|
<きのうの続き>
第1戦:3F+3Loの3Loがスッポ抜け(連続ジャンプに入るときの勢いがなかったという感じでした) 第2戦:勢いよく跳んだところ、3Fの軸が傾いたので単独に留めました。 第3戦:今度は最初のジャンプの力をおさえて、セカンドの余力を残そうとしたところ、思った以上に最初のジャンプの高さが出なくて、回転不足のまま転倒 第4戦:体力を温存して、3F+3Loを降りました というように、1つ試合で「失敗した理由」を考えた上で、次の試合でまずかった部分を修正し、最終的には成功にもっていってるんですね。こういうことができてしまうのが浅田真央の凄いところです。 ところが、第4戦では、ダウングレード判定がきて(あれで本当に4分の1回転以上の不足でしょうか? そうは見えませんが)、セカンドの3ループはもはや、危険すぎて使えないことがはっきりしたんです。 こういった状況でも、4大陸のフリーでは、セカンドにもってきていた3ループをサルコウのところに入れて単独とし、3F+2Loを決めて、フリーの最高点を出しました。でも、このときはまた、単独の3Tがスッポ抜けちゃった。世界選手権での失敗は皆さんご存知のとおり。ただ、これ自体はジャンプ構成を下げればいいことで、そんなに落胆すべきことではないんです。「まだジャンプ構成を下げられる」――これが浅田選手の強さです。 浅田選手の課題は引き続き、ルッツとセカンドの3Tなんですね。今季は3Aを確実なものにしましたから、昨季から比べると、間違いなく進歩しています。そうは言っても、今季はだんだん「ジャンプだけは決めなくっちゃ」になってしまったのも事実。 ルッツと並んで今一番気になるのは、「突然のジャンプのスッポ抜け」でしょうか。これが案外、どこで起こるかわからなかったのが今季の浅田選手の不安点です。が、これはジャンプ構成を落とせば起こらなくなると思います。ルッツはジャンプ自体に問題がありますが、他の「ときどきスッポ抜けるジャンプ」は、ジャンプ自体には問題ありません。キム選手がサルコウ自体に問題がないのに、今季失敗が目立ったのと同じ理屈です。ジャンプ構成に無理があるので、普段なら跳べるジャンプにしわ寄せがいくんですね。 ただ、やはりどうしても言っておきたいこと。ジャンプなどのエレメンツも大事ですが、それにとらわれるあまり、「音楽を忘れてはいけない」――これはビアンケッティさんからの伝言でもあります。 日本男子で言えば、小塚選手は今回、ジャズ+映画音楽で表現の面でも新境地を切り拓いたと思います。ああいった現代音楽がピタリと合う選手は、世界広しといえども、そうはいません。佐藤有香の振付も小塚選手の個性を際立たせる、素晴らしいものだったと思っています。相性もよいのではないでしょうか。佐藤有香のもっていたフットワークの技術を小塚選手にそのまま伝承できるという意味でも、佐藤有香の振付師としての可能性を感じさせたという意味でも。どうして小塚選手のトランジション(つなぎ)の点が低く出るのかわかりませんが(苦笑)、ジャッジに何が悪いのか聞いて対策を練るのもいいのでは? 採点の傾向を見て早めに対策を練り、来季は挑戦型ではなく、プログラムの完成度に注力した勝負型の戦略で、戦って欲しいですね。 小塚選手は、織田選手よりスピンのレベル評価が安定して高いです。ステップもレベル3に加点がつく選手。ステップはさらに「魅せるもの」にできる能力があると思います。小塚選手のステップで会場が沸く日を夢見ています。彼こそ4回転に固執せずに、「自分は、チャンとはまた違った世界を表現できる」と自分自身で信じてほしいですね。エッジ遣いも今季は、これまでになく深くなりました。もともとクリーンでシャープな身体の使いかたのできる素晴らしい選手なので、表現する世界観にも期待しています。エッジ違反やダウングレードを狙われてるジャンプもないです。ループには気をつけないといけませんが、これは全体的な傾向。