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カテゴリ:Gourmet (Sweets)
ルネサンスの天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが38歳のときに書いた日記に、以下のような記述がある。
「1490年マッダーレナの日(7月22日)、ジャコモ来たりて我とともに住む。10歳である」(『レオナルド・ダ・ヴィンチ』 田中英道著 講談社学術文庫) ジャコモは輝くような金髪の巻き毛をもつ美少年だったという。レオナルドはこの10歳の少年に、ルイジ・プルチの叙事詩『モルガンテ』に由来する、悪魔と同義の「サライ」とあだ名をつけ、少年の素行の悪さに手を焼きながら、結局死ぬまでそばに置き、面倒を見ている。 <注:ネット上では、このジャコモ少年のあだ名の「サライ」は、イタリア語で「小悪魔」「悪魔」の意味だと書いてあるサイトも多いが、由来はプルチの詩であって、別にイタリア語の普通名詞の「悪魔」が「サライ」というわけではない> サライとレオナルドのエピソードについては、「快楽と苦痛の寓意」のエントリー参照。 サライをモデルにしたといわれるデッサンは、こちらを参照。 そのサライが好んで食べたといわれるのが、「アニスの実の砂糖菓子」。 アニスの実はイタリアでは、非常に好まれるフレーバー。アニス酒やアニゼット酒もポピュラーだし(アニスのお酒については、こちらのブログが詳しい)、アニスで風味付けしたスイーツも好んで 食べられている。 Mizumizuも大好き。こちらのサイトによれば、アニスの実の芳香は、甘草に似ているという。 確かに、クセのある一種クスリめいた強烈な風味は共通しているかもしれない。そして、ヨーロッパ(特に地中海沿岸地方)では好まれるのに、日本ではあまり見ないという点でも共通している。 だが、そこは何でも売ってる21世紀のトーキョー。見つけました、サライが好んだ「アニスの実の砂糖菓子」に現在一番近いと思われるスイーツを。 イタリア、トリノのメーカーLeoneのアニスのPastiglie。Pastiglieはいわゆる「ドロップ」のこと。ただ日本語ではドロップというと、フルーツフレーバーの半透明のお菓子を思い浮かべるせいか、「アニスのラムネ」と紹介されていた。 ドロップと呼ぼうとラムネと呼ぼうと、要するに、砂糖を固めたもので、風味付けにアニスを使っているということだ。 で、このイタリア式アニス風ラムネ・・・ うまぁ~い! 口に2つも放り込めば、強烈な甘い芳香がいっぱいに広がる。歯磨き粉のような「清涼感」もあり、薬草のような苦味もある。口臭防止にもなりそう。 この小さな砂糖菓子にここまでアニスの風味を付けるというのが、実にヨーロッパ的。この手の味に慣れていない「昔ながらの」日本人だと、「うわ~」「ゲ~」と言って吐き出すかもしれない。そのくらい、クセが強い。 ところで、アニスについて、ウィキペディアを読んでいたら、意外なことがわかった。 アニスはセリ科の植物で地中海東岸が原産。 スターアニス(八角)はシキミ科で中国(南部)原産。 日本でアニスと言ったら普通、スターアニスを指すと思うのだが、アニスとスターアニスは、「植物学上の類縁関係にはない」そうだ。 ただ、成分のほとんどがアネトールであることが共通しており、スターアニス(八角)のほうが安価ゆえ、アニスの代用品として使用されることがあるのだとか。 へ~へ~へ~ 我が家では、午後にミルクティーを飲む習慣がある。スパイスの効いたチャイにすることもあるが、たいていは煮出したスターアニスもしくはシナモンスティックで風味付けしている。 Leoneのアニスの砂糖菓子の風味は、ウチで使ってるスターアニスと基本的にまったく違いは感じられない。ただ砂糖菓子のほうが、断然香りが強い。 アニスの原産地に近いイタリアの老舗メーカーが、スターアニスをアニスの代用に使っているということはないと思うが、どうだろう。 レオナルドがサライと出会ったのはミラノ。Leoneはミラノと地理的にも比較的近いトリノの老舗メーカー。ルネサンス時代の北イタリアのお菓子の伝統を受け継ぐには適役だ。 レオナルドのメモによれば、サライはレオナルドが他人から贈られたトルコ革(靴をつくるための革)を盗んで売り払い、それでアニスの実の砂糖菓子を買って食べたという。 この不良少年は、だが、レオナルドの生活に混乱をもたらしただけではなかった。サライを得てからのレオナルドは、あたかも「子供を授かった男性」がそうであるように、仕事により邁進し、宮廷画家として確固たる地位を築く一方で、さまざまな分野の研究で成果を挙げていく。 当初レオナルドを怒らせたサライの盗みグセも、少年が大人になるにつれて、落ち着いたのではないかと思う。レオナルドの28歳年下のサライに対する愛情は、ちょうどジャン・コクトーの24歳年下のジャン・マレーに対する愛情が、息子に対するそれと恋人に対するそれと混じり合ったものだったのと似ているかもしれない。 17歳になったサライに、レオナルドは緑のビロードの付いた銀色のマントを贈っているが、コクトーも戦争中、出征中のマレーに「手元にもうお金はほとんどないけれど、君が晴れの場に出たときに着る服をあつらえるための費用だけは残しておきたい」と手紙を書いている。 レオナルドに愛された美少年を虜にしたこのスイーツ、東京では日本橋の三越で買える。 ダルジュロスのマカロン(←勝手に命名)も同じデバートで購入可能。 予告どおり(?)週末にゲットしました。 ローズのマカロンも今回はあった。 どれもこれも麻薬めいた魅力があるが、伝統的な日本人の味覚には合わないかもしれない。そういうものでもちゃんと売っている、さすが世界都市・東京。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.09.07 15:52:54
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