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今回ファイナルも日本だったので、客席の様子にも注目したのだが、案外年齢層の高い女性が多いのには驚いた。最近の日本の景気は中高年の女性が引っ張っていると思うのだが、フィギュア人気もどうやらそうなのかも。あるいは、チケット代が高いので若いファンには敷居が高いのか。
しかも、高橋選手に対する応援は熱狂的。ショートのステップで高橋選手が客席に接近すると、最前列に陣取った女性が昂奮している。ショーのときはたまたまかと思ったのだが、ファイナルでも全日本でもいつもそうだ。 バンクーバーの男子ショートでもあのあたりの席が確保できませんかね? もしできたら、大輔命のファンの方は、旗振って歓声あげて、大いに盛り上げてくださいな。 こんなに人気のある日本人男性スケーターというのは、ちょっと記憶にない。再起が危ぶまれるケガから復帰し、世界トップに返り咲いた。その奇跡的な物語がなおいっそうファンの琴線に触れたのかもしれない。 対して、織田選手に対する応援は、明らかにお義理の拍手・・・に見えるのは、気のせいでしょうかね?(苦笑) あの最後の楽しげなステップでは、もっと客席が盛りあげてあげてもいいと思うのだが。 表現力の差を明確な数値の差として出すことには、何度も書いたように基本的に反対のMizumizu。だが実際、今季の高橋選手の表現力はケガ前を遥かに凌いでいると思う。もともと音楽やドラマの世界に入り込む能力は日本人離れしていたが、今の高橋選手にはそれを当然のこととして、さらに観客と心を通わせる「コミュニケーション能力」が備わった。モロゾフ振付の世界を演じていた高橋選手は、どちらかというと自分の世界をひたすら構築していた感があるが――というより、振付師モロゾフの作り上げた世界にひたすら献身していたというべきか――今の彼はあのころより自由に、さらに伸び伸びと、観客やジャッジとコミュニケーションを取ろうとしている。 昨今の採点で「ジャッジへのアピール」が必要だと感じたのか、高橋選手はさかんに、そのことを口にする。それを意識して、しかも実際に出来てしまうのが凄いところだ。 Mizumizuは、ことに「お手玉」をマイムで表現する部分が大好き。高橋選手の手から空中に飛んで、落ちてくる球体が目に見えるよう。思わず視線で追ってしまう。役者ならともかく、ここまで表現できるフィギュアスケーターが、他にいるだろうか? こうした次元に行くには、才能も必要だが、経験も必要だ。子役時代に優れた才能を発揮しても、大人になると俳優として大成しない人が多いのは、当たり前の人間としての「経験」が子役として仕事をしてしまうと欠けてしまうことが多いから。演技力を熟成させるのには、経験が必要。その意味では、高橋選手を襲ったケガは、間違いなく彼を高みに引き上げるのに役立った。また、それを表現するのは肉体なので、過酷なリハビリで下半身を柔らかくしたことも無縁ではないだろう。 だが、物事には光と陰がある。得たものも大きいが、失ったものもあることは否定はできない。何といっても、フリーの後半のジャンプを決める体力がまだ戻っていない。ケガ前は跳べた4回転も確率が悪いという。才能はGift、つまり与えられたものだ。本人の努力がどうのと言うが、そもそも才能のない人間は、努力できない。せいぜい短期間努力したとしても、継続することができない。天才とは努力のできる人と同義であって、本人がそれを隠しているか、さほど気にしていないだけだ。才能のある人に「あなたはなぜそんなことができるのか」と聞いても、本人は答えられないことが多い。だからこそ、何か特別なものを与えられたら、代わりに何かを神様に返さなければいけないこともある。 体力と4回転を取り戻せるのかどうかは周囲にはわからない。だが、やはり、最終的には金メダルどうこうという「結果」より、プログラムをミスなく滑りきるにはどうしたらよいかという「いちパフォーマーとしての選択」をしてくれればいいと、Mizumizuとしては思う。そのうえでの1つ、あるいは2つぐらいのミスなら仕方がないだろう。「道」は今季、あまりにミスが多い。ジャンプ構成に対して体力がどうしてもついていかない。ある一面で、ランビエールの「ポエタ」を思い出す。 だが結論は、あくまで高橋選手次第だ。高橋選手に関しては、短絡的に4回転を外すべきか入れるべきかの二元論では語れない。 