『鉄腕アトム』のオープニングの歌は、アメリカ版のほうが先についた
♪空をこえて~ ラララ 星の彼方 ゆくぞ アトム ジェットのかぎり~Mizumizuでもソラで歌える『鉄腕アトム』オープニング主題歌。You TUBE時代になって、アメリカ版『Astro Boy』も聞けるようになった。https://www.youtube.com/watch?v=d3UbaB7oPTwで、聞いてみて、え~! この歌詞、イイじゃん!!となった。てっきり日本語の歌詞を訳したものだと思っていたのだが、全然違う。日本語のほうがやさしい感じで、英語のほうはもっと勇ましい感じ。だが ♪Rocket high, through the skyとか♪Astro Boy, as you fly,Strange new worlds you will spy,Atom celled, jet propelled...なんてところは少し共通しているようでもある。とはいえ、「戦う」「ヒーロー」というのを思いっきり前面に出しているのは非常にアメリカ的だ。特に「すげー」と思ったのは、♪Everything is GO, Astro Boy!これ、すんごく米語的。簡単そうでいて、相当センスのあるネイティブでないと書けないようなあ…そして、続くラストの盛り上げが素晴らしい。Crowds will cheer you, you're a hero,As you go, go, go Astro Boy!Cが連続する発声のおもしろさ。Everything is GOで準備万端整えて、GO, GO, GOで皆がヒーローを後押ししている感じの強さ。日本語版とはずいぶん違って、やはりアメリカ的になってるなぁ……と、つまり、Mizumizuは日本語の主題歌が先にあったものだということを疑っていなかったので、そんなことを考えた。だが!調べてみたら、なんとオープニングの主題歌はアメリカ版のほうが先だったというではないか!!『鉄腕アトム』のアメリカでの仕掛け人とも言えるフレッド・ラッド氏と2009年に話したという「こはたあつこ」氏の記事。https://www.cinematoday.jp/page/A0002248「よく言われるんだがね。手塚氏とは、不思議とユーモアセンスも近かったよ」と語るフレッドさんが、アトムのテーマソングについて、面白いことを語ってくれた。実は、かの有名なアトムのテーマソングの歌詞はアメリカ版が作られなかったら、存在しなかったというのだ。えっ? それはどういうこと?「1963年に放映された日本語版『鉄腕アトム』の最初の5話には、歌詞はなく、楽曲だけだったんだ。でも、当時アメリカの子ども向けのテレビ番組には、必ず歌詞がつき、ボーカルが入っていた。だから、アトムのアメリカ版には、新たに歌詞を作る必要があった」と語る。そのため、「有名な作詞家であるドン・ロックウェル氏に、歌詞をつけてもらった」そうだ。「最初の3話の英語版を終えたぐらいに手塚氏がアメリカに来たから、映写室でアメリカ版を見てもらったんだ。冒頭のテーマソングが流れて、歌詞が聞こえてきたときに、手塚氏は本当にびっくりしていたね。その後試写室から出てきて、突然、日本に国際電話をかけ始めたんだ。そして大声で、何やら話している。恐らく、『おい、このクレイジーなアメリカ人たちが面白いことをやってくれたぞ! 高井氏を呼んで、日本版にも歌詞をつけてもらおうじゃないか!』としゃべっていたんだろうね」そう笑いながら話すフレッドさん。もちろん電話口の話の内容は彼の想像だが、その後、それまで歌詞がついていなかった日本版の「鉄腕アトム」にも、1963年の6話以降は、すべて日本語の歌詞がついたというから、電話口での会話の内容も的外れではないかも知れない。しかし、そんな楽しいエピソードを体験したフレッドさんも、初めは手塚氏と会うことにあまり乗り気ではなかったそうだ。「オリジナルを作ったアーティストは、たいてい英訳の吹き替え版に満足しないんだ。だから、手塚氏も同じだろうと。でも、会って本当に良かった。試写室から出てきた手塚氏は、満足そうに大きくほほ笑みながら英語ではっきりと、『Ladd, you are GOD FATHER of Astro Boy!”(ラッド、君は、アストロボーイのゴッドファーザーだ!)』と言ってくれた。わたしも思わず叫んだよ。「アリガトーゴザイマース。デモー、アナタハ「テツワンアトムー」ノファーザーダ!」とね。手塚氏の作品が、最高の名作だったからこそできたことだ。わたしのしたことはたいしたことじゃない」とうれしそうに当時を振り返った。そんなフレッドさんは、アトムのほかにも、「鉄人28号」「ジャングル大帝」「科学忍者対ガッチャマン」など、数々の日本アニメの吹き替え版を手掛けている。また、「海底少年マリン」「マッハGo Go Go」「美少女戦士セーラームーン」では、コンサルタントも務めたそうだ。さすがに81歳になった今は「若い者に任せている」とのことだが、ニコニコしながら冗談を飛ばす姿は、まだまだ元気そうだ。そんなフレッドさんに、吹き替え版を作るときに一番大切なことは何かと聞いてみた。すると今度は真剣な表情になり、「オリジナルを作った作家が言わんとしていたコンセプトをよく理解すること」という答えが返ってきた。実は、アトムの吹き替え版は、フレッドさんが手掛けた作品以外にも、ここ近年にほかのバージョンが製作されている。しかし、中には、「手塚氏が言わんとしていたメッセージが、薄れてしまったように見えるものもある」とフレッドさん。