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オリンピックでトリプルアクセルや4回転の基礎点の低さがクローズアップされ、そこだけに注目が集まっている感があるが、実際には、トリプルアクセル以上のジャンプの基礎点は、一度引き上げられている。 http://www.geocities.jp/judging_system/ ↑ こちらに詳しいジャンプの配点が書いてあるが、2008年度以降 3A 基礎点 7.2点→8.2点 4T 基礎点 9点→9.8点 だが、よく見ていただくと、同時に非常に「嫌らしい改定」もなされているのがわかると思う。それは、GOEの加点・減点の反映割合。 それまで減点・加点はジャッジがマイナス3からプラス3までつけたものが、そのまま反映されていたのに、基礎点が引き上げられると同時に、減点の反映割合が増やされている。 つまり、たとえば4Tの場合、ジャッジがマイナス1とつけた場合はマイナス1.6点減点になるというように、失敗したときのリスクを大きくしたということなのだ。 トリプルアクセル以上の超高難度ジャンプには、それだけで転倒→ケガの危険性がつきまとう。高難度のジャンプに挑むということは、それだけで身体的リスクを背負うということ。それだけで選手にはプレッシャーだ。 にもかかわらず、減点されれば、過剰に反映され大幅に点が下がってしまう。高難度ジャンプへの挑戦を逆にはばむ改正と言っていい。 実際に、基礎点が上がって以降、逆にジャンパーはどんどん勝てなくなってきているのだ。今回のバンクーバー五輪で、それが決定的になった。 それは一言で言えば、主観点である加点・減点および演技構成点のマジック。 GOEの加点を積極的につけるというのは、ジャンプ以外の要素では、基本的に好ましいと思っている。 以前ジャン選手のパールスピンが、キム選手のレイバックスピンとたった0.5点差しかついていないことに疑問を呈したことがあるが、ジャン選手、それに長洲選手の見せるパールスピンなどの独創的な技は、もっと評価されていいし、次第にそうなってきている。 http://www.geocities.jp/judging_system/ ↑ こちらにスピンやステップなどの配点もあるが、レベル4を取らなければ、加点でたとえ「3」をジャッジがつけても、3点として反映されない。レベル3ならば、ジャッジが加点で3をつけても実際には1.5点プラスにしかならないのだ。 ジャンプ以外の要素を重視したトータルパッケージでの評価を・・・と、言いながらレベル認定で4を取らなければ加点割合が過小なままというのは、まだかなりハードルの高い設定だ。 今シーズンはステップのレベル認定に不可解さを感じた。最初はステップのレベル4はほとんど出なかったのが、年明け以降はかなり出た。レベル3とレベル4で加点の反映割合が違う現状では、微妙な判定によってずいぶん点が違うということで、好ましくないように思う。 もし、ジャンプ以外の要素を重視するというなら、ステップやスピンなどのレベル認定が3でも、反映割合をレベル4並みにするという手もあるが、むしろ基礎点をあげて(レベル3と4を近い点にし、かつどちらでも3回転ジャンプ1つ分になる程度に)、レベル4のGOE反映割合を抑え、同時に3回転ジャンプのGOE反映割合を抑えるほうが整合性があるのかな、とも思う。つまり、スペシャリストの判断で、あまり極端な差がつかないように設定するということだ。 ジャンプ以外のエレメンツの得点の出し方にはいろいろ考え方があり、どれをとっても、そもそも数が少ないので大差はないのだが、むしろ今問題なのは、ダブルアクセル以上のジャンプの基礎点に対する加点の反映割合が、その他の要素の反映割合に比べると過剰であるということだと思う。 たとえば、キム選手はフリーでダブルアクセルを3つ入れ、苦手のトリプルループを入れていない。ダブルアクセルで「なぜか」気前のいい加点をもらえるので、点数はトリプルループに近い得点を得てしまう。 ダブルアクセルは基礎点も高く、加点の反映割合も過小におさえられている2回転ジャンプと違い、3回転ジャンプ並みになっている。 http://www.geocities.jp/judging_system/ ↑ こちらの「ジャンプの配点」を再度参照ください。 にもかかわらず、フリーでは3度入れることができる。3回転ジャンプ並みの扱いなのだから、挿入回数は2度に抑えるほうが適当だし、それによって、ジャンプの偏りがなくなり、バランスよく多種類のジャンプをフリーに挿入するよう選手にうながす効果もあるはずだ。 トリプルアクセル+ダブルトゥループがトリプルルッツ+トリプルループよりも基礎点が低いことに対して、海外の解説者が疑問を投げかけていたが、それは連続ジャンプが単純な足し算であることに原因がある。しかも、連続ジャンプでセカンドに2回転を入れた場合、その基礎点が2トゥループなら1.3点しかないのに、GOEでもし減点されるとなると、マイナス2がつけば、そのままの反映割合となり(連続ジャンプなので、3回転以上の反映割合が適応される)、逆に2トゥループをつけないほうがよかったような点になってしまうこともある。 つまり、連続ジャンプの失敗は多くの場合、セカンドがまずいために起こるのに、2回転のセカンドの失敗に対して、3回転以上のジャンプの失敗の減点割合が反映されてしまうということだ。 