日本橋人形町の『玉ひで』に行ったついでに、美味しい和菓子屋さんがあると聞いて寄ったのが、『
東海』。
佇まいからして、正調お江戸の老舗の雰囲気。中ではおかみさんが売り子、奥でご主人が作っているらしい。本当に昔ながらの手作りの店なのだ。
「よく、マスコミにも取り上げられるんですよ」という商売上手なおかみさんの言葉につられて買ってみた「きみしぐれ」。
黄身しぐれは東京では、ものすごくポピュラーだ。関西方面では逆にそれほど見ない気がする。もじどおり、卵の黄身で作るから、ふつうは黄色い。ところが東海のきみしぐれは、なぜか薄桃色!! 表面のヒビが実にいい感じだ。カタチあるモノが崩れていくその直前の、はかない美しさを切り取ったような姿。
食べてみたら、このきみしぐれ、まったくタダモノではないということがわかった。中は少なくとも3重のグラデーションになっている。表面ははらりとした口当たり、中は対照的にしっとり。荻窪にも黄身しぐれを売る、それなりに老舗ぶった和菓子屋もあるのだが、単にあくどく甘いだけで、この東海のきみしぐれの繊細さや複雑さには到底及ばない…… というか、月とスッポン。まったく別モノ。いや、さすが、日本橋人形町の老舗。完璧にマイリマシタ。黄身しぐれがこんなに可憐で上品で奥深い和菓子だったとは。教えてくださってありがとう、と一礼したい気分。
こちらは「栗むしようかん」。1本買ったときは、「あまったらどうしよう?」などと思ったのだが完全に杞憂。しつこくなく、軽い口当たりで、あっという間になくなった。
「栗きんとんもなか」は、2種類の餡が用意されている。これは、1つを分け合って食べたので、味がよくわからないまま終わってしまった(笑)。くどさや重さがないことはわかったが、甘かった印象だけで終わり。
ほかにも「うぐいす餅」は人気だとか。ここならまた荻窪から買いに行ってもいいな。和菓子の場合は特に、何度でも行きたいと思わせてくれる店は、こうした職人個人の力量だけでやっている小さな店が多い。機械化された工場では、結局出せない味というものがあるのだ。