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カテゴリ:Essay
あるクラヲタ(クラッシックおたく)のブログに、杉並公会堂の大ホールでコンサートを聞いたときのことに触れ、「杉並『にも』こんないいホールがあったんだ」と書かれているのを見て苦笑いしてしまった。
杉並公会堂がリニューアルオープンして1年、目ざとい東京のクラヲタにもまだまだ知られていないのだが、実はここの大ホールは、相当のクラオタのMizumizuから見ても、めったにお目にかかったことがないくらい素晴らしいコンサートホールだ。透明&半透明のガラス張りの明るいホワイエといい、明るい色調のウッドを床材や壁材としてふんだんに使っているホール内部といい、いかにもコンテンポラリーな日本を象徴するようなモダンな意匠。そして、やはりなんといっても一番は音響の素晴らしさ。長方形のホールなのだが、舞台から発せられる音がムラなくホール全体に広がって聞こえる。音質は初台の新国立劇場のような人工的な感じにはならず、あくまでもナチュラル。また、特筆すべきはその残響効果。残響がすう~っと壁に吸い込まれて消えていくようで、その美しさはたとえようもない。収容人数が違うので一概に比べるのは無理があるかもしれないが、音響だったらサントリーホールを超えている、と個人的には思う。 荻窪音楽祭2日目は、この杉並の誇る公会堂での無料コンサートに出かけた。杉並公会堂はなんと、世界の3大ピアノメーカーといわれるスタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインのピアノを3つとも備えている(すごすぎる……)。 午後は小ホールで、そのうちのベーゼンドルファーを使ってのベートーベンやシュトラウスを楽しんだ。無料ということもあるだろうけれど、小ホールはいっぱい。しかも、ここでもシニアダンディが多かった。ほんっと荻窪のシニアは元気だ(そりゃまあ、元気な人が来てるんだろうけど)。 そして夜は大ホールでのメサイヤ(ヘンデル)。教会の聖歌隊による合唱とはいえ、歌手やソリストはほとんどの方がプロだし、しかも、この素晴らしいホール。ホントに無料で聴いていいのかしら。コンサートついでの教会の宣伝活動には目をつぶろう。なにせタダだしね。 よく「ヨーロッパではオペラやコンサートに頻繁に行っている」という話をすると、「やっぱり本場は違いますか?」と聴かれる。そういうときは、「う~ん」とちょっと答えに困る。音楽の消費という意味では、東京はオペラ歌手でもオケでも指揮者でも世界のトップクラスが頻繁に訪れるから、おそらく世界でもほとんど類を見ない、高レベルの演奏を聴くことのできる都市だ。ハコはどうかといえば、ヨーロッパの歴史のあるオペラハウスは、実は音響に関してはかなりデッドだ。古いのだからそれは仕方がない。日本ほど進んだ音響技術を駆使したホールというのはそんなにはないのだ。では日本の演奏者のレベルはどうかというと、これまたそんなに悪くない。もちろん、たとえばオケの技量をウィーンのような一部の超一流とくらべてしまえば、競争にはならないが、ヨーロッパの地方都市にあるオケのレベル自体は必ずしも全部高いワケではない。日本の奏者のレベルもそこそこなのだ。 では、何が悪いのかというと、日本では素晴らしいハコに素晴らしい奏者や企画が入らない、ということだ。たとえば、NHKホールはオペラハウスとして考えたら(まあ、そもそも考えられないのだが)、世界最悪だ。そこにスカラやらミュンヘンやらがやってくる。本当なら国立のオペラハウスである新国立劇場という素晴らしいハコがあるのだから、そこに呼んでもよさそうなものなのだが、海外の一流オペラを上演するためにはNHKホールぐらいデカいところでないとモトが取れない(と「呼び屋」サイドが主張する)らしい。加えて、実績のある呼び屋さんと新国立劇場の運営サイドで日本人同士の政治的ないがみ合いもあったやに聞く。 こうしたことにものすごい齟齬を感じる。新国立劇場でウィーンフィルを聞くことはできない。せいぜいよくても上野の東京文化会館だ。東京文化会館も相当古いよね。NHKホールほど酷くはないけれど。 杉並公会堂という素晴らしいホールが目と鼻の先にあるにもかかわらず、大好きな指揮者のネッロ・サンティの公演を聴くためには、世界最悪のNHKホールに行かなければいけない。杉並公会堂はハコとしては素晴らしいのだが、企画がぱっとしないから、都内のクラヲタにもあまり知られていない。すぐそばの武蔵野市民会館が企画力でクラヲタの賞賛を集めているのと対照的だ。2月にはオペラシティで歌ったあとのジョゼフ・カレジャを武蔵野に連れてきて歌わせるらしい。ただ、武蔵野の場合はクラシックファンからは感謝されても、一般のクラシックに興味のない市民が詳細を知ったら激怒するような額の税金がつっこまれている可能性はある。いいクラシック企画というのは、カネ食い虫なのだ。 だが、杉並公会堂に工夫のある企画が少ないというのは、どちらにしろ残念なこと。たとえば、サントリーホールでは「ホールオペラ」という独自のコンサート形式のオペラを上演して人気を博している。こうした歌手の歌合戦をやるのには杉並公会堂大ホールはうってつけなのだが…… 杉並では、なんだっていつも同じようなピアニストが演奏するのかな? ホームページをみても、あまり見たいと思うコンサートがないよね? 日フィルのフランチャイズというのはいいけど、オケだけでないプラスアルファの企画をもっと考えてみては? というワケで、せっかくのホールなのに、Mizumizuはあまり足が向かないでいるのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.11.18 23:44:10
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