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カテゴリ:Essay
むかしむかし・・・
誕生日プレゼントにイギリス製のデミタス・カップ&ソーサーを父に買ってもらった。 イギリスでではない。山口のデパート。今はもうなくなってしまったが、「ちまきや」という、市内で唯一のデパートだった。 ミントン社の製品で、カップの裏を見たら、Grasmere(グラスミア)とあった。詩人ワーズワースが住んだというイングランド北西部の小さな村だ。 ゆかしい名前を持つデミタスカップ。確かちまきやで父と一緒に選んだのだと記憶している。そのときにお揃いで使えるデザートプレートがないか聞いたのだが、そもそもそのデミタスカップ自体が一点しかなく、お皿はないという話だった。 模様は華麗だが色味は落ち着いている。グレーブルーのパターン模様はハンドペインティングではない。基本的には量産品だと思われた。メーカーのミントンもよく知られている。なので、ちまきやにはなくても、都会のデパートに行けばあるような気がしたし、そのうちイギリスに行ったらついでに探してもいい・・・そんな気持ちだったように思う。 ところがところが。 東京のデパートの洋食器売り場に行っても、ミントンのグラスミアシリーズというのは、全然見当たらない。 その後イギリスに行く機会もあったが、行ったら行ったで観光が中心になるので、落ち着いてミントンの食器など探す時間は取れなかった。デパートの食器売り場をちょっと覗いてみたりしたが、「ありふれたもの」という予想を裏切って、さっぱり見当たらない。 Mizumizuは自分でカップを買うときは、だいたいデザートプレートとセットで買う。スイーツとコーヒーあるいは紅茶を出すときに、カップと皿がちぐはぐだと――我ながら少しばかり神経症的だとは思うのだが――気分が悪いからだ。 少女時代に父から買ってもらったデミタスカップは相棒のデザートプレートがなく、なんとなくあまり使わないまま棚にポツンと置かれているのが、少し可哀想なのだった。 気にはなっていたのだが、「そのうちに・・・」とほったらかしている間に、長い時間が経ってしまった。 なので、とうとう決心して、ネットで同じグラスミアシリーズのデザートプレートを探してみることにした。 ところがところが。 いくらでもヒットしてくるだろうと思いきや、これが全然ないのだ。どうやら日本のショップで新品が売られているということはないらしい。 海外のサイトで見たところ、ミントン社のグラスミアシリーズは1974年から1998年まで生産され、現在は廃盤になっているということがわかった。 Mizumizuがデミタスカップの相棒に欲しいと思っているデザートプレートはだいたい20センチぐらいが相場。その海外のサイトではサラダプレート扱いになっているのが目指す品のようで、値段は33.99ドル。 ともかく海外ではかなり大量に出回っているということだ。なら日本のネット個人オークションはどうかとしばらく見張ってみたが、ヤフーにも楽天にも出品されてこない。 最後の手段で古物商を当たった。すると一軒だけ、鎌倉の古物商が扱っているのを見つけた。そのサイトの説明では当該プレートは日本未発売で英国で購入したものだと言う。 日本未発売? しかし、Mizumizuが同じグラスミアシリーズのデミタスカップを買ったのは、日本なのに・・・ しかも、海外のサイトもその日本の古物商も、脚付きのカップは売っているが、Mizumizuが買った円筒形の小さなデミタスカップはまったく扱っていないのだ。 どういう経緯で、あのデミタスカップが日本に輸入され、しかも山口のデパートの陳列棚に並んだのか? 逆にそれが不思議に思えてきた。「量産品」と侮っていたが、案外レアなものだったのだろうか。 とにもかくにも、相棒プレートを見つけたからには買わなくては。ありがたいことに鎌倉の古物商がつけたプライスは2100円(送料は700円・割れ物保証付き)と、かなり安い。 申し込むと、あっけないぐらいすぐに送られてきた。ずいぶん長いこと心の隅に引っかかり、デパートの食器売り場を歩くたびに、「あ、そういえば、グラスミアはないかな?」と気にしていたのは何だったのだろうというぐらい、あっけなく。 繊細で貴族的な柄なのに、色調はどこか陰鬱。華やかなのに暗い――この二律背反が、いかにもイギリス。 こうしてめでたく、むかしむかしに買ってもらったデミタスカップは、相棒プレートと一緒になったのだった。 鎌倉の古物商は、「アンティーク」と言って売っているが、それはちょっとオーバーだと思う。だが、周囲の金彩が、この値段の量産品にしては、かなりしっかり厚く塗ってあり、劣化したりハゲたりしていないのは、たいしたものだと思った。そういえば、Mizumizuが買ったデミタスカップの金彩も、時間が経っているわりには剥落がない。いい仕事をしているということだろう。 地の色はクリーム色で、プレートもカップも厚味がある。イギリスの磁器はフランスの磁器に比べると地の色が柔らかい。アヴィランド(リモージュ)の青ざめたような白地にもフェティッシュな魅力を感じるのだが、イギリスのウエッジウッドの乳白色、そしてこの「やや古い」ミントンのクリーム色の地色も暖かみがあって気に入っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.12.26 15:09:22
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