チャンとロシェットのカナダ2選手は、フリーで3ループを2ループに変更してました(苦笑)。今のルールは小塚選手のような、欠点のないタイプに非常に有利だと思います。 小塚選手が滑っていくと、シャープなターンのたびに、会場の照明を集めてエッジが一瞬キラッと輝いて見えるんですね。あれはフィギュアファンにとっては至福の瞬間です。シーズン後半は、あのエッジさばきが陰ってしまいました。試合数のことは、本当に周囲がもう少し配慮してあげるべきですね。山田コーチが「みどりが年間1~2試合にしたいと言ってきたことがある」と発言しましたが、その意味を考えてほしいです。 小塚選手のもっている清潔で誠実な雰囲気は、それはそれで得がたい個性なんです。今季は男性的な力強さも出てきました。ジャンプに関しては、今回回避策を取って、課題の後半の3Aは2連続にして成功させました。ただ、他の部分に失敗が出た。これは1戦目で異常なダウングレード攻撃を知って構成を下げたライザチェックの第2戦目も同じ状態だったんですね。ライザチェックのほうが、早くから回避策を準備していたので、世界選手権で結果が出たのだと思いますね。 ライザチェックと対照的にシーズン後半、沈没してしまったのがアボットでした。いかに疲労とシーズン途中でのジャンプ構成の変更が選手の調子を乱すかということです。アボットが4大陸で、もともとは跳べる4回転を入れてジャンプ構成を上げようとして失敗し、世界選手権で力尽きたのと対照的に、小塚選手はアボット選手より点を出しています。3枠も確保して、自力でオリンピックへの道を広げました。立派じゃないでしょうか。 織田選手は、とうとう4回転を成功させましたよね。個人的には4回転は規制すべきだとう意見に変わりはありませんが、選手が大技に挑み、完成させたいという情熱には敬意を払います。しかも、織田選手はもっとも緊張する舞台で初めて成功させ、最高の評価を得る4回転を見せました。今、回避策を取った選手が勝っているのは、結局は、4Tを入れると他のジャンプまでまとめることができないから、とも言えます(意図的にジャンパーの点をサゲてるのも、まぁ、明らかですが)。4Tと2つの3A、それに後半のジャンプ、これらを全部クリーンに決めることができた選手はいません。エレメンツ要件が厳しく、異常なダウングレード判定がある今のルールだと、4回転だけで勝つことはできないんです。ビアンケッティさんじゃないですが、「人間の身体はそんなに多くのことをこなせるようにはできていない」んですね。 織田選手は世界選手権でも演技・構成点がずいぶんサゲられました。ただ、織田選手はかなりのレベルにいると思います。4Tを降りて、次の3Aの着氷は乱れましたが、あとのジャンプはきれいに降りてます。4T、3A+2T(3Tでなくてもいいのでは?)と3A、これらをクリーンに降りることができれば、やはり強いと思います。スピンのレベル取りよりこちらに注力すべきかもしれませんね。 ただ4Tを1度やるのと、3Lz+3Tを決めるのと、点から言ったら変わらないんですよね(ライザチェックの3Lz+3Tが11.4点、ジュベールの4Tが11.2点)。織田選手は今、ルッツを1つにして4T入れてますが、4回転の成功以上に、それにともなう他のジャンプのパターンミスでの減点に気をつけなければいけない今の減点主義のジャッジングでは、4Tの部分に3Lz+3Tを入れるという方法も可能性としては残っています。4回転を成功させるのが目的ではなく、すべてのジャンプを総合して一番点が出るように構成を組まないといけません。そのために、4Tを入れたほうがよいなら入れるべきでしょう。4T入れると、他のジャンプが低くなります。パターン化したミスも出ます。といって、回避策は早めにやっておかないとすぐにうまくいかないこともあります。モロゾフとよく相談してほしいですね。 高橋選手もいよいよ復帰してきますね。