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バンクーバー五輪を制したキム・ヨナ、ソチ五輪を制したソトニコワ。この2人に共通だったのは、ルッツでエッジ違反を取られず、連続ジャンプのセカンドに3トゥループを2度持ってきて認定されたことだ。ソチでキム選手がソトニコワ選手に勝てなかったのは、後半にもってくるセカンドの3回転がなかったことが大きい。 今季のルール改正のキモは、不正エッジに対する減点の大幅アップだ。「!」マークが復活し、「E」判定されると基礎点そのものが減じられてしまい(70%になる)、GOEはマイナスとなる。これが何を意味するか? 一言で言えば、明らかな不正エッジをもつ選手は、3回転ジャンプを跳ぶ意味がなくなったということだ。 昨季までは、「E」マークのみで、不正エッジの重度・軽度はGOEに反映される仕組みだった。GOEはエッジの踏み分けだけでつけられるものではないが、採点の傾向を見ると、だいたいどの試合でも、演技審判は一貫性のあるジャッジングをしていたように思う。たとえば、浅田真央選手と村上佳菜子選手のルッツなら、村上選手のほうが重度のエッジ違反なので(浅田選手はルッツを再び跳び始めた当初、2012年の四大陸などのように、認定されることもあったhttp://www.isuresults.com/results/fc2012/fc2012_Ladies_FS_Scores.pdf)、総じてGOEでの減点が大きい。つまり、「!」と「E」の審査分けは昨季もされており、点数に反映されていたと言っていい。 ただ、今季、「おや?」と思ったのは、オープンフィギュアでチャン選手のフリップについた「!」マーク。これを皮切りに、シーズンが始まってみると、必ずしも「不正エッジ」と言い切れなくても、曖昧なエッジでの踏切には、軒並み「!」がついているという印象だ。「軽度の不正エッジ」の範疇が広がり、「曖昧な踏切」は、軽度の不正エッジの域に入ってくるという解釈でジャッジングがなされていると言ってもいい。 「E」を取られると点にならないから、重度の不正エッジを自覚している選手は、そのジャンプをプログラムから外してきた。ゴールド選手のように、微妙だと思う選手は入れてきているが、例えばゴールド選手のアメリカ大会での判定をみると、フリップは「E」を取られてしまい、結果、ダブルアクセルより悪い点になってしまった。 ゴールド選手のフリー後半の代表的なジャンプ 3Fe E判定 基礎点4.07 x GOEはマイナス1とマイナス2 得点3.37 3Lz 基礎点6.60 x GOEはマイナス1からプラス1 得点6.40 2A 基礎点3.63 x GOEはマイナス1と0 得点3.42 エッジに問題のある3フリップと、正確にアウトエッジで踏切できるルッツとの点差は顕著だ。これを見ても、「E」判定を取られたら3回転を跳ぶ意味がなくなるということは、明らかだろう。 ルッツに明らかな不正エッジをもつ村上選手の場合は、こうなることを見越して、プログラムからルッツを外してきた。トリプルアクセルに次ぐ基礎点をもつトリプルルッツを入れることができないのは、非常に痛い。そして、もう1つ「痛い」というより、「危うい」ことがある。 それは、ルッツのない村上選手が、ループに頼るジャンプ構成を組んできたことだ。ループは回転不足を取られやすいジャンプだ。逆に言うと、少々回転不足でも降りてしまうことのできるジャンプとも言えるかもしれない。中国大会のフリーでは、ダブルアクセルからの連続ジャンプの失敗が大きかったが、それと同じくらいMizumizuが気になるのは、入れたループジャンプが全部回転不足を取られたこと。 オープニングの3ループは、ダウングレード判定になっても文句を言えないような降り方だった。後半にもってきた、3ループ+2トゥループ+2ループは、解説の織田氏は、「回っていると思う」と言ったが、判定を見ると、3Lo<+2T+2Lo< 。ループはトリプルだけでなくダブルまでアンダーローテーションを取られている。 