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ようやく、高橋大輔選手がその才能にふさわしいタイトルを手にした。 世界選手権優勝。日本男子初。オリンピックの金・銀メダリスト、それに4位・6位が出なかったのだから、高橋選手は優勝候補の筆頭。だが、そうした状況になればなるほど、ニッポン男子の得意技「ジャンプの自爆」が出てきやすい。 オリンピック以降体重も2キロ増え、モチベーションも上がらず、トリノに入ってもトリプルアクセルの調子が悪かったと伝えられるなか、あれだけ演技をまとめたのは凄い。 ジャッジのデタラメ採点はハッキリ言って相変わらず。だが、高橋選手の優勝は文句なし。この順位に間違いはない。 高橋選手が他の選手と違うのは、卓越したスケート技術と表現力もあるが、なんといってもトリプルアクセルの力だ。 現行ルールで勝敗を決めるのは最高難度の4回転ができるかできないかではない。トリプルアクセルをショートで1度、フリーで2度決められるかどうか。これが一番モノをいうのだ。 織田選手と小塚選手は、4回転に挑戦しはじめてから、トリプルアクセルがどうしても安定してくれない。これは、ごくわずかな例外的選手をのぞけば、世界の男子トップ選手に蔓延している「怪現象」なのだ。 つまり、4回転が試合で決まりはじめると、トリプルアクセルが乱れる。4回転はそもそも難しい技なので、なかなか安定しない。跳べたり、跳べなかったり。そして同時に、これまでは跳べていたトリプルアクセルがダメになる。1度ならなんとか入る(今回のフリーで小塚選手は1度も入らないという最悪のシナリオになってしまったが)。だが2度は決まらない。 このパターンにはまる選手の例は枚挙に暇がない。ベルネル選手、ウィアー選手、ライザチェック選手、織田選手、小塚選手。ひろい意味では、大きな試合では4回転を入れていないものの、今季プログラムに入れようとしてもともと不安定だったトリプルアクセルがさらにダメダメになったチャン選手もこのパターンに入れることができるだろう。 ジュベール選手は今回、4回転2度、トリプルアクセル1度にして、ミスはなかったが、そうなるとルッツ(トリプルアクセルの次に難しいジャンプ)で失敗するというパターンが待っていて、またこれにはまってしまった。 高橋選手の勝利を確定づけたのは、4回転フリップで転倒しなかったことも大きいが、なんといっても後半にもってくるトリプルアクセルを見事に決めたこと。 フィギュアスケートのジャッジというのは、基本的に頭がよくないのか、滑稽なほどわかりやすい「辻褄合わせ」をする。オリンピックで批判と疑惑の対象となったキム選手のジャンプに対する加点「2」。これをあとから辻褄合わせをするなら、高橋選手のトリプルアクセルだろうとMizumizuが書いたら(3月1日のエントリー参照)、ヤッパリ。フリーの後半にクリーンに決めたトリプルアクセルが9.02点(トリプルアクセルの基礎点は8.2点なのだが、後半にもってくると1割増しとなる)に加点「2」がつき、11.02点という大量点を稼いだ。 オリンピックでも同様にクリーンに決めたのだが、加点は「1.8」点で「2」までは行かなかった。 チャン選手との最終的な点差が10.48点だったから、このトリプルアクセルで回転不足のまま(つまりダブルアクセルの基礎点のまま)転倒したりしていたら、演技構成点にも影響が出て、金メダルは、あの「怪奇現象上げ」のパトリック・チャンに行っていたかもしれない。 ふざけた話だ。 つまり、チャン選手に対して、これをオリンピックでやろうとしていたということ。それがチャン選手がショートでトリプルアクセル(基礎点が高いジャンプなので、これを1つ失敗すると大きく点を失う)を失敗し、フリーでも失敗したためにできなかったのだ。 おまけに、オリンピックでは高橋選手に金をやるつもりはなかったのか、後半の単独ルッツのエッジ判定で「!」(アテンションマークのこと。これがつくのは、踏み切り時に間違ったエッジに入った時間が短かった場合、もしくは中立だったとみなされた場合)がつくと、ここぞとばかりにGOE減点したのに、今回はGOEで減点したジャッジ、加点したジャッジ、0にしたジャッジが入り混じり、最終的に基礎点そのままの6.6点(オリンピックでは6.6点に対し、GOE減点で6点になった)。 