いかにも「湯治」という雰囲気の山口の柚木滋生温泉にはないエンターテインメント性を備えた炭酸泉を楽しめる場所、それが九州大分県にある長湯温泉・ラムネ館だ。
藤森照信氏による建築は、遊び心がいっぱい。
モダンなモノトーンのストライプ模様の壁、日の光を浴びて輝く銅版の屋根、そして屋根の真ん中から空に伸びる松ノ木・・・
写真は撮れなかったが、脱衣場から浴室、露天へと連続空間の演出も凝っている。木をふんだんに使ったひなびた雰囲気の脱衣場から、身をかがめないとくぐれない小さな木の扉を抜けると、とたんに白壁の天井の高い浴室空間が目に飛び込んでくる。
この一瞬の驚きのために脱衣場を、わざわざ狭く、やや暗く、古びた空間にしつらえたのだ。
浴槽こそ古い日本の湯治場そのものだが、白い壁に(やや意味不明の)ニッチ空間をもうけた浴室は、どことなく異国情緒が漂う。
(写真はHPより)
しかし、緑のツタの這った、異様に高い吹き抜けの天井を見上げながら、これはちょっと空間の無駄遣いでは・・・という気がしないでもない。とはいえ、建築家の遊び心と演出のおもしろさは唯一無二のもので、こんなデザイン性の高い温泉施設は、ほかに思い出せない。
野外の開放的な空気と日の光に導かれて、浴室から露天に出てみると、白いキャンバス地の布をパラソルのようにひろげた、小さなプールのような浴槽が目に飛び込んでくる。
屋内の「にごり湯」に対して、こちらのほうが「ラムネ湯」。炭酸を多く含んでいる。
炭酸泉は温度が上がると泡が飛んでしまうとかで、湯の温度は低め。それでいて、さすがに温泉。体が冷えるという感じがない(酷寒の季節はわからないが・・・)。暖かい季節でも、長く入れるのが魅力だ。
長湯温泉郷は、ひなびた田舎にあるが、山奥の秘湯という雰囲気ではない。山間の開けた土地にある。近くの林の中には、長湯B.B.Cという洒落た宿泊施設もあり、効能豊かな炭酸泉とあいまって、長期滞在したい魅力にあふれている。
少しクルマでいけば、ラムネ館以上の炭酸含有量を誇る七里田温泉・下湯もある。
ところで、長湯といい、七里田といい、「日本一の炭酸泉」をうたっているようだが、その根拠はというと、もうひとつ納得できない。
ウィキペディアによれば、
七里田温泉・下湯は、炭酸含有量は1250mg(温度37.5℃)、長湯温泉のラムネ温泉は781mg(温度32.8℃)。
山口県の柚木滋生温泉は、看板に炭酸含有2107mgとあった。どこでどうやって測ったのかはっきりしないが、数値だけ見ると、柚木滋生温泉が圧倒的!?
どうもわからない・・・
だが、長湯温泉・ラムネ館が魅惑的な温泉施設であることは確か。血行をよくするという、炭酸泉の効能は短時間の入浴でも実感できるほど。
ワイルドでいながら洗練された感覚が隠れている、緑に囲まれた開放的な雰囲気の中で、建築家の遊び心とともに、湯浴みを楽しむには絶好の場所。