カステラといえば長崎。
長崎に行った折に、めがね橋のたもとで、鼈甲屋のご主人に聞いて連れて行ってもらった、「天皇家に献上している長崎で唯一のカステラ専門店」。それが匠寛堂だった。
ゆかしげな暖簾をくぐると、すぐに席を奨められ、お茶と一緒に、さっそくカステラが運ばれてきて試食させてもらう。こうなると買わないわけにはいかなくなる(笑)。
お奨めはと聞くと、悠仁親王殿下ご誕生の際に献上した「天地悠々」だという。いわゆる五三焼き(卵黄と卵白の割合が5:3)カステラの部類に入るが、材料をさらに厳選して謹製したのだとか。
このときの長崎旅行では、テレビタレントが絶賛したという別のメーカーのカステラも買ってみたのだが、比べてみると、逆に「天地悠々」の美味しさがくっきりと意識できた。
あえていうなら・・・パンを思わせるような風味。それじゃ、褒め言葉にならない感じだが、立派な褒め言葉のつもりだ。さっくりとして、重くなく、甘すぎず、しつこくないのに食べ応えがある。
正直に、「こんな美味しいカステラは初めて食べた」と思った。
五三焼きカステラは卵の風味が強すぎて、やや重たく感じられ、実は必ずしも好きではないのだが、「材料をさらに厳選した」と胸を張るだけあって、風味の上等さはそこらの五三焼きの比ではない。
匠寛堂は東京には出店していないので、長崎まで行くかネットで注文するしかない。
ネットで注文すればすぐに届けてくれるだろうが、あのめがね橋のそば、和服の女性が立って迎えてくれる小粋な店の暖簾をくぐって、おっとりとして感じのよい店の人と少し世間話などしながら献上カステラを包んでもらう時間もまた格別だった。買おうと思えばネットでいつもで買えるけれど、あえてそうはせず、長崎を再び訪ねたときの楽しみにとっておこう。