1位になったロシアのタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手は、オープニングに3ルッツ+2トゥループ+2ループの3回転ジャンプを跳んだが、最後のループは明らかにトゥループより高く上がり、「跳んでから回る」の意識がはっきりしていた。ジャッジングにもそれは反映され、回転不足判定なしにGOEプラスがつき、基礎点9.10点に対し、9.90点を稼いでいる。 村上選手の3連続は、せっかく基礎点が上がる後半にもってきても、2つ回転不足判定があったことで、基礎点 6.82 点に対し、GOEはマイナスで5.72点にしかならなかった。後半の3フリップ1つで得た、6.23点(基礎点5.83)という得点のほうが高い。これでは3回ジャンプする意味がなくなってしまう。 ループに頼る「危うさ」はこれだ。3回転ループだけでなく、ちょっと気を抜くと2回転ループもアンダーローテーションを取られてしまう。これは浅田真央選手もそうだった。 3ループから連続にしようとすると、どうしても回転が足りなくなる場合が多い。アメリカ大会の今井選手もフリーで3Lo<+2T、最初の3ループ を取られている。3ループの回転を「抑えず」に連続ジャンプを跳ぶのは難しいということだ。本人は回っているつもりでも、また普通に見て足りていると思っても、ジャッジの目にそう見えなければ意味がない。また連続ジャンプのセカンド以降につけるジャンプも要注意なのだ。長洲選手は3S+2T+2Lo<、3連続の最後につけた2ループで回転不足を取られている。 判定が試合ごとにバラバラで一貫性がない? そんなことはわかっている。バンクーバー五輪のときは、びっくりするほど回転不足判定は甘くなされた。ところが、一転してソチ五輪では非常に厳しかった。 判定に甘い辛いはない、などという絵空事を今さら信じている人もいないだろうが、たとえば太田由希奈氏は、ソチ五輪時に以下のように言っている。 http://sportsspecial.mainichi.jp/news/20140220dde035050038000c.html 今季のグランプリシリーズでは、見ていて「あれっ?」と思うジャンプでも、あまり回転不足と判定されなかったからだ。今五輪では、きっちりシビアに見ていることがわかった。 Mizumizuも同様に思った。団体戦の鈴木明子選手に対する判定の容赦のなさ。逆にグランプリシリーズでは、「えっ、これは大丈夫だったのか(認定されたのか)」と思うジャンプもしばしばあった(もちろん逆に、「えっ、これが回転不足に入るのか?」と思うジャンプもあったが)。 次の五輪がどうなるかはわからない。だからこそ、ソチ五輪と同じようになると考えておいたほうがいい。たまたま失敗したジャンプで回転不足になってしまうのは仕方ないが、しばしば「回ってるつもりで」回転不足になる選手は、つまりそういうクセをもった選手は、今からしっかり対策を取っておかないと、メダルなしに終わったソチ五輪日本女子シングルの二の舞になりかねない。 今季の「E」判定に対する「二重減点」は、平昌五輪までに、もしかしたら緩和されるかもしれない。だが、減点幅が多少緩和されたとしても、採点の流れとして、「正確な技術を評価する」という傾向は変わらないだろう。 不正エッジは、ある程度の年齢になったら矯正するのは非常に難しい。下手したら跳べている逆エッジ踏切のジャンプまで跳べなくなってしまう。回転不足もクセの部分が多いようで、連続ジャンプにするとファーストジャンプを「抑え気味」に降りてしまう選手や、セカンドに3回転をつけるとどうしても降りてから回ってしまう選手は、何度やっても何年頑張ってもそうなりがち。それに対する技術審判の回転不足判定が正しいか否か、一貫性が常にあるか否かは、また別の問題だ。 「正確な技術を評価する」という流れが変わらない以上、見えてくる平昌五輪の女子シングル女王の条件は、バンクーバー&ソチと変わらないことになる。トリプルルッツのエッジ違反がなく、セカンドに跳ぶ3回転(事実上それはトゥループしかないことになる)を回り切れる選手。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.13 06:30:47
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