もう1つの隠れた女王、王者の条件
平昌五輪の女子シングルの女王は、個人的にはメドヴェージェワ選手だと思っていることはすでに書いたし、今のその考えに変わりはない。同じことやってるだけなのに、五輪が近づくにつれ演技・構成点がどんどん爆上げされていく選手がいるのは、バンクーバー五輪に端を発する「流れ」なので、それについてはもう今さら触れないが、けがをする前は「敵なしの絶対女王」だったメドヴェージェワ選手のジャンプの技術に対して、実はかねてからMizumizuにはどうしても気になる点が2つあった。まず1つはルッツのエッジ。シニアに上がってきた当時からメドヴェージェワ選手のルッツのエッジは非常に疑わしく見えた。にもかかわらず、判定は一貫して彼女に甘かった。明らかなwrong edgeとまでは言えないかもしれないが、といって明確にしっかりアウトサイトにのっているとも言いきれない。ちなみに五輪前のヨーロッパ選手権では!(アテンション)がついたが、減点はなく、やや加点が抑制されたかな、ぐらいの採点。もう1つは連続ジャンプの「間のび」。これはソチでのロシア代表シングル女子にも見られたが、最初のジャンプを終えて次のジャンプにいくまで、ひざを曲げ、腕を振るようにしてかなり「構え」てから跳ぶ。簡単に言うとポンポーンと跳ぶ感じがないのだ。後者については今のルールでは、他の高品質要素があれば減点の対象にならないようで、その傾向はソチから一貫しているから別にメドヴェージェワ選手だけに甘いという話ではないが、前者のルッツはどうにもスッキリしない。もしメドヴェージェワ選手がルッツが得意なら、ショートにも入れるはずだし、フリーにも2度入れるだろう。アクセルジャンプについで基礎点の高いジャンプなのだから。ザギトワ選手はショートに1回、フリーに2回ルッツを入れ、さらにフリップもフリーに2回入れている。で、オリンピックのフリー。メドヴェージェワ選手のルッツのエッジはどうか…と目を光らせるつもりでもちろん録画もしたのだが、OH! NO! カメラが彼女のルッツのときに突然上方に切り替わり、よく見えなかった!しかし、その視点からだと、やはり若干インサイド気味に見えたのだ。画面では黄色の「審査(レビュー)」の印がついた。回転不足はないジャンプだから、当然これはエッジの判定のためのレビューだ。が、やはりというか、ルッツに!もEも入らず、そのまま加点ジャンプとなった。だから、メドヴェージェワ選手の平昌五輪でのルッツは、あまり信頼がおけるとはいえない技術審判団にとってはちゃんとしたルッツだったのだろう。五輪技術審判団に認められるルッツ(しかも加点も2以上でモリモリ)が跳べるんだったら、なんでショートに入れないのだ? なんでフリーで2回跳ばないのだ? ひるがえってザギトワ選手は、ルッツをショート1回、フリーに2回入れて、Mizumizuの記憶では、シニアに入ってエッジに疑問符がついたことはない。フリーにはルッツの次に基礎点の高いフリップも2度入れている。これは、マジで「最強」のジャンプ構成だ。後半に入れる凄さと、反面後半がジャンプばかりになるバランスの悪さばかりが言われているが、ザギトワ選手の「エッジに不安がない」強さはもっとクローズアップされていい。これまでずっと続いてきた五輪女王の条件。それは2回目につける3回転を回転不足なく回れること、そして3ルッツをエッジの不安なく跳べることだとMizumizuは書いた。そして、今回もなぜか、そうなったのだ。これは単なる偶然かもしれない。たとえば五輪が去年開催だったら、メドヴェージェワ選手に対抗できる選手はいなかった。ルッツが1回でも、手をあげて跳べるとか、映画の物語の主人公になりきれる表現力だとかがクローズアップされて、彼女のルッツのエッジが微妙であることは、忘れ去られたかもしれない。だが、1点、2点を争うガチンコ勝負になったとき、モノを言ってくるのは欠点のない技術力。今回女王になったザギトワ選手に揺るぎないルッツがあったことは、メディアで誰も指摘しないからこそ、Mizumizuが書いておきたい。男子シングルにもやはり、隠された王者の条件があったと思う。それはトリプルアクセルの強さ。4回転が勝負を決めると言われ、実際にそう見えるが、羽生選手は2つ目の4回転トゥループを連続ジャンプにできなかった。単独ジャンプが2回になると基礎点が削られるから、これは見た目以上に大きな失点になる。ところが、その直後に3A+1Lo+3Sを決めてしまう。これができたからこそ、66年ぶりの快挙もあった。エキシビションで回転を遅らせたアクセルジャンプを見せ、そのあとすぐ3回転アクセルを見せていたが、あれぞ羽生選手の真骨頂だ。五輪王者にふさわしい資質を備えながらシングル個人の金メダルのなかったランビエール選手やパトリック・チャン選手と羽生選手の違いを1つ挙げるとすれば、やはりMizumizuにとってはこのトリプルアクセルの技術力の差になる。メディアでは、後半にジャンプをかためることの是非や男子の4回転の話ばかりになっている。時代は流れ、技術は進み、3回転ルッツやトリプルアクセルが女王や王者を決めた時代は過去のものになるかもしれない。だが、今は少なくとも、やはりこの原則は生きている。