祝!!! 宇野昌磨、ついに世界の頂点に
オリンピックの本番が終わったあと、さっそくワールドを目指して練習を再開した宇野昌磨選手が、フリーをノーミスで滑ったというニュースを聞いて、大いなる期待を抱いたMizumizuだったが、それが現実になった。単独の4回転、連続の4+3を決めて首位に立ったあとのフリー。曲は『ボレロ』。名選手にしか滑りこなせない難曲だ。冒頭は格調高いポースが印象的な振付。ビシッと決まる宇野選手のポーズを見た時、奇妙なことにMizumizuはウクライナの生んだ偉大なチャンピオン、ヴィクトール・ペトレンコ選手を思い出した。重厚で風格ある滑りを得意としたペトレンコ。ウクライナに里帰りしているときに戦争がはじまり、キエフから脱出できずにいるというニュースが入ってきたばかりだ。その彼がこの場に舞い降りて、新たな伝説を紡む者を祝福しているようだった。それは単なる幻想かもしれない。しかし、アイスリンクには決して現れるはずのないものを見せてくれるのが、宇野選手の他の選手には決して真似できない表現力だ。例えば『天国への階段』では、宇野選手がふっと両手を差し伸べたとき、Mizumizuには天から降りてくる光が見えた気がした。観る者の想像力を刺激し、見えないものを見せてくれる能力――それは浅田真央選手にも、確かにあった。その意味で、宇野選手は浅田選手のもっていた、稀有な能力の継承者とも言える。別に統計を取ったわけではないが、おそらく浅田選手を愛するファンは、宇野選手のようなタイプのスケーターを評価するのではないかと思う。今回のフリー、とりわけ単独4回転の完成度が素晴らしかった。それも、ループ、サルコウ…なんと後半にフリップ。後半のフリップを素晴らしい完成度で降りたとき、宇野選手の勝利は決定的になった。そのあとは体力がもたなかった感がある。4トゥループで乱れ、3Aからの3連続は最後がシングルフリップに(3A+1Eu+1F)。それでも、失敗は最小限…という印象におさまった。お休みする間のない難曲、ボレロ。途切れない表現を重ねながら、これだけ難度の高いジャンプを決める、その体力・精神力には脱帽だ。さらに最後にもってきたステップシーケンスの独創的な動きに目が釘付けに。そして、突然やってくるドラマチックな終焉。芸術と技術の至高のマリアージュ。卓越した振付! 平昌のあと、表彰台落ちが続いた宇野選手を見たとき、「このままシルバーコレクター」として終わってしまうのだろうか、と危惧した。そのまま終わっていくのか、再浮上のきっかけをつかむのか。ギリギリのライン上で明らかにもがいていた宇野選手を救ったのが、ランビエール・コーチ。ワールドを複数制覇した名選手が、これほどの名コーチであることを誰が想像しただろう? 「昌磨はチャンピオンになれる」と断言し、導いたランビエール・コーチの手腕はもちろんだが、それ以上に、この2人の相性がとても良かった気がする。宇野選手もランビエール・コーチも、自分以外の誰かに対して「惜しみなく献身できる」という卓越したキャラクターをもっている。ひたすら自分のため、自分の栄光、自分の名誉だけを見据えて突っ走る人もいる。それはそれで素晴らしい能力だが、誰かのために努力するというのも、素晴らしく、しかも稀有な能力であり、才能だ。調子の悪いときの宇野選手は、単独ジャンプを決めても、連続ジャンプで失敗する。連続は決まっても単独で失敗する。あるいはその両方が重なる――という悪循環に陥っていた。それが今は、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループの4回転の確率が格段に上がっている。それが連続ジャンプにも良い影響を及ぼしている。欲を言えばフリーの連続ジャンプ。これを試合でミスなく決める力を見せたとき、宇野昌磨のスケートは完成する。