和製イカロスは再び飛翔する――羽生結弦『レゾン』の衝撃
フィギュアスケート史上最大のスター(By プルシェンコ)の新たな可能性を鮮烈にしらしめたパフォーマンス、『レゾン』。まさしく、誰も見たことのない氷上のショーナンバーだった。選曲にも驚かされた。氷上で表現するのは非常に難しい、コンテンポラリーな若者の歌を、動的で華麗な「羽生ワールド」に昇華させた、そのテクニックに完全に圧倒された。清冽な情熱、汚れのない官能、理性的な狂気――およそ、誰も見たことのない、想像もしたことのない世界が氷上で展開されていく。しなやかな腕の動きや、軽やかな飛翔、ブレない回転動作。そこに抜群のスタイルと、それを引き立てるシンプルで美しい衣装が加わる。魔力をもった白い鳥が、人間の姿を借りて舞い降りてきたかのよう。もちろん、『レゾン』を見たファンの熱狂は凄まじく、それはネット上で津波のように広がっていった。誰もが評論家になり、感動をさまざまな形で発信していた。このように人々の心を揺さぶる力。それを得るのは、五輪でメダルを獲得する以上に難しい。五輪でメダルを手にすると、それが力量のピークで、その後はフェイドアウトしてしまうスケーターが多いが、羽生結弦は例外なのだ。いや、例外というより、規格外。平昌で引退していたら、おそらくはこの圧巻のパフォーマンスはなかっただろう。明らかに、羽生結弦は金メダル後も進歩し続けた。その結果が『レゾン』だとも言える。勝つことにこだわり、点数を重ねる戦略を練って試合に臨むタイプだったから、羽生結弦は勝負師であり、アイスショーには向かないのではないかという意見もあった。だが、『レゾン』で彼はそのネガティブな予想を一蹴して見せた。今後は、羽生結弦の新しいショーナンバーを見るために、多くの人がアイスショーに押し掛けるだろう。それはMizumizuが長年夢見てきた、フィギュアスケートの新たな展開。メダリストのお披露目としてのショーではなく、氷上の舞踏芸術としてのフィギュアスケートの可能性。それを切り拓いてくれる才能が、またひとり日本から生まれた。