「わたしが幸運だったのは、手塚氏とじかに交流することができたことだと思う。だから、『鉄腕アトム』で手塚氏のユーモアや、彼が伝えたいメッセージが理解しやすかったのでは」と語る。では、手塚氏が「鉄腕アトム」で描きたかったことは何なんだろう?「アトムはロボットだったけど、ピノキオのように人間の気持ちを持っていたという点が重要だと思う。アトムは人間と同じように傷つきやすい面があり、人間になりたいというコンプレックスを持っていたんだ。手塚氏が生きていたら、そこをきちんと描くようにと指摘したのでは」と語る。また、「手塚氏はわたしよりもずっと賢い人だった。わたしが到底できない、未来を予想する力があった。彼には遠い未来に、人間が人間の仕事を奪ってしまうロボットを疎ましく思う時代がやって来るということが見えたんだ。手塚氏はそういう時代が来たら人間とロボットが共存するために、規則が必要になると考えていた。ロボットは人間に背いてはいけないと。でも、ロボットを支配する人間の方も、ロボットに対して責任を持たなければならないということだ」とも語る。生命に対する愛が手塚氏の重要なテーマだったことについては、「手塚氏は生命を愛していた。彼は「生きているものが大好きだった。だから『生命が宿っているものすべてに優しく接してほしい』と常に話していた。それが彼の作品にも表れていると思う」と語った。81歳のアメリカ人男性が、手塚氏についてここまで理解してくれていることが非常にうれしかった。(引用終わり)「オリジナルを作った作家が言わんとしていたコンセプトをよく理解すること」が一番大事だと語るフレッド氏。それを日本のテレビ局や映画関係者、それに漫画を原作にして脚本を書く脚本家にレクチャーしてくれませんかね? 『セクシー田中さん』の悲劇を発端に、今、まさに日本で議論されている問題ではないか!手塚治虫をここまで理解してくれた人物が『アストロボーイ』に関わってくれたのは、『鉄腕アトム』にとって幸運だったのだと改めて感動した。こういう人がいたからこそ、『アストロボーイ』がアメリカの子供たちの心に届いたのだ。先に紹介した英語版主題歌のサイトのコメント欄には、英語で多くの賛辞が寄せられている。どれほどアメリカで『アストロボーイ』が愛されたか分かる。作品には、もちろん、それが持つパワーという「車輪」が一番大事だが、それをヒットさせるには、別の「車輪」が必要なことが多い。手塚治虫という人は、とんでもない人間に引っかかることもあったが、それ以上にスケールの大きな理解者に何度も巡り合っている。図抜けた才能は、奇跡のような出会いを呼ぶということだろう。そして、なんとオープニングの主題歌はアメリカが先だったという驚きの情報。しかも有名な作詞家を手配してくれたようだ。なるほど。イイ歌詞なワケだ。おまけにそれを聞いて手塚治虫はただちに日本に電話して、誰かに何かを話していたという。この時に電話したのは、もちろん自社の関係者だっただろうけれど、日本語の作詞を担当したのは、ご存知、谷川俊太郎氏で、『二十億光年の孤独』を気に入っていた手塚治虫自身が谷川氏に電話をかけて依頼したそうだ。https://www.huffingtonpost.jp/entry/tanikawa_jp_5c5a8f05e4b074bfeb16225b「あれは手塚治虫さんが電話をかけてきて『(歌詞を)書いてみないか』みたいなことを言われて...。まだ若かったので『あの手塚さんから電話がかかってきた!』と感激しましたね」(引用終わり)谷川氏が英語の歌詞を見たかどうかは、明かされていないので分からない。アメリカサイドから歌詞をもらうことは簡単だが、それならそうと谷川氏が話しそうなものだ。あえて英語の歌詞は見せずに谷川氏のオリジナリティに期待したかもしれない。ところで、こはた氏の記述には誤りがある。青文字にした「それまで歌詞がついていなかった日本版の「鉄腕アトム」にも、1963年の6話以降は、すべて日本語の歌詞がついた」の部分。歌詞がついて放送されたのは31話から。ちなみに、すぐれた手塚評になっている『チェイサー』(コージィ 城倉)でも、第一話から歌が流れたことになっている。手塚治虫の足跡をものすごく丹念に調べ上げて描いた作品なのだが、ここは残念。Mizumizuも最初に『チェイサー』を読んだときは、第一話からあの名曲が歌詞つきで流れた――というか、歌詞が先にできたと思い込んでいたから、何の疑問も持たなかった。You TUBEには第一話のオープニングも上がっていて、それを見ると、上の『チェイサー』の映像の説明も違っている。https://www.youtube.com/watch?v=KGq6z1mEU9Q&t=2sチェイサーの映像は後期バージョンだ。それも上がっている。https://www.youtube.com/watch?v=lOn4lh-hPxUMizumizuは初期バージョンはうっすらと、後期バージョンはかなり憶えている。前期・後期の記憶がごちゃごちゃになってはいるが、初期バージョンでは、アトムの一発で悪者が将棋倒しになるところが、幼心にメチャ受けした。後期は飛行機の乗客に手を振る場面と雪山の木々の間を低空で飛んでいく場面が特に好きだった。しかし、アトムってカワイイな~。あの5本のまつ毛とか、大きな目とか、ふっくらした身体のラインとか(はあと)。手塚プロがYou TUBEの公式サイトで1963年版を限定公開してくれたのだが、その中のカウボーイのコスプレ(こすぷれ?)も似合ってた(はあと)。【中古】アニメが「ANIME」になるまで—『鉄腕アトム』、アメリカを行く