東京に進出するフランスの有名ブーランジェリーは、たいてい数年で賞味期限切れになる。最初はめいっぱい力を入れて、本店以上のものを提供するのだが、そのうちに、ナッツ類をねりこんだパンならナッツをケチるようになり、チーズをかけたパンならチーズをケチるようになる。天然酵母の保存もいい加減になるのか、パン生地そのものの味も落ちてくる。焼き具合も適当になり、いかにも大量に作って大量に売らんかなの態度に。さらに、パリではおよそ見ないような日本人好みのふにゃっと柔らかいパンが増える。
だいたいこのルートをたどることになるのだが、赤坂サカスの「ドミニク・サブロン」はまだ、フランス人の定義する「高級ブーランジェリー」の味を保っている。
まずはクロワッサン。パターの上質感が明確にわかる味。バターはたっぷりなのだが、決してアブラっぽくなく、噛み締めると甘い風味が広がる。これぞクロワッサンでしょう。近所にあれば、できたてが食べられてなおいいのだが、残念ながらその贅沢は赤坂近辺に住んでいる人たちの特権だろう。
プティパン・ビオ・オ・ノア・エ・レザン。長ったらしい名前だが、要はクルミと干し葡萄を練りこんだパン。クルミもレーズンもこれでもかというくらい入っている。この状態、何年続くことやら? そのうちナッツも干し果物も量がガタ減りにならないといいのだが。
ナッツと干し果物が大好物のMizumizu連れ合いは、このパンの大ファン。
「果物はやっぱり、干したものがウマイよね」
などと言う日本人、Mizumizu連れ合い以外では会ったことがない。この台詞を聞くたびに、横で「果物は生が一番ウマイでしょ」と思うMizumizu。
ちなみに、Mizumizuには2人弟がいるのだが、下の弟(つまり末っ子)は、干し葡萄が大嫌いだった。子どものころ、干し葡萄の入っているお菓子が出ると、葡萄だけほじくり出して食べているのを見て、ガクゼンとしたことがある。レーズンだけバクバク食べる気にはならないが、アクセントとしてはいい味だと思うし、レーズン出しちゃったら、味が平板になると思うのだが・・・ そこまで嫌う理由がわからなかった。
Mizumizuファミリーであそこまで干し葡萄を嫌っていたのは末っ子のみ。同じ家系で、同じ物を食べて育つのに、どうしてこういう差ができるのか。食べ物の好き嫌いは、まったく理屈では説明できない。
ルヴァン種の天然酵母を使ったバゲット。非常に酸味が強く、Mizumizuは大好きな味。日持ちがするので、翌日はより深みのある味が楽しめる。歯ごたえもよく、噛んでいると顎が疲れるほど。噛めば噛むほど味が出る。こういうのがフランスのパンだと思う。
年を追うごとに「エセ」になりさがっていく、東京進出した他の多くのパリの名ブーランジェリーの轍を踏むことなく、正統なフランスのパンの味を提供しつづけてほしいもの。
ちなみに、例によって東京進出直後は長蛇の列が出来ていたようだが、今は休日でも並ばずに買える。本当に、日本人は飽きるのが速いなあ・・・