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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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Tomy's room Tomy1113さん
2010.03.14
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岩波ホールに『海と沈黙』を見に行った。ジャン・ピエール・メルヴィル監督の処女作で、この作品を見て感銘を受けたジャン・コクトーが、それまで誰にも許諾しなかった『恐るべき子供たち』の映画化をメルヴィルに託すことになった。

原作は、レジスタンス文学の傑作とされるヴェルコールの小説。第二次大戦下、自宅をナチスドイツに接収されたフランス人家族(といっても叔父と姪)が、「沈黙」で支配者であるドイツ人将校に抵抗するという物語。

だが・・・

日本ではほとんど触れられない事実がある。ジャン・ピエール・メルヴィル監督の本名は、ジャン・ピエール・グルームバッハ。苗字が明らかにドイツ系なのはアルザス出身だからで、しかも、彼はユダヤ人。

そして、ヒロインを演じた女優、ニコール・ステファーヌ。彼女の本名はニコール・ド・ロスチャイルド。言うまでもなく、大銀行家ロスチャイルド家のおぜふ様なのだ。

もちろん生活のために女優なんぞをやる必要はない。と言っても、勉強熱心なユダヤ人の例にもれず、彼女も真剣に演劇の勉強をしているし、出演した作品ではそれなりの存在感と演技力を見せている。のちにイスラエル建国にもジャーナリストの立場から尽力している。

メルヴィル監督は低予算で苦労して映画を作った--というような美談ばかりが喧伝されているが、それは少しおかしいと思う。資金援助をしたのは、当然ニコールの実家で、だからこそ彼女が主役を務めた。世界有数の資本家なのだから、映画作りのカネくらい、出そうと思えば、もっと出せたはず。それが「低」予算だったのは、つまり、大富豪のロスチャイルド家が「渋かった」ためだ。

『恐るべき子供たち』でもニコールの従姉妹のヴェズベレール夫人が資金提供をして映画化が実現した。もちろんユダヤ人だ。コクトーはお金持ちで、何不自由なく好きな芸術活動を思い切りできた・・・などという誤解が広まっているが、実際のコクトーは何をやるにもスポンサー探しに苦労している。

南仏の教会の壁画を描くための資金を集めるのに大変な思いをしたのに、それを取材に来たテレビ局の番組の予算が、自分が作品を描くためにかき集めた資金より上だったと聞いて、ジャン・マレーに怒りをぶちまけている。

『恐るべき子供たち』で生じたユダヤ人との友情をコクトーは生涯大事にし、サインに添える星をダビデの六角形の星に変えている。だが、ヴェズベレール夫人がイスラエル国籍を取得したことは長い間伏せていた。

ユダヤ資本の映画への進出がいつごろから本格的になったのかは知らないが、この『海の沈黙』は、フランス人のレジスタンス活動に相乗りした、ユダヤ人による反ナチプロパガンダ映画の「はしり」のような側面をもつ作品なのだ。

2007年だったか、ロスチャイルド家の当主が東京に居を構えたとかいう噂が流れた(その後すぐパリで死亡が伝えられた)、ここにきてユダヤ人監督がロスチャイルド家のお嬢様をキャスティングした大昔の作品が映画館で公開(しかも劇場初公開)になるってのは・・・単なる偶然でしょうかね?

海と沈黙

ポスターもロスチャイルド家のお嬢様のアップ・・・ 演技は別に悪くはないのだが、これだけ台詞が少なく、しかもドイツ将校に想いを寄せられる役なのだから、もうちょっと容姿に華がある女優が演じるべきではなかったかとチラリと思う。

映画作りにはこうした裏事情が付きまとい、わかりやすい商業化がさなれればなされるほど、スポンサーのプロパガンダ精神がいかんなく発揮されることになる。当然と言えば当然のことだ。アカデミー賞なんて、それの最たるものじゃないだろうか? 所詮はアメリカ人のご都合主義の価値観と政治的思惑によって決まる受賞作品を、日本人がいつまでたってもやたらとありがたがって見に行く姿は、多少滑稽ですらある。

反ナチプロパガンダ映画は、常に紋切り型の絶対悪としてナチスドイツを描く。それは、ある意味でラクな選択だ。ナチスを美化するわけにはいかない。絶対悪として描けば、どこからもとりあえずクレームはこない。だが、こうしたプロパガンダ映画に共通して欠落した視点は、「なぜドイツ――世界でもっとも民主的な選挙制度をいち早く築いた国――の人々が、ナチスを支持したのか」「なぜユダヤ人迫害を、ヨーロッパの多くの人々が見て見ぬ振りをしたのか」という点だ。

こうした点を避けて、ナチ=問答無用の絶対悪として断罪しているだけでは、結局は、違った絶対悪が世界の密かにどこかで台頭してきたときに、歴史はそのストップ役を果たさない。

実際、イスラエルがパレスチナでやっていることは? 自分たちの革命――それは最初暴動から始まった――やレジスタンスを美化したフランス人が、アルジェリアでやったことは? あるいはタヒチの暴動の際に取った態度は? 「ホロコースト」と「レジスタンス」をさかんに世界に吹聴して回った2つの国が、今はむしろ告発されるべき立場にあり、それをさまざまな手段ではぐらかしているという現状はあまりに皮肉だ。

