不忍池をとおりすぎて、家族連れで賑わう上野動物園のすぐわきを通ると、不思議と異次元に彷徨いこむような気分になる。
子どもたちのはしゃぐ声が遠くから聞こえる。道の柵のすぐそばに、馬がいて草を食んでいる。通り過ぎる人間やクルマの音には慣れているのか、あまり関心を払わず、一心に食んでいる。
道の左右には大きな木が立っている。上野の杜からのしかかるように伸びた緑が、車道をほとんど陰の路にしている。アスファルト敷きの曲線に沿って、過去へ向かって歩くようだ。お洒落とか最新とかといった言葉とは程遠い。だが、ここは大都会・東京の真ん中なのだ。
そこに佇む1軒のホテル「水月ホテル鴎外荘」。
ここには日帰り天然温泉がある。その名も・・・
鴎外温泉。
ここに森鴎外の住居があったことから名付けられたらしい。一応(?)かけ流し・・・ということなのだが、Mizumizuが行ったときには、温泉は出ておらず、さほど広くない湯船に赤っぽいお湯がたまっている状態だった。それでもとりあえず、循環式ではないそうだ。
雰囲気は・・・なんというか、高級な銭湯、などと言ったら失礼だろうか? しかし、手入れと掃除は行き届いているものの、古びてこじんまりとした、露天も何もない温泉は、やたらと豪華で広い設備を備えた「ホテルの温泉」のイメージからは程遠い。
時間をかなり逆戻りした感がある。
そのせいなのか、人がおらず、ゆったりと1人で湯船につかることができた。これはこれで嬉しい。なんといっても上野のど真ん中なのだから。そして湯上りには、脱衣場にど~んと置かれた無料のマッサージ椅子を使ってみた。かなり痛かった(笑)。
泉質は東京の天然温泉は、みんなこれ・・・としか言えない、赤っぽくて口に含むと少し塩気のある重炭酸ソーダ泉。
どうということはないが、上がってみればそれなりに体はあたたまり、肌はすべやかになる(気がする)。
正直に言ってしまうと、露天もなく、この狭さで1500円は高いと思う(バスタオルとタオルは無料で貸してもらえる)が、ときどきキャンペーン価格で安くなることも。
ホテルには生演奏を聴かせるレストランもあり、こちらは賑わっていた。
ホテル内には緑豊かな庭をそなえた鴎外の住居跡もある。
いまにも明治の文豪が縁側に立ちそうだ。まさに都会の異次元空間。鴎外の娘・森茉莉もここにいたのだろうか? 時を超えて森親子と対話ができそうな場所。もう2人とも、とっくにこの世にいないのに。それをふと忘れてしまうような空気が、ここにはある。
水月ホテル鴎外荘