プッ。 失礼。 しかし、思わず噴き出したくなるほど露骨だ。 もちろん、GOEの点付けは不正行為ではない。「!」マークの場合は、減点MUSTではない。たとえ「!」がついても他にそのマイナス要素を補うだけのプラス要素があると見なせば加点してもいいし、減点しない(加点もしない)こともできる。そのあたりはGOEをつける演技審判の自由裁量に委ねられている。 高橋選手のフリーのスピンとステップのレベル認定がすべて最高難度の「レベル4」というのも・・・ まあ、日本人としては有り難いが、はっきりいって相当に萎える。高橋選手に対するスピンとステップの認定は、今シーズン初めはやたらめったら厳しかったのだ。ステップもレベル2が多かったし、スピンも・・・(以下、自粛)。 それが、プルシェンコがステップでもスピンでもレベルを安定して取ってくる、ジャンプも決まるとわかったシーズン後半、つまりオリンピックでは・・・(以下、自粛)。 高橋選手がそこまでレベルを上げてきたということですね、はいはい。スピンの回転数、足りていたんですか・・・いたんですね、はいはい。フォアアウトで回ると軸がだいぶ広がって・・・いえ、気のせいでしょう。フォアアウトのスピンは難しいですし。 最後の連続ジャンプもオリンピックでは3ルッツ+2トゥループ(基礎点8.03点)だったのをダブルアクセル+2トゥループ(基礎点5.28点)に替えて、だいぶラクに・・・いえ、ルッツでエッジ違反を取られて減点されるのを防いだってことですね。なんといってもトータルバランスですから。 フリーの総加点もオリンピックでは、たったの3.2点だったのが、今回7.8点にまで増えたのは、女子の誰かの爆加点への多少の辻褄合わせ・・・ではなくて、高橋選手のエレメンツの質が急に上がったせいなのですね。オリンピック後で疲労していたにもかかわらず、たいしたものです。どちらにしろフリーの総加点が17.4点などというのがいかに異常か、男子トップ選手に対する加点を見ればわかろうというもの。 この高橋大輔優遇政策は、キム選手の謎の爆加点や発狂演技構成点に不満を募らせている日本人ファンを黙らせるためでしょうかね? もっともそれは、高橋選手には何の責任もないし、彼が金メダルにふさわしい演技をしたのは確かだ。 あえて自国の選手のことを書いたが、チャン選手への採点は、ハッキリ言ってもっと、相当に酷い。あれを来季も見せられるとしたら、Mizumizuは憤死するかもしれない。そもそも来季Mizumizuがフィギュアスケートを見るかどうかもわからないが、日本人選手にこれだけ素晴らしい才能がそろっている時代に、完全にフィギュアに背を向けるのも難しい。 今回の2位の選手は、明らかに彼ではない。オリンピックの5位だって、彼ではなかった。チャン選手のスケート技術は確かに世界屈指だが、決してアナウンサーが安直に請合うように、「間違いなく世界トップ」ではありえない。 小塚選手もチャン選手に引けをとらないスケート技術をもっているし、単にエッジ捌きというなら、チャン選手よりも上だと思う。それはストイコも言っている。「タカヒコのエッジは世界トップ」だと。ところがところが、フリーのスケート技術の点は、チャン選手が8.35点、小塚選手が7.5点と0.85点「もの」差がある。いい加減にしてほしいわ、まったく。 チャン選手はワンストロークでトップスピードにのる技術は世界トップだし、確かに難しいことをしている。だがモーションがあまりにパターン化していて、繰り返しが多すぎるのだ。確かにスピードを落とさずに、難しいターンや回転動作をするのは素晴らしいが、リピートばかりなので、平板な印象になる。メリハリのきいたスケート技術の多彩さでは、高橋選手にはまったく及ばない。 だから、チャン選手に対する解説者の賞賛も常にワンパターンだ。 その1.スケートの伸びが他の選手と違う。ひとかきでトップスピードにのる。 その2・ 簡単そうに見えて難しいステップを踏んでいる。しかもスピードが落ちない。 終わり 以上。 <本文は続きます> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.03.26 19:40:15
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