こうした矛盾は、連続ジャンプを単純な足し算とせず、なにかしらの調整を加えることでも解決できるが、むしろ、2回転ジャンプとトリプルアアクセル以上のジャンプの基礎点を少しあげ、かつ加点・減点の反映割合をダブルアクセル以上のジャンプでも、もう少し過小にすることで解決できるように思う。 今の採点の問題点は、加点・減点によって、客観的基準として定めたジャンプの基礎点がないがしろになってしまっている点。そこに「操作」が可能である点にある。 トリプルアクセル以上のジャンプの基礎点のことばかり言われるが、今の現状では、2回転ジャンプの基礎点が非常に低く、加点をもらっても3回転以上のジャンプの点にならないため、レベルの低い選手が、無理に3回転を跳ぼうとすることが多い。 たとえばダブルルッツにジャッジが加点3をつけたとしても、1.9点の基礎点に1.5点の加点が反映されるだけで、3.4点にしかならない。これがトリプルトゥループだと4点もらえる。 そうなると、踏み切りのエッジを含めて、ジャンプの跳び方を固めるべき時期に、無理に3回転ジャンプに挑戦しようとばかりして、基礎がおろそかになる可能性が高い。 ルールは、すべての選手の基礎力のアップに貢献しなければいけない。むしろ2回転ジャンプの基礎点を少し上げて、加点がもらえれば3回転ジャンプに「近い点」がでるようにし、同時にトリプルアクセル以上の、「世界でもトップクラスの選手しか跳べない」技に関しても基礎点をあげ、かつ3回転以上のジャンプの加点・減点の「反映割合」を2回転ジャンプ並みか、それより少し反映割合が多い程度に抑制して、基礎点で上のジャンプをあまり凌駕することのないように設定する。 こうすれば、たとえジャッジが、恣意的な理由で加点を大判振る舞いしても、ジャンプの点がむやみにインフレすることはなくなる。 質は大いに評価すべきだが、その反映割合を今よりも過小にする。そのことで、高難度ジャンプへの挑戦も自然にうながされることになり、かつジャンプの得点の客観性も担保されることになるはずだ。 ある少数のジャッジが失敗ジャンプに加点「2」をつけても、その反映割合が抑制されて「1点」にしかならないということであれば、ジャッジの恣意的操作を、防ぐことはできないにしても、点数上抑制させる効果をもつ。 同時に、トリプルアクセル以上のジャンプの減点の過剰な反映割合も、過小に変更すべきだ。高難度ジャンプへの挑戦を奨励し、ジャンプの技術を向上させる方向に行くなら、今のようなジャンパー罰ゲームは好ましくない。 そうすると、やたらとトリプルアクセルに挑戦する選手が出てくる・・・という人がいるかもしれない。だが、トリプルアクセル以上のジャンプは、転倒せずに降りることさえ難しい。今の採点の問題点は、認定されてしまえば、転倒ジャンプであっても、点になったり、逆にマイナス点になったりすることだ。 認定するかしないかではなく、転倒ジャンプは一律に0点とする。そうすれば、無謀なトリプルアクセル挑戦で基礎点を稼ごうとする選手はいなくなるはずだ。そもそも今、基礎点狙いで3Aや4Tに挑戦している選手はいないだろう。みな、自分の限界に挑戦している。トリプルアクセル以上の高難度ジャンプはそうした技だ。 むしろ、レベルの低い選手が、基礎点狙いで3回転を跳ぶほうが問題だ。 日本スケート連盟も、トリプルアクセルの基礎点アップとかボーナス点とか、「浅田選手1人のためにルールを変えようとしている」と突っ込まれることがわかっているような手法ではなく、もっと理論武装のできる、かつ選手全体のためになる改定案を出すべきだ。 数の多いヨーロッパ諸国の選手にとっては、キム選手が強かろうが浅田選手が強かろうが、自分たちに勝ち目がないことでは同じ。 「浅田選手が、あれほど難しいことをして勝てないのはおかしい」(オリンピック後の強化部長の言葉)は、そのとおりだが、ルールは政治、政治は数、多くの国が不満に思っていることをすくい上げなければ、数は集まらない。 世界選手権で、世界中を呆れさせたキム選手の高得点は、どこから来ているのか? 成功ジャンプへの過剰な加点と高めに設定された演技構成点からだ。これについては、アメリカ女子も不満をもっているはずだ。 そこをすくいあげて、賛同してくれる国を増やすべきであって、現状女子では浅田選手しか跳べないトリプルアクセルばかりをクローズアップしてルール改正を提案するのは、厳に慎むべきことだ。 キム選手はエレメンツの完成度が高いから高得点だという話は、ショートでエレメンツそのものが抜けてしまっても、エレメンツをきちんとこなしたフラット選手とほぼ同じ点が出たことで説得性を欠くことになった。フリーでは、ジャンプの転倒とパンクで演技の流れとが止まり、見た目の印象が悪かったにもかかわらずフリーだけでは1位という点が出て、「全体の完成度が高得点につながる」という説明も、結局後付けの辻褄合わせだということが逆に素人目にもわかってしまった。 ファンに対して、「あなたは素人。ジャッジはプロ。採点の批判なんかせず、気楽に楽しみなさいよ」などと言っても、採点競技でそれは無理というもの。黒を白と言い含めようとしつづけたことが、今回のブーイングが飛び交うワールド(しかも、日本のテレビでは、ブーイングの音が抑えられていた)につながったということを、ジャッジもISU幹部も真摯に受け止めるべきだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.04.04 02:06:11
[Figure Skating(2009-2010)] カテゴリの最新記事
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