コーチをめぐるゴタゴタでは諸説飛び交っていますが、ハッキリいえることは、「コーチは金の卵は決して手放さない」ということです。コーチは慈善事業じゃありません。「モロゾフは自分が有名になるために、日本選手を利用してる」なんて悪口叩く低レベルのファンがいますが、そんなこといったら、日本選手は成績あげるためにモロゾフを利用してるとも言えるわけです。優れた選手は優れたコーチを魅了し、優れたコーチは優れた選手をひきつけるんです。優れた映画監督が優れた俳優を必要とするのと同じですね。モロゾフは常に結果を出しています。日本選手にとってモロゾフはあくまで恩人です。彼はスーパーエゴの持ち主ですが、物事を正しく見ることができるんです。だから結果が出るんですね。 オリンピックチャンピオン、世界チャンピオンを出し、今回もキムとロシェットは台ほぼ確実のお膳立ての中、浅田選手を引きおろして(実際に「引きおろした」のは、もはや思惑で点を出しているとしか思えないジャッジですが)、安藤選手を台にのせました。初戦から演技・構成点が12点近くもジャ~ンプしてしまうという「呆・呆・呆・笑」の点の出方はどうあれ(アメリカ大会52.16、世界選手権63.92)、結果としては素晴らしい手腕でしょ。安藤選手の演技が悪かったら、いくらどういう思惑があろうと、台にはのれません。今回の世界選手権で台にのった日本人選手は、モロゾフの教え子だけでした。 連盟もモロゾフに批判されたら、彼と真正面から議論すべきです。日本人選手を勝たせたいという目的では一致しているのだから、協力できるはずです。自分たちの言い分を出入りのライターに書かせてモロゾフを叩くなど、やり方が違うでしょう。モロゾフに言いたいことがあるなら、直接言うべきです。 モロゾフ+高橋の組み合わせを「天国で結ばれた2人」と評した外国人記者もいました。その世界的コーチが、結論から言えば高橋選手より織田選手を選んだんです。モロゾフは高橋選手のエージェントを批判しましたが、Mizumizuも高橋選手のアイドル化には非常に危機感をもっていました。周囲のバカげた持ち上げの果てに、高橋選手はこれまでにない大怪我に見舞われ、大切なプレOPの1シーズンを棒に振りました。 高橋大輔は間違いなく、日本スケート界が生んだ最高の才能です。17歳ぐらいのときの彼の滑りを見たときはビックリしましたね。ちょっと滑ってるだけでしたが、彼の周りだけ氷が柔らかいように見えました。 そして、昨季の実績で言えば、ジャンプとスケーティングのスキルを高い次元で両立させている稀有な選手でした。おまけに見た目の魅力、つまりは雰囲気もあります。ただ、精神力が弱いんです。ここ一番の大勝負で自滅します。モロゾフは織田選手の精神力を讃えていますが、あれは暗に高橋選手に欠けているものを批判したのではないでしょうか。才能がある人が必ずしも世界一になるとは限らないんです。 だったら、高橋選手がやることは? 「モロゾフの選択は間違っていた。世界一になるのは織田信成ではなく、自分だ」と自分の力で証明することです。逆に織田選手は、「モロゾフに選ばれたのは自分だ。自分こそ世界一にふさわしい」と証明することです。連続ジャンプの挿入回数でミスってどうしますか、まったく。 長々と引っ張りましたが、これでいったんフィギュアねたは終わらせようと思います。 では、皆さん、来季も日本選手が怪我なく、自分の納得のできる演技ができるよう、精一杯応援しましょう。 最後は、アメリカでプロとして成功した、数少ない日本人スケーターである佐藤有香の言葉で締めくくりましょう。 「氷の上では、いつも自分が一番だと思って滑っている」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.04.14 01:00:46
[Figure Skating(2008-2009)] カテゴリの最新記事
|