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カテゴリ:Travel(日本)
火焔土器の迫力ある造形美が好きだ。
蓼科高原には美術館・博物館がかなりあるが、縄文芸術にもともと興味のあるMizumizuが、是非行きたいと選んだのは、尖石縄文考古学館。ここにある『縄文のヴィーナス』が目当てだった。 目指す土偶は、考古学館の一室中央のガラスケースに美しく陳列されていた。重要文化財に指定されている『仮面の女神』も同室にある。 パッと見には、『仮面の女神』のほうに強い印象を受ける。怪獣映画に出てきそうな迫力のあるカタチと、ずっしりした量感、線を中心に細かく施された装飾。一方の『縄文のヴィーナス』は、一見シンプルで、控えめな印象。 だが、前から、横から、後ろから、じっくり鑑賞していくと、最初の印象がくつがえってくる。素朴な造形の中に、『仮面の女神』にはない、モダンで重層的な美意識が隠れていることに気づくのだ。 前から見た『縄文のヴィーナス』は、斜めのラインで表現された目が印象的な簡素で小さな顔立ちと、膨らんだ腹部、どっしりした下半身のフォルムの組み合わせが面白い。顔は平板な形に見えるのだが、横から見ると、実はかなり鼻が高く、人の横顔を模したというより、デフォルメして別のイメージに昇華させているようにも思えてくる。Mizumizuは、この横顔になぜか「鳥」のイメージを重ねた。 真横から見たときに強く感じるのは「安定感」だ。なにものにも揺るがない「強さ」を、作り手は表現したかったのではないかとさえ思う。想像以上に下半身にボリュームが置かれており、前から見たときには肩と胸の造形に目を奪われて気づかなかった量感が、土偶の下部にぞんぶんに発揮されていることに驚く。 後ろから見ると、形は極限までシンプルになる。肩部の丸いふくらみとハート形の尻部は、他の要素を一切廃した「引き算」の美を感じさせるという意味で、現代的ですらある。 布を幾重にも巻いたような厚みのある被り物には、線で装飾が施されており、体躯がつるんとした質感ゆえに、線模様の面白さに目が行く。複雑ではなく、簡素で、最低限ともいえる模様だからこそ、その窪んだラインの迷いのなさに感動するのだ。 じっくり見れば見るほど、「ボリュームとライン」の織り成す造形の面白さに惹きこまれる。彫刻芸術の原点でもあり、頂点でもあるのではないか。 平成7年と、比較的最近になって国宝に指定された『縄文のヴィーナス』。彼女の放つ不思議なパワーにまた触れたくて、一度では飽き足らず、館内の縄文時代にまつわる展示物をつぶさに見たあと、また舞い戻ってきて、なんどもガラス越しに見つめた。 どんな人が、なんのために作ったのか…正解の出るはずのない問いの答えを、頭の中で構築してみるのも楽しい。 小さな売店には、レプリカも売られていて、案外いい出来だった。一瞬、家に飾りたいとさえ思った。だが、やはり本物の国宝がほの暗い博物館の一室で、浮き立つような照明を浴びながら大切に展示されているさまを記憶に焼き付けておいたほうがふさわしいと思い直して、買わずにおいた。 土偶のマグネットなら、気軽に買える。だが、二次元の写真になってしまうと、縄文時代の彫塑芸術のもつ不思議なパワーは消えてしまうようだ。これを見ても、どこがどういいのかわからないのではないか。 とはいえ、こんなお遊びなら、楽しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.10.23 16:57:30
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