五輪は選手のためのものであって、本人に悔いが残るのが一番いけない。伊藤みどりと荒川静香の解説を注意深く聞くと、伊藤みどりは、回避策について、「やはり確実に、ということできましたね」と、否定はしないが、積極的に賞賛する言葉は口にしない。逆に高難度ジャンプに挑戦して失敗しても、「でも、挑戦してきましたからね」と必ず暖かいエールを送る。一方で、荒川静香は回避策に関しても、「これはいい判断だったと思います」と評価してあげている。 この温度差は、2人の五輪での「結果」にあると思う。回避策で荒川選手が金を獲ったのは周知の通り。一方のアルベールビルでの伊藤選手は、ショートで調子の下がった3Aを外す決意をして換わりに入れたルッツで失敗した。この選択は、山田コーチによれば伊藤選手自身が下したものだったという。だが、本人のためではない。「自分のことだけだったら3Aを跳びたい。でも、日本を代表して来ているからには順位を取らなくては」と伊藤選手がコーチに言ったという。 あのときに自分のアイデンティティでもあるトリプルアクセルに挑戦しなかったことは、口には出さないにしても、伊藤みどりの心に長く、苦く、残ったことは想像に難くない。Mizumizuは「ジャンパー包囲網」とも言える現行ルールのもとでもなお、日本のメディアが煽っている大技信仰には賛成できないが、といって、信仰を持つ人を否定はできない。 高橋選手は、4回転を試合で一度も決めていない(しかも、恐らく次の五輪も狙える)小塚選手とは状況が違う。以前はできたことなので、それを取り戻したいと思う気持ちについて今はもう批判めいたことを言う気にはなれないし、実際に、スピンに関しては、あれだけボロボロだったファイナルから短期間で見事に立て直してきた。ステップもレベルを揃えた。 織田選手に関しては、4回転が武器になるか足を引っ張るか、まだ微妙な線にいると思う。今回の結果を見ると、やらないほうが点が出るように思うが、オリンピック本番の日の調子やショートの順位にもよるかもしれない。織田選手は去年ほど4回転に固執していない。入れずに今季結果が出てるからだと思う。「コーチと相談して決める」と言っている人なので、2人の選択に任せるべきだろう。ジャンプというのは「できる」はずのものでも、失敗することがある。伊藤みどりが、「跳んでみないとわからない」と言ったが、天才ジャンパーが言うのだから間違いはないだろう。 小塚選手に関しては、4回転など問題外だ。今回4回転を入れなくても後半で体力が持たなかった。ジャッジングに関しては、今季はエレメンツのレベル取りも厳しく、エッジ違反も厳しくなっている。男子でもジャンプが低いとダウングレードされる。今季の小塚選手は、振付が昨シーズンより難しい。そうした状況にもかかわらず、4回転を入れ続けたことが、今季の成績不振につながった。今回は国内大会なので、演技・構成点も出てきたが、国際大会での低い評価は、正直不当ではないかと思うぐらいだ。 昨シーズン最後の世界選手権では、織田選手と小塚選手の評価にそれほど差はなかったのだ。今季に入ったら、伸び盛りのはずの若い小塚選手は1戦目から演技・構成点が低く、2戦目では自爆してしまい、織田選手は確実な演技を見せ付けて点を伸ばし、ファイナルでは2位に入った。対照的な結果になっている。 小塚選手本人が自爆を繰り返していては、下げてくれと言っているようなものだ。ミスをしても演技・構成点を高くもらえる選手もいるが、小塚選手はその域には達していない。彼はコーチの指示をよく聞く選手なので、コーチ陣が冷静な判断をして、五輪に向けて調整してほしい。「これが決まれば点どうこう」より、いい演技をしなくては。ギターの音を表現することに徹底的にこだわった今季の作品は、派手でもなく、残念ながら思ったほどジャッジの評価も高くない(これは、評価のトレンドと合わなかった面もある)が、素晴らしいチャレンジだと思う。全日本ではショートは見ごたえがあったし、フリーも前半は傑出していた。上半身の動きもよくなった。フリーの後半バテて、「なんとかジャンプ跳ばなきゃ」になってしまうのが、Mizumizuとしては、何とも残念なのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.12.27 21:38:16
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