『海と沈黙』でも、きわめてわかりやすいナチ=絶対悪の図式が展開される。

たとえば、フランス人家族(叔父と姪)の家を接収したドイツ人将校は、基本的に純粋な性格だ。彼がパリに行き、絶対悪に染まった上司やかつての友人と会話してその罪深さに衝撃を受けるシーン。

上官は、フランスの文化・精神を破壊しなければいけないと主人公にまくしたてる。

主人公の青年将校は音楽家だが、フランスの文化、ことに文学に憧れをもっていた。「文学ならフランス。でも音楽ならドイツ。我々は戦争をしたけれど、これからは結婚すべき。この2つの国が融合すれば、どれほど偉大な国になることか」と、彼は自分を無視して沈黙を守るフランス人の老人(叔父)とその姪に熱く語っていた。

つまり、それは一種の「ヘレニズム的理想」だったのだ。ヘレニズムとは、アレクサンダー大王の東方遠征により、オリエント文化とギリシア文化が融合して生まれた文化を指す。その概念を提唱したのは、19世紀のドイツ人歴史家だ。彼らの根底にあるのは、結局のところ東洋に対して常に文化的・倫理的に優位にたつ西洋が、遅れた東洋を啓蒙したという考え。これは軍事力による支配を正当化する理由付けとして、今日に至るまでしばしば利用される。

そのくせ、モンゴルによるヨーロッパ侵攻は、あくまで野蛮な侵略と強奪であって、そこには何らの文化的意義も認めようとしない。

純粋なドイツ人将校の「文学の国・フランスの音楽の国・ドイツの結婚」という空想も、結局は支配者の手前勝手な押し付けにすぎない。老人と姪は沈黙をもって、この押し付けを拒否する。

青年将校は、パリで上官と会話することで、自分の理想が単なる絵空事だったと知る。そして、上官から聞いた戦慄すべき事実。それはアウシュビッツの話だ。「今は1日500人殺している。やがて1日2000人殺せる装置ができる」。

むしろ得意気に話す上官の姿に観客は、ナチスドイツの非人道的思考を激しく嫌悪することになる。

のだが・・・

冷静に考えてみよう。1日500人殺しただけでも、その死体の処理は大変だ。それが2000人に増えたら? もちろん殺すのも大変だろうが、2000人の遺体処理・・・ どれほどの焼却設備が必要になることか。ドイツ人がいかに働き者でも、想像を絶する作業ではないだろうか?

「1日2000人殺すつもり」――この数字に裏づけがあるのかないのかについて、Mizumizuは論じるほどの知識はもたない。常識的には考えにくい数字だと思うだけだ。だが、裏づけがあろうとなかろうと、映画で残忍そうな軍人が得々と話せば、ナチスの残虐性が一瞬で強く印象づけられることになる。非常に有効なプロパガンダだ。

もう1つ、こちらのほうがMizumizuにとっては不愉快だったのだが、この映画に色濃い、「ドイツ人、悪いでしょう」の図式だ。

青年将校は、「自分はドイツ女性が怖い」などと言う。いやしくもドイツの軍人がフランス人女性の前で、自分の国の女を悪く言うなんて設定がそもそも信じられないのだが、彼によれば、結婚するはずだった女性が森で虫に刺されたとき、「罰してやらなきゃ」と言いながら、虫の脚を1本1本むしったのを見て嫌悪感を覚え、結婚話を反故にしたのだという。

ゲシュタポによるレジスタンス活動家への拷問が凄惨を極めたことは、多くの証言から疑う余地はない。それを彷彿させるようなエピソードなのだが、見ていて気分が悪いのは、ドイツ人は普通の女性でさえ、そうした残虐性をもっていると印象づけようとする意図が感じられることだ。

かつての西部劇ではインディアン(ネイティブ・アメリカン)が徹底して悪者だった。インディアンならどれほど野蛮で残虐に描いてもオッケー、という時代が長く続いた。

『海と沈黙』でのドイツ女性のこのエピソードは、昔の西部劇でのインディアンの描き方に共通する、それこそ「野蛮な」悪意がある。

そこにいくと、ルキーノ・ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』でマルティンを通じて描かれたナチスの戦慄すべき悪の姿は素晴らしい。

マルティンは、エッセンベック財閥の1人息子で、母親の退廃を見てナチスに傾倒していく。母親は一族の内紛に勝利するためナチスを利用するのだが、やがて息子に裏切られ、自殺に追いやられる。

最初はうまく利用するつもりだっただけのナチスに息子を取り込まれ、破滅する母。その母の遺体に向かって、敬礼する軍服のマルティンは、怖いぐらい冷たく、美しい。人間的な情を完全に喪失したマルティンの顔が美しければ美しいほど、ナチスという悪が1人の内面を占拠し、魂をとことん蝕んだ現実が否応なしに突きつけられる。

これこそがナチスの真実ではないだろうか? あるいは、あらゆる「カルト」の? マルティンは最初から悪人だったわけではない。むしろ権力欲に取りつかれ、親族殺しさえ厭わない母の度を越した悪行を目の当たりにして、若者らしい憤怒に駆られたという側面もある。

歪んだ正義感がこころの中で暴走した結果、彼は、さらに大きな悪の下僕となってしまった。そこに単に「ナチス=悪」を超えた、普遍的な人間の業に対する警告をMizumizuは見るのだ。

<続く>

 

 






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最終更新日  2024.05.18 21:47:50
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