによれば、チャンのコーチをしていたこともあるという。なぜ、わざわざカナダ在住で、「自分のライバルは高橋しかいない」とゴーマンかます世界2強(演技構成点での仕分けで)の片方の元コーチなどを呼んで高橋選手の出る試合のジャッジングをさせるのか。公平性が疑われるだけではなく、別の思惑があるのではという憶測を招きかねない。高橋選手は、ショートでのルッツのE判定を取られている。今季国際大会では一度もなかった判定だ。これではまるで世界に向かって「高橋大輔のルッツにはEをつけてもいい」と宣言しているようなものだ。高橋選手のルッツは、中立にさえ入っていないように見えるのだが(こちら)。中立気味に見えた可能性もあるが、その程度でwrong edge判定されたのでは、たまったものではない。そういえば、ウィキペディアによれば、天野真氏は女子の西野選手のコーチをしていたこともあり、現在は師弟関係を解消して西野選手は日本に戻ったようだ。天野氏に師事している間、彼女の成績はどうだったのだろう? 師事していた間は低迷、離れたとたんに復活・・・などという、疫病神のようなストーリーにはなっていないでしょうね。そもそも天野真氏はカナダにいるのだから、カナダでの大会に派遣されるほうが自然ではないか、アメリカや日本までわざわざおいでいただかなくても。カナダでの試合の女子のジャッジングを是非見てみたいものだ。いや、まさかカナダに住んでいるスペシャリスト、しかもワールドのスペシャリストを務めたほどのスペシャリストをカナダが使わないなどともったいないことをするわけがない。だとすると、ここのところ・・・というか、ほとんど・・・カナダでジャッジングする天野真を見た覚えがないのは、Mizumizuの記憶が悪いのだろう。