氷帝・羽生結弦の凄すぎるジャンプ
はぁ~、もうね。凄すぎます。なにがって、羽生選手のジャンプ。本当に。解説の佐野稔氏も、「凄い」の連発。それ以外、言いようがないですよね。本当に。よくパンクしていたという不調のルッツに入るときは、「まっすぐ…まっすぐ!」と、解説を忘れて、身内視線炸裂。よ~く気持ちはわかります(笑)。そのくらい、スリリングな高難度構成だった。そして、いちいち凄いジャンプだった。4回転なしで「無難に」プログラムをまとめた選手が金メダルという、ボイタノ時代に逆戻りしたかのような「フィギュアスケート男子暗黒時代」のバンクーバーから5年弱。これほどの高難度のジャンプを、これほどの完成度で跳ぶ選手が出るとは。そして、それが日本人だとは! この奇跡のような歓喜を、どう言葉にしていいかわからない。羽生結弦の登場は、女子では伊藤みどりの登場によって、それまでのフィギュアスケート女子の概念が一変したのと同じようなインパクトがある。羽生選手は男子のジャンプのレベルを次の次元に引き上げた。皇帝・プルシェンコが君臨していた時代を振り返って田村氏が、「他の選手には、もしかしたら勝てちゃうかなと思うこともあったけど、プルシェンコだけには絶対勝てない気がした」と言っていたが、羽生選手のジャンプのレベルを見ると、ついにその皇帝に匹敵する能力を備えた選手が現れた、と、そう思う。あの、高く上がり、シュッと目も留まらぬスピードで回り切ってしまう4サルコウ。いっそ「3回転が高くなっただけ」にさえ見えるほどの4回転トゥループ。4回転ジャンパーは過去数多く出たが、これほど易々と余裕をもって4トゥループを降りてこれる選手はちょっと記憶にないくらい。さらに、トリプルアクセルの「絶対度」。フリー演技前に、体を温めるために、まるでスピンがわりのようにトリプルアクセルを跳んでしまう。過酷なフリーの後半に、トリプルアクセルを、2つとも連続ジャンプにする。しかも、そのうちの1つが、3A+1Lo+3Sって…。絶句。これだけだって、できる選手が世界中に何人いるのだろう?フリーの最後の3ルッツは、もう体力も尽き果てたのか、高さが出ずにアンダーローテーション判定での転倒になってしまったが、ロシアの2選手のように、最後をダブルアクセルにすれば、転倒も防げてプログラムはまとまるだろうし、3ルッツの回転不足での転倒になるより、点は確実に取れる。だが、羽生選手は、あくまでも調子の上がらない3ルッツで来た。「ここでやっておいてよかったと思う」という佐野氏の言いたいことはよくわかる。基本、挑戦しすぎのプログラムが嫌いなMizumizuも、ここは全面同意する。他の挑戦しすぎのプログラムで、何年もあちこちで失敗を繰り返す選手と違い、羽生選手の場合は、他の高難度ジャンプにほとんど問題がない。4サルコウこそ転倒が多かったが、そのほとんどで認定されている。もともとルッツは跳べるし、乱れたルッツを修正して盤石にしていくためにも、体力面での限界値を上げていくためにも、フリーの最後の3ルッツはやっておいてよかったと思う。3ルッツでアンダーローテーション判定での転倒になったので、ここの点数はたったの2.52点だったが、それでも技術点は103.30点。3ルッツを後半に跳んだ場合、基礎点は6.6点だから、3ルッツが入れば、単純計算で技術点は108点台が出ていたことになる。はぁ~~。もうね、後半に4回転、いらないんじゃないですか? それは来季以降ということで。現状でも、「人間ですか、神ですか」なワケで、次回は3ルッツを降りてください。で、フリーはあれだけの高難度だから仕方ないとはいえ、ショートをね…コケないショートをお願いします。もう、それだけ。で、プログラムは何でしたっけ? ロミオ? あ、ファントムか! まあね、もう何でもいいです。何をやっても羽生結弦は羽生結弦。跳んで秀麗、ポーズを決めて美麗、強い視線を投げて不敵、笑ってかわいい。ほっそりした上半身には、ブルーを基調に華麗な装飾を施した衣装がよく似合う。ドレープやレースも彼のきれいな体のラインを引き立て、指さえセクシーに演出する。ショートの衣装のように、もともと長い脚をさらに際立たせるよう、腰にサッシュ・ベルト風のディテールを使ったりと、ファッションセンスの光るコスチュームは、毎回見るのが楽しみだ。フィギュアスケート興行は、今や羽生君頼み。どれだけの大人の生活がかかっていることやら?演技構成点は、技術点が100点越えだということを勘案すると、むしろ低いぐらいの91.78点。2位のフェルナンデス選手が技術点87.50点に対して87.22点で、羽生選手との技術点の差を考えると、フェルナンデス選手にもいい演技構成点が出たと言えるのではないだろうか。ミーシンに代表される、「演技構成点は技術点とのバランスを考えるべき」という指針に、わりあいに沿った採点で、これもソチ五輪基準だと言っていいと思う。トップ選手同士の争いで、技術点で圧倒的に勝っているのに、演技構成点で10点とか15点とか下につけられるという、暗黒バンクーバー五輪基準のころに比べるとずいぶんとマトモになった。ただし、それは例によって金銀を争う選手に対してだけ。他の選手に対する演技構成点は、相変わらずひどい。http://www.isuresults.com/results/gpf1415/ロシアの2選手に対しては、「あんたら、どっちが3位でもいいよ。技術点で決まりね。公平でしょ?」採点。ボロノフ(技術点83.05点) 77点コフトゥン(技術点76.35点) 78.90点日本の2選手に対しては、「羽生君さえ点出しとけばいいでしょ? あんたら2人は、もうそれだけ失敗したらね、圏外、圏外!」採点。無良(技術点80.76点) 76.26点町田(技術点56.23点) 75.08点技術点とのバランスで言えば、実は一番演技構成点が良かったといえるのは、最下位の町田選手だった、というオチ。これが「ISU特別強化指定選手」なら、ジャンプを失敗してももっと出るだろうが、逆に、あまり実績のない「フィギュア小国」の選手だと、技術点が出ても演技構成点がまったく上がってこないから、町田選手の点はそうした選手に比べれば、まだ評価してもらっているとも言える。結果だけを見れば羽生結弦は無敵に見えるかもしれない。だが、1つの高難度ジャンプを失敗すれば、それだけで10点から点が下がってくる、非常にリスキーなプログラムを組んでいるのも事実だ。にもかかわらず、難しいジャンプでの失敗が誰よりも少ない。他の選手も体調を整えて、まずは自分で組んだジャンプ構成をミスなく演じて跳んでほしい。それも限界ギリギリの。ボロノフ選手のように、ジャンプの助走をすーっと長く滑って、バーンと跳ぶだけではダメ。それはプルシェンコ時代のジャンプの入りかた。難しい入り方をしなければ。ことに羽生結弦を見たあとでは、見劣りがしてしょうがない。ボロノフ選手のように、4Tは1つ入って、ルッツもトリプルになって、3トゥループ+3トゥループも入れた、ワーイ! でも実は、フリップ跳ばずに、最後はダブルアクセルで安全策…では、優勝候補がよほどの失敗をしてくれない限り、いくらきれいにプログラムをまとめても、獲れて銅メダル。それが羽生結弦の時代だ。